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ガリバー "法螺吹き" 男爵の冒険LⅩⅤ

「わたくしが落ち着くのを待って、タデ先生は後退の方法を教えてくれました。その次は左右への平行移動、その場での旋回でした。両手のハンドルを同じ方向に、あるいは左右を違う方向に動かすことで、ヤコは先生の言う通りに動いたのでした」

「演習林入り口の平地を何度も行き来するうちに、わたくしは指示を受けずに、デクを動かせるようになっておりました。『今日はここまでにしよう』とタデ先生が言ってくれましたので、ほっと息をつき、ハンドルから両手を抜きました。『ずいぶん気を使っただろう。まあ、その内慣れるさ。先は長いのだから、のんびりやろう』。そう言ってタデ氏は、崖の向こうの大穴からつき出している林を指さしました」

「枝の間を二匹の獣か鳥が、せわしなく跳び交っているように見えました。よく目を凝らしますと、先ほどまで並んでいた二本角のヤコたちでした。『運転の練習を見ているのが退屈になったんだろう。参考にはならんと思うが、あれだけ腕の立つ者同士が模擬戦をするというのも珍しい。よく見ておくといい』と先生は言いました」

「シダー氏とコウメ姫がそれぞれのデクに乗っているということはわかりましたが、どちらも人が動かしているとは思えませんでした。猿のように幹を這い登り、枝から枝に跳び移りながら、互いにぶつかり合い、揉み合って球になったかと思うと、するりとほどけて2つに別れました」

「再度、三度、四度と打ち合った後、一方のヤコが前脚を使い、もう一方を突き飛ばしました。突き飛ばされたヤコは空中で回転し、相手に向き直りました。右側の角が爆ぜたかと思うと、角の先が弾丸のように、枝の上に立つヤコ目掛けて飛んでいったのでありました」(続)

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