どうなりたい? 短編小説

 あなたは何になりたかった?
 

「皆、夢はあるかい?」
ある教師に言われた。僕はその教師が嫌いだった。 大人のくせに夢みがちで痛々しく思えた。 僕の方がよっぽど大人だと自負している。
「俺はねぇ…」とその教師は聞いてもいないのに言葉を続ける。 はぁ、またはじまった。皆そう思っているだろう。 あるときは宇宙飛行士、また、あるときはサッカー選手またまたあるときは、etc…聞くたびに違う夢を語っている。 
少年のようにまっすぐな目で、年相応の豊富な知識を持って夢を語る。ただ、どれもあの時こうすれば。とか、そういう話ではなく、現在進行形で夢を語る。 その眩しさも嫌いな要因のひとつで、悔しいが少し羨ましくもあった。
 進路に迷ったときなぜかその教師に、相談したことがある。 「なぜそんなに夢があるのに、教師を選んだんですか?」
すると、きょとんとした顔で「そんなもん、一番なりたかったからに決まってるじゃないか。君はおもしろいこと聞くね。」と言われた。わからなかった。続けて「だって宇宙飛行士とかの方が…」とすごく失礼なことを言いかけてやめた。「まぁ、君の言いたいことはわかるよ。給料は安いし、休みはないに等しい、おまけにモテない。」 最後のは個人の問題では?と思ったが、飲み込んだ。
教師は続けて「でもね。俺は自分が輝くより、自分が見る世界が輝いていてほしいんだ。キレイなものは見るだけで充分なんだよ。おじさんは。」と少し寂しそうに笑った。「こんな気持ちは、わからないでいてくれよ。」と言い残し職員室に戻って行った。
 少しわかってしまった。「キレイなものはみてるだけで充分」この言葉が呪いのように刻まれている。
 先生はあの時こんな気持ちだったのかな? そう思い、今日も僕は問いかける。
   
 「皆、夢はあるかい?」


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