ドキュメント概要
プロフェッショナルサービスの粗利を考えるにあたって、SaaS企業においてプロフェッショナルサービスの立ち位置や粗利がどのように考えられているのか調べてみました。
自分向けの整理をすると共に、noteでも公開してみます。
自己紹介
澤悠詩(@kujira_poe)と申します。8年間freeeに在籍しています。
顧客インタビューとSaaSとプライシングが好きです。
国内SaaSにおけるプロフェッショナルサービス事例
最初に国内SaaSのプロフェッショナルサービス(以後PSと呼称)事例を見てみました。有名所は必ずと言っていいほど、導入支援サービスを行っています。特に対象顧客の規模がMidからエンタープライズ中心になるほど、導入支援の存在を大々的に伝えています。
PSの立ち上げ経緯を詳細を公開しているSaaS企業が、2社いらっしゃいました。
Reproさんの記事は、日本語でSaaS企業におけるPSの売上割合や、PSの分類など概観をまとめられていて、日本語で簡単にインプットする場合におすすめです。
SaaS企業におけるプロフェッショナルサービスの立ち位置
そもそもSaaS企業においてPSはどのような立ち位置の商品、収益として捉えられているのでしょうか。
PSは高単価です。大きな価値のあるプロダクトを作るのに、数多くのエンジニアと年月がかかるのに対して、PSは高価な人件費がかかるにせよ、比較的早く構築できて、なおかつ大きな売上が立ちます。特に高い売上目標を追っているときは、PS収益を追う衝動に駆られます。
ただ総じて明白なのは、PS収益はそれ自体が目的ではなく結果として扱われるべき、ということのようです。いくつかの記事を見ると、PSはソフトウエアを補完するものであり、リカーリング収益の増加をサポートするために用意するべきと言われています。
またPS単体での収益性で考えるのではなくて、事業全体のROIをどのように改善できるか、で商品性を考えるべきと言及されています。PSは解約率の改善を通した事業のROI改善に貢献だけではなく、顧客満足度を上げて、なおかつ導入完了までの期間短縮を早めることで、より早いサイクルで顧客紹介を生みだすことを狙うべきとされています。
たしかに1社紹介していただくだけでROIが倍改善しますからね…
プロフェッショナルサービスの課金モデル
どの課金モデルを選ぶか、は価格設定で一番と言っていいほど重要なプロセスです。ただプロフェッショナルサービスに、これほどたくさん課金モデルがあるとは知りませんでした。順に説明していきます。
たしかにTiered Quantity-based Pricing Modelを採用しているSaaS企業が多い気がします。この理由は割とすぐに見つかりました。
解約確率を下げるためにも、そして前章で言及されていた、導入完了を早めて顧客紹介のサイクルを早めるためにも、Quantity-based Pricing Modelをベースに固定価格のパッケージとして提供することが合理的になっているみたいですね。
ただし上記は特定のユースケースをもっているツールライクなSaaSに当てはまる話であり、インフラ系SaaSや他のシステムと統合することが前提のSaaSの場合はまた別、とも書かれています。
プロフェッショナルサービスの粗利
価格は原価や競合サービスとのコンペ状況、プロダクト価格と合わせたときの絶対額など、複数要素を考慮しながらトップダウンで決めることが正しいとされます。しかし、ここでは思考実験的に、SaaS企業がPSの原価に対してどれくらいの粗利をのせているのか見てみることにします。
各社のPS粗利率
少し古い記事ですが、2017年アメリカの上場SaaS企業ごとのPS粗利率を見てみると、Domoの40%からCastlightの-72%と各社かなりバラツキがあります。
売上成長率別のPS粗利率
より参考になりそうなのは、売上成長率ごとのPSの粗利率です。売上成長率が下がるにつれて、35%を上限にPSの粗利率が上がっています。推測ですが、SaaS企業がSMBからエンタープライズへアップマーケットする過程で、製品自体のACVが大きくなり、PSも粗利が残るほど価格を上げる余地が大きくなるタイミングが、ちょうど成長率が100を割り始めたタイミングと一致しやすいのではないか、と考えました。
一方で、売上成長率が100%以上の企業では-27%になっています。なぜ急成長企業ではPSを粗利がマイナスでも提供するのでしょうか。同記事での解説では、一言でいうと「顧客獲得を優先するため」だそうです。
急成長フェーズだと、次の顧客セグメントにトライするために兎にも角にも導入してもらって、PSが製品の不足部分を伴走しながら事業として成り立つのか検証することも多いと思います。PSの粗利は、まず価格が導入の障害にならない程度に設定されたあと、つまり結果論的に決まっていることもありそうです。
まとめ
僕が在籍しているfreeeや現在上場している国内SaaS企業に多いSMB向けSaaSで考えてみると、こんな風に考えられそうです。
PSはリカーリング収益の増加をサポートするためにある。したがってPS単体での収益性で考えるのではなく、事業全体のROIをどのように改善できるか、で商品性を考えるべき。
課金モデルはTiered Quantity-based Pricing Modelを前提に、支援内容をいくつかのパッケージにまとめて販売サイクルを早く保てるように、商品パッケージを考えるべき。
粗利率は上限35%がベンチマークになりうる。ただし実際のパッケージ価格は、プロダクトの成熟度、ドメインごとの競合とのコンペ状況や、狙いたいKPI(導入支援の契約率向上など)をもとに考えたい。
Appendix
本論には関係ないものの、調べている途中で見つけたPSにまつわる論点に関する事例がいくつか見つかったので、備忘録的に記載しておく。
PSをアウトソーシングするときの品質コントロール事例
PSの品質コントロール手法は、海外SaaSであっても、国内で見聞きしている手法に収斂していくのだと納得した部分。
PSの成果指標の測り方
アウトソーシングするときのパートナー企業へのインセンティブ設計にも影響するPSの成果指標。前者2つは良さそう。