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SaaS企業でプロフェッショナルサービスの粗利をどう考えるべきか
ドキュメント概要
プロフェッショナルサービスの粗利を考えるにあたって、SaaS企業においてプロフェッショナルサービスの立ち位置や粗利がどのように考えられているのか調べてみました。
自分向けの整理をすると共に、noteでも公開してみます。
自己紹介
澤悠詩(@kujira_poe)と申します。8年間freeeに在籍しています。
顧客インタビューとSaaSとプライシングが好きです。
国内SaaSにおけるプロフェッショナルサービス事例
最初に国内SaaSのプロフェッショナルサービス(以後PSと呼称)事例を見てみました。有名所は必ずと言っていいほど、導入支援サービスを行っています。特に対象顧客の規模がMidからエンタープライズ中心になるほど、導入支援の存在を大々的に伝えています。
MF https://corp.moneyforward.com/news/release/service/3634-mf/
LayerX https://tech.layerx.co.jp/entry/layerx-saas-consulting
PSの立ち上げ経緯を詳細を公開しているSaaS企業が、2社いらっしゃいました。
ROUTE06
我々にとってスライドやドキュメントを提出してお金をもらうのは全然重要じゃなくて、作ったプロダクトの基盤部分をSaaSとしてお客さんに提供しながらお客さんの事業が伸びていく、良いサービスを作れることが重要で、それが安定すればするほどリカーリングの収益も増えるので。あんまり、ドキュメント作りや説明の過程でお金をチャージできなくてもいい…むしろ、そこは粗利がマイナスでも突っ込もうぜという話は、去年くらいからしてましたよね。
Repro
大別すると、プロフェッショナルサービスは「契約してもらったツールの利活用支援でお金をもらうパターン」(b-1)と「ツールの利活用とは別領域でお客さんが困っていることを支援してお金をもらうパターン」(b-2) の2つに分けられるかなと思います。ちなみにReproはb-1とb-2両タイプのプロフェッショナルサービスを提供しており、自分が携わったASO事業は新規ユーザー獲得領域の課題解決でReproのツールが解決する領域とは別なので、この分類でいうとb-2にあたります。
SaaSビジネスのプロフェッショナルサービスことはじめ(反省編)
Reproさんの記事は、日本語でSaaS企業におけるPSの売上割合や、PSの分類など概観をまとめられていて、日本語で簡単にインプットする場合におすすめです。
SaaS企業におけるプロフェッショナルサービスの立ち位置
そもそもSaaS企業においてPSはどのような立ち位置の商品、収益として捉えられているのでしょうか。
PSは高単価です。大きな価値のあるプロダクトを作るのに、数多くのエンジニアと年月がかかるのに対して、PSは高価な人件費がかかるにせよ、比較的早く構築できて、なおかつ大きな売上が立ちます。特に高い売上目標を追っているときは、PS収益を追う衝動に駆られます。
ただ総じて明白なのは、PS収益はそれ自体が目的ではなく結果として扱われるべき、ということのようです。いくつかの記事を見ると、PSはソフトウエアを補完するものであり、リカーリング収益の増加をサポートするために用意するべきと言われています。
プロフェッショナルサービスは、ソフトウェアを補完するものであり、ソフトウェアより重要なものではない。この観点から、プロフェッショナルサービス収益の増加は、それ自体が目的ではなく、目的への手段として扱われるべきである。プロフェッショナルサービスは、リカーリング収益の増加をサポートする程度に提供することに重点を置こう。結果的にプロフェッショナルサービス収益が増加したとしても、それはボーナスである
またPS単体での収益性で考えるのではなくて、事業全体のROIをどのように改善できるか、で商品性を考えるべきと言及されています。PSは解約率の改善を通した事業のROI改善に貢献だけではなく、顧客満足度を上げて、なおかつ導入完了までの期間短縮を早めることで、より早いサイクルで顧客紹介を生みだすことを狙うべきとされています。
たしかに1社紹介していただくだけでROIが倍改善しますからね…
製品の迅速な普及を後押しする。結局のところ、顧客が製品を完全に理解し、定着するのに2年もかかっては、紹介は実現しない。プロフェッショナル・サービス・チームは、できるだけ短い時間で顧客が製品を最大限に活用できるよう支援を行うべきです。
プロフェッショナルサービスの課金モデル
どの課金モデルを選ぶか、は価格設定で一番と言っていいほど重要なプロセスです。ただプロフェッショナルサービスに、これほどたくさん課金モデルがあるとは知りませんでした。順に説明していきます。
Time and Materials model:メニュー×実稼働時間での請求
Fixed Price Recurring Model:実稼働に連動しない定額&定期請求
Retainer Pricing Model:前もって稼働時間を前払い請求
Tiered Quantity-based Pricing Model:Retainer Pricing Modelをベースに、数量によって段階的に単価が変わる請求モデル。SaaSで一般的。
Value-based Pricing Model:PSの場合は、要はレベシェア
たしかにTiered Quantity-based Pricing Modelを採用しているSaaS企業が多い気がします。この理由は割とすぐに見つかりました。
定額制のサービスパッケージ - SaaS企業が対象とするビジネス上の問題に関する深い知識とベストプラクティスを熟知している場合、最も一般的な導入支援サービスを固定価格で製品とバンドルして提供することが可能です。(省略)販売サイクルが大幅に短縮され、より迅速な展開が可能になり、顧客の成功率も高まります。パッケージ化することで、複雑さやスコープクリープを抑制し、顧客がプロジェクトの本質をよりよく理解できるようになり、SaaSを取り入れる実質的にかかるコストと、成功確率についてより理解を深められるようになります
解約確率を下げるためにも、そして前章で言及されていた、導入完了を早めて顧客紹介のサイクルを早めるためにも、Quantity-based Pricing Modelをベースに固定価格のパッケージとして提供することが合理的になっているみたいですね。
ただし上記は特定のユースケースをもっているツールライクなSaaSに当てはまる話であり、インフラ系SaaSや他のシステムと統合することが前提のSaaSの場合はまた別、とも書かれています。
SaaSを「ツール」と「プロセスセントリック」に分類した場合、「ツール」では固定価格サービスが有効ですが、変更管理を伴う高度に統合されたプロセスセントリックなSaaSでは困難となります。「プロセスセントリック」では、(省略)多くの場合、SIと協働する必要があります。顧客の成功は、単なるソフトウェアの実装だけでなく、プロセスの進化に基づくものです。固定価格とSIは相性が悪く、SaaSベンダーはSIエコシステムとシームレスに連携できるよう、サービス料金やスコープを調整することが不可欠です。「プロセスセントリック」なソリューションの一例として、Coupa、SlackやBox、あるいはMix PanelやPendoが挙げられます
プロフェッショナルサービスの粗利
価格は原価や競合サービスとのコンペ状況、プロダクト価格と合わせたときの絶対額など、複数要素を考慮しながらトップダウンで決めることが正しいとされます。しかし、ここでは思考実験的に、SaaS企業がPSの原価に対してどれくらいの粗利をのせているのか見てみることにします。
各社のPS粗利率
少し古い記事ですが、2017年アメリカの上場SaaS企業ごとのPS粗利率を見てみると、Domoの40%からCastlightの-72%と各社かなりバラツキがあります。
![](https://assets.st-note.com/img/1677303139580-OsXPTK9vG9.jpg?width=1200)
売上成長率別のPS粗利率
より参考になりそうなのは、売上成長率ごとのPSの粗利率です。売上成長率が下がるにつれて、35%を上限にPSの粗利率が上がっています。推測ですが、SaaS企業がSMBからエンタープライズへアップマーケットする過程で、製品自体のACVが大きくなり、PSも粗利が残るほど価格を上げる余地が大きくなるタイミングが、ちょうど成長率が100を割り始めたタイミングと一致しやすいのではないか、と考えました。
![](https://assets.st-note.com/img/1677304978123-dByCgAITNP.png?width=1200)
一方で、売上成長率が100%以上の企業では-27%になっています。なぜ急成長企業ではPSを粗利がマイナスでも提供するのでしょうか。同記事での解説では、一言でいうと「顧客獲得を優先するため」だそうです。
・急成長企業は製品が未成熟なことも多いため、顧客環境への統合のためのPSが市場価格よりも安く提供されていれば、顧客の摩擦を減らすのに役立つ
・一般的に市場に投入されたばかりの製品は機能不十分であったり、カスタマイズができないことでPSの稼働がかかるが、製品が成熟するにつれて、PSの稼働が減ってマージンが改善されるという前提をもっている
・上記のような前提をもって、最も重視する顧客獲得のため、プロフェッショナルサービス費用はCACとみなして、成長への投資とする
急成長フェーズだと、次の顧客セグメントにトライするために兎にも角にも導入してもらって、PSが製品の不足部分を伴走しながら事業として成り立つのか検証することも多いと思います。PSの粗利は、まず価格が導入の障害にならない程度に設定されたあと、つまり結果論的に決まっていることもありそうです。
まとめ
僕が在籍しているfreeeや現在上場している国内SaaS企業に多いSMB向けSaaSで考えてみると、こんな風に考えられそうです。
PSはリカーリング収益の増加をサポートするためにある。したがってPS単体での収益性で考えるのではなく、事業全体のROIをどのように改善できるか、で商品性を考えるべき。
課金モデルはTiered Quantity-based Pricing Modelを前提に、支援内容をいくつかのパッケージにまとめて販売サイクルを早く保てるように、商品パッケージを考えるべき。
粗利率は上限35%がベンチマークになりうる。ただし実際のパッケージ価格は、プロダクトの成熟度、ドメインごとの競合とのコンペ状況や、狙いたいKPI(導入支援の契約率向上など)をもとに考えたい。
Appendix
本論には関係ないものの、調べている途中で見つけたPSにまつわる論点に関する事例がいくつか見つかったので、備忘録的に記載しておく。
PSをアウトソーシングするときの品質コントロール事例
PSの品質コントロール手法は、海外SaaSであっても、国内で見聞きしている手法に収斂していくのだと納得した部分。
Dropboxの場合、パートナーが質の高いサービスを提供できるよう認定している。また、パートナーがより高いレベルの認証を取得することで、より大きなサポートやリベートを得るインセンティブを与えている
Zuoraでは、パートナーに「急かされて」導入したお客様が、新しいソリューションに完全に移行できず、更新時に解約してしまうケースを防ぐため、1)30~90日後のNPSスコアで導入後の成功を測定し、2)主要ユーザーのエンゲージメントを測定する。導入後30日目のNPSスコア => 8や、「すべての主要ユーザーが週2回以上、アプリケーションを30分以上使用する」といったシンプルな指標が、パートナーによる導入サービス完了のマイルストーンになっている
PSの成果指標の測り方
アウトソーシングするときのパートナー企業へのインセンティブ設計にも影響するPSの成果指標。前者2つは良さそう。
Time-to-launch:成約からGo-Liveまでの日数
Time-to-First Value:成約から製品から価値を得るまでの日数
NPS
顧客満足度(CSAT)
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