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くまこのくまの庭 〜蜜の幸せを探そう〜

小説家・南部くまこの公式サポーターズサロンです。 オリジナルの百合小説や既存作品のSSのほか、執筆の舞台裏や、ゆるりとしたプライベート日記などなどを配信します。 占星術や天然石の…
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#百合ナース

[SS最終話] 百合ナース! 〜ジェラシー〜 [サロン連載]

[SS最終話] 百合ナース! 〜ジェラシー〜 [サロン連載]



満開の桜の花の夢を見た。

春の陽射し。視界いっぱいの薄いピンク色。

きっと優花さんは桜が好きだと思う。

夢の中で優花さんは笑ってた。

あたしも笑っていた。

優花さんは缶チューハイを、あたしは桜の花びらが浮かんだあったかいお茶を飲みながら、二人は満開の桜を見上げて笑っていた。

幸福な画像がふいに歪んで、あたしはあわてて目をこらす。

まだ消えてしまわないで。

せめて、夢のなかだけで

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[SS第5話] 百合ナース! 〜ジェラシー〜 [サロン連載]

[SS第5話] 百合ナース! 〜ジェラシー〜 [サロン連載]

「絶対やってるよ、あの二人」

レイナは断言した。

放課後に久しぶりに遊びに来たレイナの部屋。

あたしは正直言ってへこんでいた。

「あの人、嘘つくと鼻の上に皺が寄るの。だから、すぐわかる」

「……思い込みはよくないよ」

「何もないよって言った時、思いっきり皺、よってた」

「……信じようよ、レイナ」

優花さんと先輩は、先輩が回してる二丁目のクラブで知り合ったってことだった。

……それ

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[SS第4話] 百合ナース! 〜ジェラシー〜 [サロン連載]

[SS第4話] 百合ナース! 〜ジェラシー〜 [サロン連載]

週末、レイナから「ごはん食べよー」と電話が入った。

やたら、ご機嫌な声。

どうやらカノジョさんと一緒にいるらしい。

レイナのカノジョはうちの学校の先輩で、いまはセミプロのミュージシャン……っていうんだろうか。ちょっとしたハコでライブをしたり、二丁目のクラブでDJなんかもやっていて、地元ではわりと人気があった。

気さくな人だけど、正直いって、あたしにはかなりチャラく見える先輩だ。

音楽性と

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[SS第3話] 百合ナース! 〜ジェラシー〜 [サロン連載]

[SS第3話] 百合ナース! 〜ジェラシー〜 [サロン連載]

「22でしょ? そりゃ前のヒトくらいいるよ」

レイナが呆れた声を出した。

あれから不眠症気味のあたし。

トボトボ歩くあたしの手を引いてくれるレイナ。

いつもいつもすいませんねぇ……

「今日は病院の日?」

「うん」

「じゃあね。また入院しないでよ」

「おー……」

自信ない。

いつか優花さんにジュースをおごってもらった外来のソファに腰かけて、名前を呼ばれるのを待ちながら、あたしはた

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[SS第2話] 百合ナース! 〜ジェラシー〜 [サロン連載]

[SS第2話] 百合ナース! 〜ジェラシー〜 [サロン連載]

彼女の部屋にはプレステがない。

土曜の昼なんて、テレビもロクなのやってない。

本とか好きに読んでいいよと言われても、看護の専門書か、ぜんぜん趣味の違うファッション誌、それかあたしが苦手な恋愛小説ばっかで、いまいち手を伸ばす気になれず困ってしまった。

約束の時間が過ぎても、優花さんは帰ってこない。

鍵は置いてってくれたし、自由に出かけていいんだけど、あたしはなんだか部屋から動けなくて閉じこめ

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[SS第1話] 百合ナース! 〜ジェラシー〜 [サロン連載]

[SS第1話] 百合ナース! 〜ジェラシー〜 [サロン連載]

「まさか、みなみがあのヒトとつきあうなんてねー」

「あのヒトとか言わないでよ。ちゃんと優花さんって名前があるんだから」

「はいはい。ナースの優花ちゃんでしょ。なんか、やーらしー」

「なんでよ!」

学校からの帰り道。

レイナは、飽きもせずに何度でもあたしを冷やかす。

仕方ない。あたしはさんざんレイナを追いかけてたんだから。

あんなにぐちゃぐちゃしてた気持ちが、すうっと溶けたことに自分で

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[第12話] 百合ナース! 〜かわいいあの子〜 [サロン連載]

[第12話] 百合ナース! 〜かわいいあの子〜 [サロン連載]

まったく高見沢先生の能天気ぶりには呆れちゃうけど、おかげで落ち込んだ気持ちが上向きになったのは事実。

なんだかんだ言ってかまってくれるのが、あの人流のやさしさなのかもしれない。

夜勤明けの朝の空気に、吐く息が白い。

不規則なシフトにも慣れてきた。

もう一年以上、恋人がいないことにも。

「ふふっ」

うつむいてマフラーに顔を埋める。

18年間ずっと恋人がいなくて当たり前だったのに、一度恋

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[第11話] 百合ナース! 〜かわいいあの子〜 [サロン連載]

[第11話] 百合ナース! 〜かわいいあの子〜 [サロン連載]

「見ーたーでーーーーーー」

ナースセンターに戻ってじゃぶじゃぶ顔を洗っていると、背後から、いじわる~な声が聞こえてきた。

「高見沢先生、今日宿直だったんですか」

「わっ、キッチンペーパーで顔とかふかんといて。イメージ、くずれるわぁ」

「ほっといてください」

優花ちゃん、かわいかったのになーとかなんとかブツブツ言う高見沢先生に、ツーンとして見せる。

別に怒ってるわけじゃないけど、ちょっと

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[第10話] 百合ナース! 〜かわいいあの子〜 [サロン連載]

[第10話] 百合ナース! 〜かわいいあの子〜 [サロン連載]

夜勤で良かった。懐中電灯で足元を照らしながら、そう思う。

昨日よりはだいぶん落ち着いたけど、油断すると涙があふれる。

ほら、こんなふうに、空っぽになったおばあちゃんの病室の前を通ったりすると。

おばあちゃん、苦しかったかなあ。

ごめんね。ごめんね。気づいてあげられなくって私。

こすると目が腫れちゃうから、私は涙をほったらかしておく。

それがいけなかった。こんな真夜中でも、患者さんが起き

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[第8話] 百合ナース! 〜かわいいあの子〜 [サロン連載]

[第8話] 百合ナース! 〜かわいいあの子〜 [サロン連載]

「みなみちゃん?」

時刻は、深夜十一時。消灯時間はとっくに過ぎてる。

なのに、隣の病棟に続く渡り廊下の窓際に、背の高い人影を見つけた。

ぼんやりと外を眺めていたらしいみなみちゃんの手にはスマートフォン。

私が来たのに気がつくと、それを隠すようにさりげなく後ろにまわした。

「またLINEしてたのね?」

「……すいません」

「眠れないの?」

みなみちゃんが困ったように頷

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[第7話] 百合ナース! 〜かわいいあの子〜 [サロン連載]

[第7話] 百合ナース! 〜かわいいあの子〜 [サロン連載]

♪くたばっちまえ、アーーーーーーーーーメン!!!

ふう、名曲すぎるわ、ウエディングベル。

それにしても、私ってなんて報われないのかしら。

初恋は無残に敗れ、次に好きになりかけた先輩は結婚し、かわいい患者さんと仲良くなってやっと忘れられそうと思ったら、その子は同級生の美少女にゾッコンだなんて。

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