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体中の血が灰色になった日。

「インフルエンザ脳症」の文字がTwitterのトレンドに出続けていて、何度も胸が締め付けられる。

娘が乳離れするかしないかの頃に初めてインフルエンザに罹患し、高熱の末に痙攣を起こした。1回の痙攣は1~2分で収まるものの、何度も繰り返す重積型。救急搬送し入院治療が必要な症状だった。その後も、高熱が続くと痙攣を起こしては救急搬送し入院する事態を1~2年ごとに繰り返し、私の中ではちょっとした発熱でも強い恐怖が芽生えるようになってしまった。

ある年にまた痙攣を起こして救急搬送を要請した時、病室で朦朧とする娘の左半身が全く動いてないことに気が付いた。インフルエンザ脳症。脳全体が腫れたり脳圧が上がることで神経症状をきたし、最悪には血管が詰まったり多臓器不全を起こすことで命に関わる重篤な疾患だ。

それまでは、いわゆる熱性痙攣だと思っていた。この前と同じように病院での治療を施せばじきに良くなるだろうと、高をくくっていたわけではないがそう思いたい自分が生まれ始めていた。

その思いを根元からぶち折る光景に、ベッドの柵を握る手が震えて止まらなかった。動く右半身で何かを掴もうと必死でもがくのに、それを支える左半身に、全く力がない。「一時的な症状として出ることは良くあるが、不可逆的に残ってしまう可能性もある。」という医師の言葉は、後者しか耳に残らなかった。目の前の景色が一気に配色を失い、自分の体温が下がっていく。きのう、おととい、先週・・・何かもっとしてあげられることがあったのでは。解熱剤を入れるタイミングが違ったのでは。かかりつけの小児科にもっと早く連れて行っておれば良かったのでは。今となってはどうしようもない「たられば」を想像しては、ひたすらに後悔していた。そして、回復を祈り続けた。

Twitterのトレンドワードは、「興味がない」をクリックして自分の画面から消すこともできるけど、自分と娘の歴史からも目を背けるような気がして、消せないでいる。そしてその文字が目に入るたびに、何度も締め付けられるのだ。

今日は、雪舞う寒さだった。日が少し傾きかけてきた頃、テレワークの自室から見える通学路を、背中を丸めて帰ってくる娘。先に玄関を開けて待ち、元気なただいまの声を耳にして、安堵した。

あの時の祈りが、通じて良かった。

そのお金で、美味しい珈琲をいただきます。 ありがとうございます。