ガリバー "法螺吹き" 男爵の冒険ⅩⅪ
「昇降機は間隔をあけて数箇所、停まる場所があるようでしたが、村長は見回りをする時、決まって最上層まで移動するのでありました。部屋の中におりますと揺れや物音はありませんでしたが、何やら体が持ち上げられ、ふわりと浮かぶような心地がありました」
「浮遊感が元に戻りますと、最上層に到着しているのであります。途中の層で人の乗り降りがなければ、わずか数秒のことでありました。昇降機の扉が開きますと、壁全面が透明な硬い膜になっている広間に出ました」
「一つの層が大きな部屋になっており、中央を貫いて昇降機を包んだ柱が建っておりました。シダー氏はこの層を『展望台』と呼んでおり、一般の人びとにも開放されている場所でありました」
「私たちが展望台に着くのは大体昼前頃でした。よく晴れた日には数人の男女や親子連れが散歩したり、外の景色を見たりしておりました。村長は一人ひとりに挨拶し、景色を見て一緒に話しこんだりしておりました」
「わたくしは話が終わるまで、周りの景色を眺めておりました。シダー氏が話していた南方には、林冠が海原のように遠くまで広がっておりました。ところどころに大木が集まり、島のように盛り上がっているのが見えます。それぞれの島には、この村と同じように人が暮らしているのだとわたくしは思いました」
「東西にも同様に、遥か彼方まで森林の海が続いております。南にも森が広がっていましたが、地平線の手前で森が途絶え、砂浜が空と地の境目を白く縁取っているのが見えたのであります」
「わたくしは展望台にのぼるたびに景色を見回しました。毎回、視線は南方の砂浜でとまりました。その先にある海を幻視し、ぼんやりと思いを巡らせているとシダー氏に声をかけられ、我にかえることがしばしばでした。シダー氏はそういった時には何も指摘しませんでした。ただ『待たせてしまった。次に行こう』と言って再び昇降機に入るのでありました。わたくしも一緒に昇降機に入り、一つ下の階層に向かいました」(続)
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