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南部くまこ
2019年11月8日 00:44
満開の桜の花の夢を見た。春の陽射し。視界いっぱいの薄いピンク色。きっと優花さんは桜が好きだと思う。夢の中で優花さんは笑ってた。あたしも笑っていた。優花さんは缶チューハイを、あたしは桜の花びらが浮かんだあったかいお茶を飲みながら、二人は満開の桜を見上げて笑っていた。幸福な画像がふいに歪んで、あたしはあわてて目をこらす。まだ消えてしまわないで。せめて、夢のなかだけで
2019年10月30日 22:42
2019年10月23日 10:13
「絶対やってるよ、あの二人」レイナは断言した。放課後に久しぶりに遊びに来たレイナの部屋。あたしは正直言ってへこんでいた。「あの人、嘘つくと鼻の上に皺が寄るの。だから、すぐわかる」「……思い込みはよくないよ」「何もないよって言った時、思いっきり皺、よってた」「……信じようよ、レイナ」優花さんと先輩は、先輩が回してる二丁目のクラブで知り合ったってことだった。……それ
2019年10月16日 12:06
週末、レイナから「ごはん食べよー」と電話が入った。やたら、ご機嫌な声。どうやらカノジョさんと一緒にいるらしい。レイナのカノジョはうちの学校の先輩で、いまはセミプロのミュージシャン……っていうんだろうか。ちょっとしたハコでライブをしたり、二丁目のクラブでDJなんかもやっていて、地元ではわりと人気があった。気さくな人だけど、正直いって、あたしにはかなりチャラく見える先輩だ。音楽性と
2019年10月9日 13:43
「22でしょ? そりゃ前のヒトくらいいるよ」レイナが呆れた声を出した。あれから不眠症気味のあたし。トボトボ歩くあたしの手を引いてくれるレイナ。いつもいつもすいませんねぇ……「今日は病院の日?」「うん」「じゃあね。また入院しないでよ」「おー……」自信ない。いつか優花さんにジュースをおごってもらった外来のソファに腰かけて、名前を呼ばれるのを待ちながら、あたしはた
2019年10月2日 15:42
彼女の部屋にはプレステがない。土曜の昼なんて、テレビもロクなのやってない。本とか好きに読んでいいよと言われても、看護の専門書か、ぜんぜん趣味の違うファッション誌、それかあたしが苦手な恋愛小説ばっかで、いまいち手を伸ばす気になれず困ってしまった。約束の時間が過ぎても、優花さんは帰ってこない。鍵は置いてってくれたし、自由に出かけていいんだけど、あたしはなんだか部屋から動けなくて閉じこめ
2019年9月25日 00:00
「まさか、みなみがあのヒトとつきあうなんてねー」「あのヒトとか言わないでよ。ちゃんと優花さんって名前があるんだから」「はいはい。ナースの優花ちゃんでしょ。なんか、やーらしー」「なんでよ!」学校からの帰り道。レイナは、飽きもせずに何度でもあたしを冷やかす。仕方ない。あたしはさんざんレイナを追いかけてたんだから。あんなにぐちゃぐちゃしてた気持ちが、すうっと溶けたことに自分で
2019年9月18日 14:58
まったく高見沢先生の能天気ぶりには呆れちゃうけど、おかげで落ち込んだ気持ちが上向きになったのは事実。なんだかんだ言ってかまってくれるのが、あの人流のやさしさなのかもしれない。夜勤明けの朝の空気に、吐く息が白い。不規則なシフトにも慣れてきた。もう一年以上、恋人がいないことにも。「ふふっ」うつむいてマフラーに顔を埋める。18年間ずっと恋人がいなくて当たり前だったのに、一度恋
2019年9月11日 00:22
「見ーたーでーーーーーー」ナースセンターに戻ってじゃぶじゃぶ顔を洗っていると、背後から、いじわる~な声が聞こえてきた。「高見沢先生、今日宿直だったんですか」「わっ、キッチンペーパーで顔とかふかんといて。イメージ、くずれるわぁ」「ほっといてください」優花ちゃん、かわいかったのになーとかなんとかブツブツ言う高見沢先生に、ツーンとして見せる。別に怒ってるわけじゃないけど、ちょっと
2019年9月4日 00:00
夜勤で良かった。懐中電灯で足元を照らしながら、そう思う。昨日よりはだいぶん落ち着いたけど、油断すると涙があふれる。ほら、こんなふうに、空っぽになったおばあちゃんの病室の前を通ったりすると。おばあちゃん、苦しかったかなあ。ごめんね。ごめんね。気づいてあげられなくって私。こすると目が腫れちゃうから、私は涙をほったらかしておく。それがいけなかった。こんな真夜中でも、患者さんが起き
2019年8月28日 12:17
2019年8月21日 14:11
「みなみちゃん?」 時刻は、深夜十一時。消灯時間はとっくに過ぎてる。 なのに、隣の病棟に続く渡り廊下の窓際に、背の高い人影を見つけた。 ぼんやりと外を眺めていたらしいみなみちゃんの手にはスマートフォン。 私が来たのに気がつくと、それを隠すようにさりげなく後ろにまわした。 「またLINEしてたのね?」 「……すいません」 「眠れないの?」 みなみちゃんが困ったように頷
2019年8月14日 14:00
♪くたばっちまえ、アーーーーーーーーーメン!!!ふう、名曲すぎるわ、ウエディングベル。それにしても、私ってなんて報われないのかしら。初恋は無残に敗れ、次に好きになりかけた先輩は結婚し、かわいい患者さんと仲良くなってやっと忘れられそうと思ったら、その子は同級生の美少女にゾッコンだなんて。
2019年8月7日 16:00