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Nakuriyu
2021年11月20日 22:25
藍獣は浅瀬の向こうにある水平線を物静かに眺めていた。気を高ぶらせ、あたり構わず地肉を貪る常の性格は鳴りを潜め、従順な家畜のように、春伊の右に付き従った。海岸に近づくに連れて勢いを増していた風は、音の半分を薙ぎ払うまでになっていた。藍獣の軋むような呼吸音も、春伊の耳には届かない。一人と一匹は、幾年振りに見る思い出の海を前に、茫然としていた。繋がりによる歓喜は過去のもので、両者は別個の存在として、大地