【精神#7】思考をコントロールするテクニック
思考は人間のみにおいて発達した大脳新皮質の機能であり、作用です。
大脳新皮質は
の順に発達してきたので、発生学的に脳の中でも最も新しいものです。
私たちが脳の絵をイメージして描くとき、ほとんどの人は表面にシワを描くのではないでしょうか?
その部分が大脳新皮質です。
昔から「頭がいい人はシワの数が多い」といわれてきましたが、それは迷信だったようですね。
大脳新皮質には情報の伝達と処理に特化したニューロンと呼ばれる神経細胞が集まっており、私たちが知覚したものはニューロンからニューロンへと伝えられ、処理されます。
人間はこの大脳新皮質が極端に発達し、実に大脳の九〇%を占めており、頭が良くて人間に一番近いといわれるチンパンジーの約三倍です。
絶滅した者、生き残った者
大脳新皮質(図07)は脳自体の容積が小さい間は発達しないといわれており、一説には七百ccが境界線だといわれています。
猿人と呼ばれるアウストラロピテクスは後期には二足歩行をしていましたが、脳の大きさは私たちの三分の一、チンパンジー程度しかなく、彼らは生き残ることができなくて絶滅してしまったため直接の私たちの祖先ではありません。
人類の祖先はホモ(人類)属と呼ばれていますが、一時期ホモ・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)とホモ・サピエンスという二種類のホモ属が同時期に共存していました。
人類がいつから火を使い始めたのかをはっきりと証明することは困難ですが、この時代には暖をとる、調理をするなどの目的で火を使っていたといわれています。
狩猟、採集生活をしていたこの時代、どんぐりを採ってきた誰かがそのどんぐりを焚き火の中に落としてしまったとしたら?
それまで生で食べていたどんぐりが熱せられることによって糖質が発生し、より高カロリーになります。
また獣肉も火を通すことによって消化吸収が高まり、より効率的なエネルギー源となります。
このように栄養状態が向上したことが脳の発達を促したのではないでしょうか。
しかしネアンデルタール人もまた絶滅してしまいます。
ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの体格はほぼ同等で脳の大きさも変わりませんが、なぜホモ・サピエンスだけが生き残ったのでしょうか?
それはホモ・サピエンスは大脳新皮質がより発達していたからだという説があります。
ホモ・サピエンスのサピエンスはラテン語で「賢い」とか「思考する人」という意味があり、思考という行為を持つか持たないかがその後の運命を分けたのかもしれません。
人間らしく思考する脳である大脳新皮質が発達することにより、ホモ・サピエンスは自我、理性、言語、認識といったものを獲得していきました。
そしてそれらが高度な社会性や目に見えないものをイメージする力を育てていったのです。
目に見えないものを信じる力 ネアンデルタール人もまた、死んだ仲間を埋葬する、自らに装飾を施す、グループで狩猟を行うなど、限定的ではありますが社会性はありました。
しかし彼らのグループはホモ・サピエンスに比べて小規模であり、彼らの興味の対象はあくまでも目で見て触れることができる、実在するものに限られていました。
仲間の死や狩るべき獲物はそこに実在します。
たとえば彼らは現代の私たちのようにそこにいない人の陰口を叩くということはなかったのではないでしょうか?
今そこにないもの、目に見えない対象に対して思考することは、神話や神、宗教の概念を生み出します。イメージする力ですね。
そのイメージする力の根源になるものが、言語です。言語によってある概念が多くの人に共有されて形を持っていくのです。
それをビジュアライゼーションといいます。
ネアンデルタール人がどれほどの言語能力を持っていたのかははっきりとはわかっていませんが、骨の形から現代人のように複雑で多様な音を出すことは不可能だったのではないかと推察されます。
彼らは極めて初歩的な会話しかできなかったことでしょう。
絵を描くことはできても、イマジネーションの力が限られていたため、実在しないものや概念を共有し、価値観を同じくする社会性を持つのは難しかったのです。
となると必然的にコミュニティグループも小さいものにとどまります。
そういった小規模な集団では、リーダーとなるのは他人よりも速く長く移動できたり多くの食物を手に入れたりすることができる存在、何かトラブルがあったときに力ずくで相手を屈服させることができる存在、つまり若くてフィジカルが強い者になります。
一方社会性があって言語によるコミュニケーションが活発なグループでリーダーになるのは、イメージ力が強い人間です。
夢やビジョンを持って他人に言語で伝えることができる人がリーダーになるのです。
ウォルト・ディズニーやスティーブ・ジョブズ、優れた政治家などの言葉によって人々は同じイメージを共有し、未来を描きます。
小さなコミュニティでは爆発的な人口増は望めないため、病気や災害などがあれば集団ごと消滅してしまうこともあります。
ネアンデルタール人が絶滅し、ホモ・サピエンスが生き残った違いはこんなところにあるのではないでしょうか。
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