マガジンのカバー画像

杳として知れず

15
*この話はフィクションです。
運営しているクリエイター

2023年12月の記事一覧

杳として知れず ⑮ 夢は閉じて

杳として知れず ⑮ 夢は閉じて

 さっきからこの青年の話しぶりは、彼女より元担当医の肩を持っているように思えた。同じ時期に同じ学部だったことからも、かなり近い位置にいたようだが、むしろ彼女とはある程度の年齢になってからの付き合いで、元担当医よりも一線を引く素っ気なさを感じる。それには彼女の母親による不倫の逢引のために、娘を押し付けられた腹いせもあるのか、もしくは彼女から何か痛い目に遭わされたのだろう。

 それは自分で思うより表

もっとみる
杳として知れず ⑭ 青年への疑念

杳として知れず ⑭ 青年への疑念

「彼の研究が断たれたのには幾つか理由があり、重大な欠点が明らかになったためです。あの研究は非常にパーソナルなもので人を選びました。研究が役立つ分野は存在しますが、現時点で有効な効能があるとは証明できないのです」

 清廉な青年は秘匿さが保たれた空間で静かに語る。その様子に僕は彼女としか入れない、夢の街での白い空間を思い出していた。現実的に今、この部屋は同じ機能としての役割を果たすも、強いて言うなら

もっとみる
杳として知れず ⑬ 告解

杳として知れず ⑬ 告解

 招かれた場所は街の富裕層エリアから離れ、街で従事する人々たちが多いホームタウンとなる地区の閑静な住宅地にあった。日中、働くもののほとんどが家を空け、家を任されるか在宅で仕事をする以外には誰もいないような、無人に近い静けさが漂う。
 そして、そこのエリアに入る際は事前に、簡単なチェックを必要とした。

 そこは平屋に近い作りの一軒家で、道路沿いに面して建てられているが敷地内を見られないよう工夫され

もっとみる