気まぐれアカデミア

Youtubeの動画を漫然と聞き流しながら生活していて、ふと、マクスウェル方程式とは結局何だったのかと思った。

https://www.youtube.com/watch?v=EH2A8mZmM9M

動画自体は重要ではない(有名Youtuberの誤った学術解説を訂正する、というよくある主題)のだが、聞き覚えのある高校レベルの物理学と、ポインティングベクトルという覚えの無い単語に、何かを刺激された。

そもそも自分は大学の学問で躓いた(と自認はしている)人間だ。初年度の電磁気学は辛うじて単位が取れた程度の理解で、講義に関して残る記憶は漠然とした苦痛だけだ。とはいえ、人並みに学問への憧れはあって、だからマクスウェル方程式という有名な概念を知らずに死ぬのは惜しくもあった。

幸い、学問的後悔をいつか清算できればと思って、大学の教科書は残してあった。手に取ったのはこれ。前書きを読む限りでは独習にも対応しているように見えるし行けるだろう、という雑な見通しを建てる。大体、参考書の良し悪しを判断する基準など持ち合わせていない。

読み始めの、高校レベルの話はすんなりと頭に入ってくる。徒に煩雑な受験問題を想定する必要が無いのだから、大まかに理解して後で必要に応じて振り返れば良いだろうと考える。

難儀し始めるのは、多変数の微積分が登場してからだ。一応、数IIIの微積分であればそれなりに記憶しているが、デルタ作用素を扱うには全く不十分だ。数式の変形を追うのに精一杯で、その正当性を吟味する余裕はない。

例えば、積分に囲まれた関数を偏微分する時、偏微分と積分が可換かどうか。文脈からして妥当な操作だと理解しつつ読み進めていくと、本の半ばで初めてその操作を言葉で説明した箇所に出くわし、脱力する。いずれにせよ、数学的な後ろ盾に関しては別途調べる必要がある。ディラックのデルタ関数、レビ・チビタ記号、グリーン関数、いずれも本の中の説明では不十分に感じた。

そうしていつの間にかマクスウェル方程式まで辿り着くわけだが、数式の導出だけであれば、意外と辿れるものだ。見た目は恐ろしいが、高校で断片的に学んだ静電場・静磁場の法則の自然な延長として理解できる。いや、アンペール・マクスウェル方程式の変位電流項についてはざっくりとした理解に留まるが、各式の大まかなニュアンスが知りたいというひとまずの目的は達せられた訳だ。

障害となったのはむしろ数学的な道具の不足、扱い慣れていないが故の納得感の薄さだったように思う。つくづく、物理学と数学は両輪でしか成立しないもので、教育の為のルート取り、実際の指導はさぞ大変だろうと想像する。

本を読み切るという目標に照らせば、演習問題を一通りやるべきところなのだろうが、一旦満足してしまうと、どうにも手が進まないものだ。電磁気学はこれきりとして、別の本に手を出そうかと考える。しかし、工学的な適用には今のところあまり興味が無いので、手をつけるのであれば量子力学か。(同様の理由で保管してあった量子力学の入門書を手に取るが、ナラティブを欠いているようにしか見えない数式の羅列に眩暈を覚える。)

結局、自分には数学の方が性に合っている気がするので、解析学を勉強し直そうと考える。杉浦本は難しいし、何度も振り出しに戻った記憶があるが、評判の悪い本では無いし、まずはこれを読み進めるとしよう。複素解析まで一定扱えるようになれば、流石に、物理学の場の理論に対するハードルも下がるだろう。多分。


そう、電磁気学を勉強し直して一つ不可解だったのが、諸法則に見られる対称性、要するに電場の算出式とビオサバールの法則がそれぞれスカラー積と外積で定義されるという事実などは、今から当時を振り返っても、感動して記憶に留めておくべきことだったように思う。それを今回新鮮に受け止めた理由を考えるとすれば、大学在籍当時の自分に学問をやる精神的余裕が全く無かったからか、単に記憶の欠落故か。いずれにせよ、自分が学問に向かない人間であることを時間差で思い知らされるようで、少し悲しい。


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