ありがとう『逃げ上手の若君』ありがとう


 ハローこんにちは、『逃げ上手の若君』アニメ観ました!!!?なまむぎなまこです


 公式サイトのリンクを埋め込んでもいいのか悩みましたが、確認した限りnoteの規約違反ではないようなので怒らないでください。この感想記事は不健全なモノではありません。偉い人に怒られたら即座に記事ごと消しますけどね!

 『逃げ上手の若君』は、鎌倉時代最後の執権・北条高時の次男である北条時行(ほうじょうときゆき)を主人公に、彼の人生を追う物語です!(今のところは)
 日本史を選択した人でも、「北条時行」を覚えている人は少数派ではないでしょうか。そもそも、舞台となっている鎌倉時代末期〜南北朝がとてもマイナーな時代です。足利尊氏ならかろうじて覚えているよ!という人が多数派かと思います。

観て。めっちゃ面白いから。原作買っちゃったもん、お金ないのに。

  なんでかっていったらさあ、まず私の自分語りを聞いてくれよ。

 私、大学院まで『太平記』の研究をしていたんですよ。
 そうです、『逃げ上手の若君』の舞台となった時代、南北朝の戦乱当時に書かれたとされている軍記物語、『太平記』です。
 南北朝の文学といえば『太平記』といっても過言ではない、当時の歴史に即した面の大きい軍記物語です(このへんは分類にいろいろ項目があるのですが、軍記物語は歴史書ではありません。簡単に言うと、「語り手」を意識し、ドラマチックに書いたろ!脚色したろ!という意識のもとで書かれた、娯楽作品やフィクションという分類です 詳しく知りたい人はググってね)
 『太平記』を研究しようと思ったのは、別に『太平記』が好きだからではなかったのです。
 本当は古代中国文学(以下、漢籍)をやりたかったのですが、その大学で『三国志』にいちばん詳しい教授が日本文学におり、あとぶっちゃけ「日本文学の中の漢籍を研究する方が楽そうじゃね?」という計算がありました。日本文学における初期の漢籍を研究するのには、『太平記』はうってつけだったのです。吉川英治氏の小説、『私本太平記』は愛読書の一つでしたし、「まあいけるっしょ」という甘い考えがありました。

 楽な道を選ぶなど学徒の自負はあるのか、とお怒りの方にはご安心していただきたいのですが、低きに流れた水がやがては澱むように、私は甘い考えのためにその後大層苦しむことになりました。

私は一色右馬介(いっしきうまのすけ)が推しなのに『太平記』にはいねえじゃねえか……(※吉川英治氏の創作オリジナルキャラクターだと後に気づく)
 ていうか全体的に意味わからん……え、尊氏勝ったのこれ……?なんで……?今誰が勝って誰が負けてたっけ……??なんで天皇が二人いるんだよ……時代も戦いも複雑すぎてわけわかんねえ そもそも作者もわかんねえし誰がどの立場で書いてるんだよ 仏教の話と怪異の話がややこしくていやだあ 
 いや尊氏おまえ何回裏切ってんだよ

簡単に言うとそんな感じで、私は『太平記』に全然ハマりませんでした。ハマらずとも、もう研究テーマを提出しているわけで、ということはそれで卒論を書かないといけないわけで、イヤイヤ書いたものは大爆死して当然なわけです。

死にてえ、と半ば本気で思いながら就活も爆死し、私は大学院に進みました。クソ不貞腐れた舐め腐り小僧でした。

で、色々あって(過去の記事をご参照ください)休学して、復学して、書き上げた修士論文は悪くはない、まあ言わせていただくと、卒論とは天と地の差ぐらいある良い評価をもらって修了しました。

 卒論の時は教授に頭を抱えさせほとんど泣かれましたが、修論の時は「ま、いいでしょう」と微笑んでいただけ、修了式では「本当は修了生代表としてみんなの前で賞状を受け取る筈だったのにねえ」(コロナ禍真っ只中でした)と言われたので、そういうことにしましょう。

 嬉しかったです。『太平記』というテーマは変わらずとも、一度はダメになったクソ不貞腐れ舐め腐り甘っちょろ天狗ガキの自分を見つめ直して、殻を破って、努力してなんとか立て直せたのが。復学してイキイキと研究を始めた私を見て、何人かの教授に「もうダメかと思ったけどどうやって持ち直したの?」と聞かれました。大学院生の失踪率はまあまあ高いです(※体感)
 休学中にいろいろあったんです。過去記事に書いたっけ……需要があればどうやって立ち直ったかを記事として書きますが、その話はまた今度。

 そんなわけで、『太平記』は私の苦しみと喜びの象徴なんですよ。私にとっては。
 でも研究の世界を離れて数年、一度たりとも『太平記』や自分の研究ノート、論文を読み返す気にはなれなかった。
 地獄の苦しみも、向き合うことで得られた評価も、評価された喜びも、いろんな感情が詰まりすぎていて、社会人になる道を選んだ私にとっては、どの記憶も呼び起こされることがつらかったのです。
 本当は博士課程で研究を続けたかった。休みがなくても給料がもらえなくても、文学の世界へまっしぐらに入っていくことは、終わりがなくてやり甲斐があって、楽しくてしょうがなかった。
 でも、日本では文系、わけても文学の研究を志すのはお金がかかることなのです。お金だけではありません。莫大な時間も、なんの保証もない世界へと捧げなければ研究の徒にはなれません。博士課程に行ったからといって大学教授に必ずなれるわけではなく、なれなければ何の安定も得られずにただ歳をとった文学に詳しい高学歴として社会に出ていくしかないのです。
 わかります?この恐ろしさが。

 今は楽しくても、十年後は?
 そもそも学費をどうする?
 もうすでに奨学金は何百万円だ?
 これ以上借りても返せないんじゃないか?
 実家なんて当然頼れない、修士課程だって学費全額免除で入ったから許してもらったようなものなのに。
 つまるところ、私には覚悟がありませんでした。

 さて、疲れ果てた公務員の私にとってはもう研究の世界は遠い世界の思い出で、あとはもういつか忘れ去るだけの過去でした。

 そんな中、『逃げ若』のヒットがぽつりぽつりと耳に入りました。面白いらしい。南北朝が舞台で。中先代の乱を描くらしい。北条時行が主人公らしいよ。足利尊氏のキャラが革新的でーー 

 目は勝手に情報を追うのに、長いこと、触れる気になれませんでした。

 ふとしたきっかけで、「テレパーティ」(知らない方はググってね)で一緒に何か見よう、と話題になった時、私は反射的に「逃げ上手の若君を観たいです」と言って、友人と共に視聴することになりました。

……めっちゃ動くな……作画いいな……

 まずはアニメとしての評価が好感触で、わくわくと楽しむことができました。
 北条時行が『太平記』においては超重要な人物ではないのも、良かったのかも知れません。

なにこれ面白いじゃん……こんなふうに足利尊氏を、南北朝の争乱を見ることができたんだ……こんなに面白く……こんな視点で『太平記』の世界を見ることが……できたんだ……
あと時行くんかわいいし尊氏すき このビジュアルを思い浮かべながら研究論文読みたかったわチクショウ

 話数を追うごとに、深まっていく面白さに夢中になりました。緊迫感が絶妙で、キャラクターにはみんな個性があり(少年漫画らしい悪役もおり)ストーリーには起伏があって目標があって、コミカルな演出が面白く、ひたむきな努力をする、弱みもある主人公は素直に応援できて、毎回次回への引きが良く、『逃げ若』はいわゆる神アニメというやつでした。最近は吹雪くんが気になっています。
 アニメとしての良さとは別に、
 こんな人いたっけ!?いたわ!いたけどこんな描き方するんかい!目が離せねえ!じゃああの人物はどうなるんだ、早く観てえ〜!!

 と、脳はフル回転でかつて得た『太平記』の知識を総動員し、『逃げ若』をもっと理解するために必死で思い出しながら、わくわくが止まりませんでした。
 そのまま、アニメを一気に7話(当時最新話)まで観ました。
めっちゃくちゃ面白かった!!!!!!歴史モノを、よりにもよって南北朝を、ここまで面白い少年漫画にできるのかと驚きました。あと何回でも言うけどなんだあの色気のある尊氏は!!!!!!!
『太平記』のあの話は描かれるのか!?あの人物はどう登場するんだ!?あ〜〜楠木正成が早くアニメで観たいよお〜〜〜

 と、そんな興奮冷めやらぬまま、私は自分の研究ノートを取り出す気になり、『太平記』に関する資料を引っ張り出しました。
 そのどれもが、色づいて鮮やかに蘇り、「こんなのもあったねえ、アニメだとどう表現するんだろう」と思いながら、「ああ私は頑張ったんだ」と、やっと素直に振り返れました。でも、もっと好きになっていたら、もう少し頑張れたのにな、とも。
 そして今は、いや『太平記』めっちゃ面白いじゃんけ私の目は節穴か?節穴でした
 と猛烈な勢いで自分の過去の研究や『太平記』諸本を読み返しています。
 平たく言うと、めっちゃハマりました。『逃げ若』にも、『太平記』にも。

 ありがとう、逃げ若。
 あなたのおかげで、過去の頑張った自分の残したものが、ただの忘れ去られていくだけの過去ではなくて、もう一度目を通してみても良い、面白いアニメ漫画をもっと楽しむことのできる資料として蘇りました。本当にありがとう!!!!

 あの時の私が欲しかった、研究対象への「好き」が今になって与えられたことには多少複雑な気持ちですが、過去はどうにもならなくても、未来の私がもう一度研究の世界に戻ることがあるとすれば、その背中を押すのは『逃げ若』です。「どうしても好き」という気持ちが足りなくて踏み出せなかった道だから、踏み出す時は、どうしても好きな気持ちで進むでしょう。

みんなも『逃げ若』観よう!!!!めっちゃ面白いから!!!!!時行くんかわいいから!!!!!!!!!!!!!


読んでくれてありがとう!!!!!!!!!!!!逃げ若もありがとう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!私の人生を!!!!!!私が認められるようにしてくれて!!!ありがとう!!!!!!!!!!!!!!!


なまむぎなまこ 拝

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