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鳥類転生とラーメンのこだわり

一体全体どうしてこうなったかわからないが気が付いた時私は鳥だった。
正確にはアオサギ(学名Ardea cinerea)だ、水面に映る姿で確認するというディズニープリンセススタイルで先ほど確認した。

スズメやメジロといった小さくてかわいいやつじゃなくてよかった。なんせ中身は40の中年男性。サギくらい落ち着いた雰囲気のが身の丈に合っている。

私に残る最後の記憶は酔っぱらって店の階段から転げ落ちているものだ。
つまりこれが俗にいう異世界転生か。異世界ではないか。

とりあえず飛んでみよう。前世では自転車も碌に乗ったことがないが果たして飛べるのか?

おお…おお!こりゃすごい!少しコツは要ったが人間でいう所の「走る」くらいの気持ちで飛べるぞ!わーい!


それから私は着々と鳥体に慣れていった。初めは抵抗のあった昆虫食もいまでは枝豆つまむくらいの気持ちで食べられるし、水の中を泳ぐ魚なんかも器用に嘴で捕らえることが出来る。
むしろ人間の時よりも気楽なスローライフを送ることが出来ている。

しかし、そうなってくると人間(今は鳥だが)欲深いものでよりよい生活を求めてしまう。具体的に言うと
「ゲー!ゲー!(ラーメンが食べたい)」
なお、この時初めて鳴いたのだがあまりの鳴き声の汚さにビビった。

とりあえずその辺の河原で仲良くカップ麺を作って食べていたアウトドア系カップルを強襲しラーメンを食べる事に成功したが、

「ゲー!ゲー!(まずい!)」

そう、鳥の味覚では人間用のラーメンをおいしく感じれないのである。

それから私のラーメン求道が始まった。
警戒心の薄い老人の家や金物屋の店先に吊るされた笊などを少しずつ盗み、森の奥にアジトを構えた。
道具が揃ったら次は材料だ。そのころには一帯の鳥たちは私の傘下となっていたので(元王者の鷹との戦いは伝説となっている)子分の猛禽類達を使い、有名店舗の小麦粉を手に入れることが出来た。

ここからは自分との戦いである。
人間用の道具は鳥体では扱いずらく、キツツキなどに頼んで柄などに改良を施した。私自身も片足を手のように扱えるように特訓した。

出汁も肝心だ。昆布やかつお出汁はカップ麺の時点でうまいと思えなかったので今回は虫出汁にすることにした。
虫好きのヒヨドリに助言を求めると
「ピーヨ!(水分が多くなっても味がぼやけないように一度干すのは前提として今回は良い出汁が出るバッタがいいと思います。また今は春ですのでバッタの中でも…」

出汁が決まった。
具は私の好きな生の鮒にすることがした。味付けは無しだ。

こうして私の究極のラーメン『生鮒ラーメン』が生まれた。これは鳥界に激震をもたらした。地域の鳥たちからは尊敬の念から『神』と呼ばれるようになった。評判は評判を呼び渡り鳥達は遥々ロシアから帰国、インコたちは飼い主に「ナマフナラーメンタベタイ、ナマフナラーメンタベタイ」とねだる始末だ。


カラスにパクられて問題になったりもしたがそこはオリジナルの美味さとコオロギトッピングの無料化で乗り切った。ちなみにだが普通に金をとって営業している。食べたいなら人間から金をとって来い、働かざる者食うべからず。


そしてこの冬新しく『ハエラーメン』を開発した。肉や魚を腐らすことによりハエの安定供給を可能にする。というシステムが発見されたことにより実現したこの商品は表面一面を覆う新鮮なハエと自慢のバッタ出汁とのハーモニー、是非ご賞味ください。



                      ラーメンアオサギ

                      長野県上伊那郡狸の森中央


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