【手品師10人を取材してみた!第2弾!No.11 黒川智紀さん】

これは、いま気になっている手品師さん10人に、好きなモノや知りたいコトなどをLINEのチャットで40分間取材する企画です!

今回は、マジック界のオリンピックとも呼ばれるFISM2018年の日本代表や、世界各国の国際大会でさまざまな賞を受賞した黒川智紀さんを取材しました。

【黒川智紀さんプロフィール】
 同志社大学生命医科学部卒。ニューヨークの完全招待制コンベンションFFFF 2017出演、FISM WCM 2018―Stage General部門 アジア代表。いろんな国の大会でたくさん受賞。GMA Magic Convention(中国)や新東陽國道清水魔術節(台湾)等のステージコンテストで審査員も務める。現在は演技制作補助や公演裏方など、ひっそりと活動を続けている。

Twitter(黒川智紀):https://twitter.com/omoshiroism
Twitter(ショップ):https://twitter.com/KuroiOmochaBako
Kuro’s Toy Box:https://kurostoybox.thebase.in/


手品をはじめたきっかけはなんですか?
 正直めちゃ普通ですよー。興味を持ったのは中学生の頃です。同級生に手品できる子がいて、見せてもらって、たまに教えてもらって……ってとこから手品と出会いました!ただ、その頃はダブルリフトを知っただけでマジックの全てを知り尽くしたかのようになっている少年でした。ちゃんと始めるキッカケは大学受験前ですかねー。GOD HANDSというTV番組がありまして、そこに加藤陽さんという東京大学の学生でFISMマニピュレーション部門1位を受賞された方が出演されていたんですよ。僕はその演技を見てめちゃくちゃ感動しまして、「僕も大学に入ったらマジックサークルでこれを学ぼう!」って思ったんですよね。翌年、同志社大学のHocus-Pocusというサークルに入部し、加藤陽さんと同じウォンドマニピュレーションを学び、僕の学生マジック生活がスタートって感じです!!

手品と出会ってから(始めてから)どのようなことが変わりましたか?
 手品沼にハマったことで留年したことくらいですかね……。手品と出会わなければ、レールから外れることはなかったと思います……!

手品におけるターニングポイント的なのはありましたか?
 『MAGIPPONグランプリ』っていう身内でやっていた遊びですかねー。みんなで共通のお題を決めて、それに沿ったアクトを創ってきて戦わせる遊びなんですよ。数年前に僕と、菰原くん、井上くん、向井さんの4人でやっていました!お題は同じでもそれぞれが個性豊かな演技を創ってくるので、それはそれは楽しいわけですよ!一応、皆さんFISM代表選手ですしね……!そして、MAGIPPONグランプリは過去に4回開催されたんですが、実は4回とも僕がぶっちぎりの優勝だったんですよね。
そのころから少しずつ気づき始めたんです。「僕は天才なのかもしれない……」って。
まぁ、正しくは僕だけがニートで他の3人よりもたくさん時間があったというだけなのですが(笑)でも、それから僕はアクト製造機になろうと決めまして、今では『いろはてじな』という黒川が楽しそうに演技を創って遊んでいるだけの映像を販売しながら生活していますねー。

アクトを作る上で気をつけていることはどのようなところですか?
 細かいことは勿論たくさんありますが、どんな演技でもまず気をつけているのは「鑑賞者に不必要な違和感を抱かせない」ということですかね。作品が作品であるための最低条件な気がします。「この人は大好きなバラが消えたというのに、なんで笑ってるんだろう。悲しくないのかな?」だとか「ミルクを固形化してできた四つ玉を床に弾ませた後、なんで飲み込むんだろう。汚くないのかな?」みたいなチグハグの芽は徹底的に摘み取るようにしています。こういったことだけでもキッチリと守れば、そこそこ一貫した物語になる気がするので、最後まで飽きずに鑑賞しやすい演技になるんじゃないかなぁ。

演じるときに気をつけていることはありますか?
 めっちゃむずいですね……。演じるの、あまり得意じゃないんですよね……。というのも、僕は演者としては結構コンプレックスを感じてて、黒川はめちゃくちゃイケメンでもなければ、めちゃくちゃ笑える容姿でもない。超絶技巧もできなければ、ダンサーのように動作だけで魅せることもできない。僕がTheプロマジシャンな活動にあまり力を入れてないのはこういうコンプレックスのせいもあるのかもしれません……。でも、だからこそ僕は何者にでも化けられるのかなって思うんですよね。近年の僕の作品をたくさん見てくださっている方々は「黒川、地味に演技の幅広くない!?」みたいに感じてくれているんじゃないかな。いろんな演技やるのって、イケメン過ぎるとたぶん難しいんですよね。可愛らしい演技やコミカルな演技をしようと思うときに、入場時点で「あ!イケメンが出てきた!」って情報があるとノイズになりそうじゃないですか(笑)なので、あまり捉えるべき特徴のない『無地の黒シャツ』のような僕の容姿は、いろんな演技を演じることにおいてプラスになっているかもしれないですね……。話が逸れてしまってすみません!

手品を続けていくうちに何か手品の印象など変わったことはありますか??
手品を続けたおかげで何か変わったというのはパッと思い出せないですが、手品の創り方が明確に変わった瞬間は覚えてますよ!手品外の出来事になりますが、サークルの同期に久米克也(しょうたま)さんっていう、今はマジケなどで一緒に本を書いてくれている方がいるんですが、彼と就活をしたことが手品の創り方にも大きく影響を与えましたね。
 就活をしたのは2016年くらいだったかなぁ。もともと僕は就活する気が全然なかったんですけど、彼が「おもしろい作品を創る会社なら入りたくない?」と言うので、まぁそれならいいかと思って、一緒にゲーム会社を受けることにしたんですよ。その企業研究という名目で一緒にゲームをして感想を言い合ったり、ゲームの企画を考えてみたりしてみたのですが、その時に僕と彼の間には圧倒的レベルの差があることに気づかされたんですよね。
 一言で述べるなら、彼はちゃんと思考をしながら生きていたんです。ゲームをプレイすれば「なぜこのゲームはヤメられないのか?」「なぜこのステージが必要なのか?」といったことをちゃんと考えているし、ゲームの企画をつくれば「コンセプトを活かすならこうするべきでは?」「このシステムはこうしたら差別化できるよね?」だとかを頭の中で考えて、ちゃんと言葉にしていた。それに比べて僕は今までなんとなく生きていて、演技を創ってもフィーリングで現象を取捨選択するし、映画を観てもシーンの役割すら考えていなかった。とにかく、いったん立ち止まって考えてみるということをしたことがなかったので、彼の姿勢が衝撃的だったんですよね。
 話は逸れちゃうんですが、当時の僕は家に角砂糖をストックしてムシャムシャ食べながら生活してたんですよ。カロリーが簡単に取れて美味しいので本能的には正しい行動なのかもしれませんが、ちゃんと理性的に生きていればコレが体に悪いんじゃないかってことくらい疑えるはずなんです。でも僕は、それすら気づかないくらいに無思考に生きていた。
 2016年、彼との就活を通して、僕は生まれ変わったといってもいいくらいに人格が変わりましたね。なので就活以前と以後で演技の作風もめっちゃ変わってますよ!ちなみに就活は「僕にはまだ修業が必要だ……。」と思って途中でやめました。

黒川さんにとって手品のおもしろさって何ですか?
 手品のおもしろさですか……、鑑賞者視点?表現者視点?まぁ正直なところ、どちらにしても全くわからないです!というより、今はそうコメントしておきたいなってところですかね……。
でも表現者視点のお話をするなら、「なぜ僕が手品を続けられているか?」に対する回答の1つは何となく見つかっていますね。たぶん、座学と実技の割合がちょうどいいからなんじゃないかなって。時には本や動画を見て研究したり、時には設計図を描いて工作したり、時には体を動かして練習したり。体育会系ではないくせに、じっと座っていることが苦手な僕にはピッタリな趣味だと思っています。
 そして鑑賞者視点のお話をするなら、「おもしろい」の解析は僕と久米さん(一緒に就活した人)の課題の1つですね。彼は会社員をしながら言語学の研究者をしているので、言語学的な観点から「おもしろい」って何だろうと必死に考えているみたいです。僕も自分なりにできる道筋を探しているのはもちろんで、いつか「おもしろい」の構造がわかったら、そこから逆算することで「ぼくのかんがえた さいきょうの えんぎ」をつくりたいなって思ってますね(笑)

これからどのように手品と関わっていきたいですか?将来のビジョンを教えてください!
 うーん……。自分が好きに演技を創っているだけで、周りにチヤホヤされるようになりたいですね……。自分の「好き」を最優先して演技を創るのも大切ですからね。いくらみんなにチヤホヤされる演技を創ったとしても、自分がその演技を愛せなかったら虚しいだけですから!!
コンテストに出てた頃は「こっちの現象の方が点数高そう!」「こっちの動きの方が流行りっぽい!」という考えで取捨選択することもあったんですが、そういった選択基準は自分以外の鑑賞者を大切にしすぎている気がします。もっと自分を一番に喜ばせるために演技を創った方が後悔することは少ない気がするんですよね。「前回の舞台でこう言われたから、とりあえず言われた通り変えてみた!!でもウケませんでした!!」ってなったら悔しさをどこにぶつけたらいいのかわからないですし……。もちろん、他者の批評や世間の好みを汲み取ることは大切ですけど、最終的には自分の価値観に合った選択をして、演技に対して「納得感」を持つことが大切だと思います。その方が自分の演技を素直に愛せると思います。でもやっぱ皆にも愛されたいので、僕が僕好みに創った作品を周りがチヤホヤしてくれる優しい世界を創れたら最強なんじゃないかなぁ。


黒川さんを取材してみて
 黒川さんを初めて見たのは、黒川さんが大学生のころだったと思います。当時からいろいろな手品を考える人だなぁ、また新しいアクトを作っているんだなぁという印象でした。その他にも、自分にコンプレックスを持っているという話をお聞きして、当時も同じようなことをおしゃっていたなと記憶しています。今回の取材を通して、今もなおアクトを作り続けるアップデートされた黒川さんを記録できてとても面白かったし楽しかったです。またお話を伺えたらなぁと思います。 

取材者:岡村真衣

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