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竹芝着発

 今回はいよいよ航路について、表題の「竹芝着発」というものを紹介していこうと思います。厳密には着発は同じ船の折返しにそのまま乗るものですが、今回紹介する竹芝着発は、ヴァンテアン号からさるびあ丸に乗り継ぐという行程です。


全行程4時間超のクルージングツアー

 クルージングツアーと言えば聞こえはいいですが、実態はひたすら無を生産する船好きのためのプランです。まずはそのスケジュールについて見てみましょう。

18:50 ヴァンテアン号ディナー便 乗船開始
19:20 ヴァンテアン号ディナー便 竹芝桟橋出港
21:00 ヴァンテアン号ディナー便 竹芝桟橋着岸
21:40 さるびあ丸3000便   乗船開始
22:00 さるびあ丸3000便   竹芝桟橋出港
23:20 さるびあ丸3000便   横浜大さん橋着岸

 ヴァンテアン号はレストラン船ですが、Aデッキ滞在の乗船のみも可能でした。乗船料は2040円で船内を最大2時間30分利用することができます。(乗船案内は個室、レストランが優先のため一番最後になります。)料金についても今後の連載で触れることになりますが、東京で2時間程度のクルージングをするとなると、水上バスを乗り続けるなどしてもだいたいこのくらいの相場になると思います。もしくは竹芝客船ターミナル内の飲食店「鼈甲鮨」にて毎月21日に来店をするとペアの乗船招待券がもらえるので、これを利用すればタダで乗船することができます。

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鼈甲鮨でもらえるご乗船招待券

 2船目となるさるびあ丸(ここでは退役した2代目)は、東京湾納涼船の設定がない10月から翌年6月まで、金・土曜日に就航する島向けの便に限り横浜大さん橋へ寄港します。竹芝から横浜までの乗船も可能ですので、これを利用することになります。運賃は2020年11月現在のものですが、下記のとおりです。

2 等:1400円
特2等:2100円
1 等:2800円
特1等:3350円
特 等:3910円

 またこちらは定期航路ですので各種割引の適用を受けることも可能です。横浜までの場合、基本的にデッキで過ごすことが多いと思いますので、2等で充分かと思います。(ブルジョワ層を除く)

一船目:ヴァンテアン号ディナー便

 ヴァンテアン号に勤めていた当時、この竹芝着発を何度か行いました。ヴァンテアン号の乗船については仕事だったのであくまでイメージですが、竹芝着発の追体験のようなものをしていただければと思います。

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ターミナル改装前のヴァンテアン窓口

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ターミナル改装後のヴァンテアン窓口

 18時50分の乗船開始までに桟橋内の東京ヴァンテアンクルーズカウンターにて乗船券の購入、引き換えを行います。インターネットで予約をした場合も必ずここで乗船券と引き換える必要があります。ダイレクトで来てしまう方もそこそこの頻度でいらっしゃいました。購入の場合は、乗船のみなどと伝えると手配をしてもらえます。

 乗船は場合によりますが部屋別に順番で案内されます。順にエメラルドやビーナスなどの個室から、ピア、リヴァージュなどのレストラン、最後に乗船のみの順で案内が始まります。船内通路はそこまで広くないので、なるべく効率よく乗船していただくために部屋ごとで順番を組んでいます。

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奥:A-3乗船口 手前:A-2乗船口

 乗船は基本的にA-3乗船口ですが、A-3が使えない場合はA-2から乗船することになります。橘丸が就航する前はA-2が基本だったといいます。

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竹芝客船ターミナルのボーディングブリッジ

 国内のレストラン船としては唯一のボーディングブリッジを通っての乗船です。乗船口では副総支配人、副支配人、船長など、いずれかの重要なポストに就いている乗組員が出迎え、乗船券の改札をします。乗船したら目の前の階段を上がり、Aデッキへ向かいます。食事の予約をした場合は乗船券に表示された部屋へ向かいます。レストランの場合、各レストランの入口でフロアマネージャーが席の確認を取り、案内をします。

 時期にもよりますが海上を航行するので、吹きさらしのオープンデッキは風が強いことが多いです。夏は日中こそ直射日光を受け暑いですが、ディナーは日没後なのでちょうど良いくらいかと思います。気をつけなければならないのは冬で、もともとの気温の低さに強風が相まって体温を奪いにかかってきますから、防寒対策は万全に臨みましょう。
 とは言っても、設計段階で夏暑く冬寒いというのは想定済みで、カフェカウンター併設のハウスが設けられています。扉を閉めれば風も入って来ず、ヒーターも完備されているので、ここで過ごす方が落ち着くかと思います。就航当時の乗船記には、「取ってつけたようだ」など批評もありましたが、実際初期のイメージ図にはこのようなハウスはありませんでしたので、こう言った意見が出ても仕方ない節もあります。レストラン船という性質上飲食物の持ち込みは難しくなりますが、その代わり乗船のみでもカウンターからフロント宛にドリンクなどの注文は行えます。

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前方オープンデッキ(トワイライト便の景色)

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後方オープンデッキ

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ハウス内のヒーター

 羽田沖を旋回するまではほとんど貸切状態なオープンデッキですが、折り返しの頃になるとレストランで食事を終えたゲストが船内の散策を始めるので、日によっては混雑するようになります。特にクリスマスシーズンは、我々写真屋も5人体制で臨むくらいゲストが乗船するので、手すりやベンチはカップルで埋め尽くされます。そこで比較的穴場となるのが、DデッキのシーサイドデッキUGEN・SAGENです。雰囲気的に「ここ降りてもいいのかな?」と思われがちですが、貸切時など本当に降りてはいけない時はロープパーテーションが置かれます。プレンメールにも人が入っている場合はこちらも混み合いますが、オープンデッキよりは空いている傾向にあるかと思います。ただし、レインボーブリッジより北では出港、着岸作業による危険があるので、その際は立ち入りが禁止になります。

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シーサイドデッキ(トワイライト便の景色)

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ヴァンテアンから見るレインボーブリッジ(12月限定のイルミネーション)

 着岸時前方ではジョイスティック操船を間近に見ることができる他、後方でもレット投げなどを眼下に望むことができます。この時間にジェット船が来ることはありませんが、シーズンによっては下船口が混み合うので、次の乗船券を確保していない場合は少し早めにBデッキに降りておきましょう。ボーディングブリッジが使えない場合は、下船口がCデッキになります。

 竹芝桟橋着岸は、21時20分。次のさるびあ丸の乗船開始は20分後なので、ここからは乗船券の引き換えや購入を済ませていないと少し慌ただしくなります。私の場合はこのあと締め作業などもあるのですが、着発の際ばかりはなるだけ出来ることは済ませ、他のスタッフに引き継いで乗船券発売所に駆け込んでいました。

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ヴァンテアンと並ぶさるびあ丸

2船目:さるびあ丸3000便

 先にも述べましたが、竹芝発島行きの横浜寄港は東京湾納涼船期間外かつ金曜日と土曜日のみです。日曜日の運航がない点に注意しましょう。発券の際は横浜まで、何も言わなければ2等和室なり座席が割り当てられますが、この区間でも等級は選べるので、希望があれば併せて伝えます。支払いと発券を済ませたら右端のピンクの乗船票に記入を忘れずに。酔い止め薬や酒の買い出しならターミナル内のショップ竹芝か信号の向かいにあるファミリーマート+南山堂などがあります。

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ショップ竹芝(ヤマザキYショップ/ターミナル改装当時)

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ファミリーマート+南山堂竹芝駅前店

 乗船口は大体A-1ですが、Pバースが埋まっている場合さるびあ丸はOバースに入るので、B-1になります。ヴァンテアン号と違い等級別の乗船ではなく、乗船列に並んでいた順の乗船なので、確保したいスポットがあるなら早めに並んでおくに越したことはありません。

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A-1乗船口

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B-1乗船口

 潮の満ち引きによって乗船デッキは異なり、A-1サテライトのボーディングブリッジ使用の場合はAデッキもしくはBデッキ、B-1乗船口からタラップ使用の場合はCデッキからの乗船になります。出港前後の外部デッキはそれなりに賑わいを見せます。

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Aデッキに接続されたボーディングブリッジ

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出港5分前に銅鑼を鳴らす様子

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船内中央部にある階段

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出港前のサニーガーデンの様子

 出港5分前には銅鑼が鳴らされます。ヴァンテアン号にも銅鑼はありますが、鳴らす時と鳴らさない時があります。(というか晩年はほとんど鳴らしていませんでした)さるびあ丸などの定期航路では必ず鳴らします。大きな音が苦手であれば身構えておきましょう。鳴らし方のパターンにも注目です。

 出港時はフリーBGMの「爽やか」というアップテンポな曲と共に動き出します。右舷にはヴァンテアン号、竹芝、浜松町のビル群や東京タワーなども臨めます。羽田まではヴァンテアン号と変わらぬ東京港の景色を楽しむことができますが、生活航路とあってスピードは段違いです。

 千葉側に海ほたるPAの灯りを見る頃にはD滑走路を過ぎて川崎港の工業地帯が見られます。この辺りではたまに煙突からべらぼうに大きな炎が出ていることがあります。これは余剰・廃ガスが燃やされており、これらを無害化した上で大気に排出するフレアスタックという処理です。大規模なものだと市民からの119番が相次ぐ騒ぎになりますが、火事ではありません。工場が非常停止するなどして、排出しなければならないガスが大量にある場合このように盛大なフレアスタックが見られます。これは体感ですが、比較的冬によく見られたように思います。

東京都大田区 東京国際空港 C

激しいフレアスタックの様子

 鶴見沖まで来ると、徐々に岸が近くなり、横浜港へ入って行きます。左手の信号を出している塔は横浜港シンボルタワー、本牧ふ頭。右手には大黒ふ頭を見ながら、第二の橋横浜ベイブリッジを潜ります。この辺りで下船の支度を始めましょう。恐らく横浜で降りる人は他にいたとしても1人くらいです。逆に横浜から島へ向かう人はそこそこいるので、下船開始と同時に降りられるようにする必要があります。

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鶴見沖から見る鶴見つばさ橋~みなとみらいの夜景

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横浜ベイブリッジ

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横浜大さん橋着岸の様子

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大さん橋から島へ向かう多くの乗船客

 大さん橋に着岸しても気を緩めるのはまだ早いです。最終電車の時間が迫っています。特に土曜日、京浜東北線北行の赤羽行きは関内23時55分発、みなとみらい線急行渋谷行きは日本大通り0時2分発とあまり余裕がありません。横浜に一泊するのでなければ、出港作業を見物するのは程々にして駅へ急ぎましょう。

新たな限界行程
「日の出竹芝乗り継ぎ」

 さて、乗っている間は幸せだけど、最初以外は慌ただしい竹芝着発をご紹介しました。ヴァンテアン号がいない今では残念ながらもうできませんが、擬似体験ならシンフォニーのディナークルーズを利用する手もあります。ただこちらはゲートブリッジを経由する2時間半のクルーズで、日の出桟橋21時30分着(場合によっては21時40分着)と、ヴァンテアン号以上に余裕が無い上乗船料も4000円と高くなるため、催行の際は自己責任でチャレンジしてみてください。
※来春のダイヤ改正より、各社線終電が繰り上げられます。終電の時刻もあらかじめ確認をしましょう。

 本誌ではヴァンテアン号に乗船した際の乗客目線での写真も募集しています。船内の写真、料理の写真、名所の写真などありましたらお寄せください。ご協力頂いた方々に対しまして、PDF形式での献本、印刷版の割引頒布をさせていただきます。情報提供、写真の掲載をして頂ける方は、Twitterもしくはメール[nokuchi201@gmail.com]にてご連絡をお待ちしております。

ヴァンテアン号航路の細かい名所については、また改めてダイヤと絡めてご紹介していきたいと思います。

 




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