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パターン化されたエモと、ある男の物語

「実際パターン化されたエモは俺もいかがなものかと思うわ」
「仕方ないだろ、それだけエモっていう感情が普遍的なって来たってことだ」
「朝焼けの海、夏の日のドライブ、色褪せた絵本、17時のチャイム…」
「エモっていうのも言ったもん勝ちだしそれがパターン化されてるってのも言ったもん勝ちだな」

「自転車と入道雲、水溜りに反射するネオン、深夜のコンビニ、廃墟から覗く人影、使いかけのクレヨン、青色の蝉、カレーのにおい、第三惑星セタフィム、腰から生えた翼、」

「ん?お前何言って…

彼は虚ろな目をして『パターン化されたエモ』を呟き続けている。

「鵺座の三角、プテラノドンの鳴き声、高層トライデント、液化したサソリ、モスラ、自殺するクジラ、雲の上の王国、巨大な耳…」

「おい!どうしたんだよ!おい!」

口の端に泡を吹いている彼の肩をつかみ、乱暴に揺さぶるも彼は言葉を吐くのを止めない。

その時、雲の裂け目から一筋の光が彼に降り注いだ。思わず後ずさりした俺の目の前で、光を浴びた彼はガクガクと痙攣しだし、明らかにやばそうだ。しかし彼は止まらない。

「宴会の終わり、塩素で満たされたベッドルーム、まあるい岩、暗い右腕、回鍋肉、凍った星、レントゲン室での合宿…」

無限に生み出される未知なる『パターン化されたエモ』を聞き続け俺はようやく合点がいった。恐らく彼は『パターン化されたエモ』を通じアカシックレコードに接続してしまったのだ。そして古今東西全ての次元の中にある『パターン化されたエモ』を話すだけの存在となってしまったのだ。

彼を見やると目からは緑色の光が漏れ出し背中からはオレンジ色の光輪が生えつつある。明らかに人という存在を逸脱しつつある。

ここは友人として人であるうちに終わらせてやるべきか。たまたま持っていた拳銃で彼を狙い、撃つ。

「エンドウ豆での買い食い、イエロースネーク、藻件沈、人ならざる存在になる前に友達に撃たれて殺される…」

ダメだ、『パターン化されたエモ』の化身となった彼には少しでもエモ要素があれば攻撃が通じない…

それから俺の旅が始まった。世界中を彷徨いチベットの奥深く、打ち捨てられた山寺の書庫の中に古いサンスクリット語で書かれたその本はあった。


「待たせたな…」

友人のもとに帰るまで実に10年の月日が流れていた。

「レイン棒、カエルの拳、もやし会議、屋台のりんご飴、紫のリサイクル活動、ウゴウゴルーガ…」

緑色の光を全身から放ち背中に大きな翼をはやした彼はすっかりこの町の観光名所となっていた。
緑全裸男キーホルダー、緑全裸男まんじゅう、緑全裸男カレンダー等々お土産も豊富だ。最近では中国からの観光客も多く、国の外貨獲得にも貢献しているらしい。

「今、楽にしてやるからな…」
如何に貴重な観光資源と言えども俺の友人だ、町のみんなには悪いが俺がどうにかしなければ。

「はあああああああああ!」

俺はバナナを取り出すとそれを足の指に挟み思いっきり変顔をした。

「ふん!!!!!!!!」

俺は覇気で服を破り捨て変顔のレベルをさらに一段階上げた。
大気は俺のエネルギーでビリビリと揺れ、札幌では震度三の地震が起きるほどだった。

生命パワーを繰り出し少し浮いた俺は足の指に挟んだバナナで緑全裸男と化した友人の胸を貫いた。これが俺の行きついた究極のエモくない命の奪い方だった。

「ゴフ…天ぷら油TNT、霞まみれ、アンドーナッツ、もやしもんの31話、あ…ありが…とう…」

緑が引き、光輪も飛び去り、ただの全裸男になった友人は最後に礼を言った。

そうして彼は死んだ、そう…パターン化されたエモのせいで…


みんなもパターン化されたエモには気をつけよう!

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