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夏だから火を起こしてみた(上記の画像はイメージです)

こんにちは、突然ですが皆さんは無人島に一つだけ持っていくとしたら何を持っていきますか?
待ってください、飲み会の怠い質問では御座いません。いかないで。
手垢のついた質問だというのは重々承知の上ですとも、しかしそれだけに皆さんも一度はされたことがあるのではないでしょうか。
サバイバルの為にナイフ?火を起こすためにライター?暇を潰すためにスマホやお気に入りの本?はたまた変わりものだったらドラえもんとか、ヘリコプターとか言っちゃいます?
…ええ、分かります分かりますとも、インターネットすみっコぐらしの皆さんの言いたいことは。ちゃぶ台返し、そもそも論、最後にレスした奴の勝ちな皆さんの言いたいことはよく分かります。
で、実際に無人島に漂流した時にお前らはそれ持ち歩いてんの?ですよね。
ドラえもんとかヘリコプターとか言ってた奴、言われてますよ。
ナイフなんか日頃持って歩いていたら危険人物ですし、喫煙習慣がなければライターも持ち歩かないでしょう、無人島に電波は飛んでませんし、本を読んでたって腹は膨れません。
では我々現代人が無人島に漂流してしまったら成すすべがないのでしょうか。我々現代人は無力なのでしょうか。パソコンの文字をキーボードを見ないで打つことができても、地球の裏側の人間と片言の英語でレスバトルすることができても、無人島に漂流してしまったが最後、ただ終わりを待つだけの存在なのでしょうか。
(なァ先輩…

教えてくれよ先輩…

俺たち現代人はさァ…

進化できたのかい???)
……いえ、まだ終わってません。遥か3000年前にはナイフもライターもスマホも本も何もかもなかったはずです。しかし私たちが今ここにいるということは無人島を生き抜いた奴等が居たはずなのです。文明を篝火を灯した誰かが確かにいたということです。文明の一歩目、何もないところから火を生み出した熱い奴等が居たはずなのです。
(出来らぁっ!

今なんて言った?

身の回りの物だけで火を起こせるって言ったんだよ!
…え!身の回りの物だけで火を!?)

そういうわけで火を起こします。

(実際の場所ではありません)

まず、河川敷にやってきました。現代人の意地を見せようにも現代人は現代人で悩みがあります。
それは公共の広場で火を放つと捕まってしまうということです。ですのでBBQが許可されている河川敷に焚火台を敷いてやることにしました。

森を歩いて集めた素材たち

森を三十分ぐらい歩いて集めた素材たちです。いまこそyoutubeで得た知識の泉の使いどころですね。
私が今やろうとしているのはきりもみ式、火おこしと言えばでおなじみのですね。枝と枝をこすり合わせて、その摩擦熱で火を起こすあれです。拾った木の枝の種類は適当ですが、まぁ要するに固い木と柔らかい木を用意して摩擦で火だねを作ればいいのでしょう、削った粉が摩擦熱で小さな火種となるはずです。任せてください。
火だねから火を大きくする着火剤的な役割は落ちている枯れ葉や枯れ木の皮をこそいで代用します。タンポポとかススキとかがあればよかったのですが(見た目的にすごく火がつきそうなため)夏なので生えてませんね。

おそらく一番柔らかいと思われる枝

よくわからないですが、ここに切れ込みを入れているのをよく見るので入れました。確かこの切れ込みは摩擦によって熱くなった木のくずを集めるために入れるもの…だったはずです

忘れてました、火を起こした先にはご褒美が必要ですよね。火を起こした暁には炙りしめさばにして食べたいと思います。では、いくぞ!


四十分後


無理だが?

すいません、無理です。一生火がつく気配がしません。あと三十年やっても多分つきません。あと手、痛すぎます。今だけはブラックロータスよりも軍手が欲しい。

四十分の成果、そこを触るとそこはかとなく温かい


……まぁ、いいでしょう。物事がうまくいかなかった時に諦めてしまうとのは三流、負けじと続けるのは二流、一流は高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応するものです。

バージョン2

靴ひも使ってるじゃんって?…うるさいですね。
身の回りの物って言ったのでセーフです。
やっぱり現代人たるもの頭を使わなくてはいけません。
紐を使う、あの弓みたいなやつをやりましょう。
こうすれば手は痛くないので長時間回せるはずです。


20分後

むり。

これ、手で回した時よりも遥かに難しいです。まず、糸を使うと重心がブレて綺麗に回りませんし、何故か一回回すごとに糸を巻きなおさなくてはいけないしで…あと暑っつ…。
額の汗を拭いながら考えます。時刻は午後二時あたり、そして気温は35度です。幸い風は風速5mで吹いているので熱気が籠ったりはしていませんが、しかし殺人級の暑さには違いありません。
……
…あれ、もしかして。

天才のひらめき

小学校のころに皆さんもこんなことを言われたことがあるかと思います。
虫眼鏡で太陽を覗くな、と。そもそもレンズと言うものは光を一か所に集めることによって像を大きく見せることができるというものです。
そんなもので太陽を見てしまったら…賢明な皆様なら当然分かりますよね。
勿論都合よく虫眼鏡など持ってはいませんが、しかし、トントン(頭の右側の方を叩く音)、あるじゃないですか。レンズが。
そう、水入りペットボトルです。そういえば過去には水入りペットボトルが原因で起こった火災について聞いたことがあった気もします。

水はこの墓石みたいな井戸からくみ上げました。


2HOUR LTAER


…つきませんね、火。
アマゾンプライムで映画を見終わってもまだついていません。
流石に不安になってきたので少し確かめてみましょう

温か

暖かい。
下の鉄板の方が熱いんですけど。
太陽光の収斂は?鉄板による反射熱は?私の中のこざかしさを粉砕するかの如く平熱です。


あっ

…分かりました。認めましょう。火起こしは難しい。正直に言えば舐めてました。こんなに暑いんだから火ぐらい簡単につくっしょ、そんな心持だったことを今ここに告白します。
しかし、ここで出来ませんでした。またね~。とはいきません。
認めましょう、ここは私の知識不足を、しかし現代人には現代人の戦い方があります。持ち味を生かしましょう。
しかしここからは本気です、80億人の叡智が集合したこのインターネットが、私の味方なのですから。
行くぞ!

は?

五円玉に水の膜を張り、レンズの代わりにできるそうです

全然じゃん

すいません、十五分ぐらいでインターネットへの不信感が上回りました。
あと冷静に考えたらこんなレンズの大きさで火が付くわけありませんね。
しかし、まだまだ使えそうなライフハックは残っていますとも。

一般的なゴム風船

行くぞ!

今までで一番光が集まっている…

流石高級ゴム風船、行けるか…?
意外にも前者二つよりも光が集まっているように見えます。確かにレンズの厚みは申し分ありませんし、大きさもあります。これなら…?


……無理では?

やっぱむり


三十分近く吊るして触ってみました。もしこれが発火寸前の木くずであればやけどは不可避ですが、普通に触って確かめています。しかし幸運なことに木くずの温度は全くと言っていい程常温です。

おかしいな、動画だと三分で火がついてたんですけど。


そして、ここまでで既に五時間弱、ぼんやりとした暑さで頭すら痛くなってきたような気がします。
はぁはぁ…
はぁ…
しかしここまでやって少しだけ私は反省しました。
風が吹き、河原に揺れる葉が絨毯のように靡いています。
私たちは恵まれていたのです。手にしたスマホをフリックすれば必要な情報が手に入り、コンロのボタンを捻れば炎が出ます。好きな本を好きな時に読むことができますし、ナイフを握る必要すらありません。
見上げた青空はこんなにも奇麗で、きっと私たちはそこまで思い悩む必要なんてなかったのでしょう。与えられたものに感謝を、恵まれた境遇に祝福を
きっとそれだけで私たちの人生は少しだけ豊かになるはずです。
(でも結局、偉そうなことぐだぐだ言ってた割には何もできなかったよね)
インターネット動物園の喧噪もきっとこの空には届きません。
(さんざんいろいろ試した割にはたいした文章量になってないよね)
…恵まれた…自分の環境を…広い心で…
(こんなに焚き火台とかまで用意しといて火が付かないとか草)

……
………


大人を舐めるなクソガキ。
さ、後はこれを火種に付けて…きりもみ式で六時間ぐらい擦り続けた事にして火が付いたことにすればいいでしょう。
何写真ではばれまいよ…どうせ私が見た他の動画とかブログの奴らだってやっているに決まってる…悪くない、私は悪くない…

かちっかちっ………

付かない。

え…普通につかないんですが。いや、ライターから火は出ています。出ていますが、一瞬で消えてしまいます。
枯葉や木の皮をはぎ取って作った着火剤にも一瞬火は付きますがすぐに灰になって消えていきます。
はっ…
「幸い風は風速5mぐらいで吹いているので熱気が籠ったりはしていませんが…」

すいません、どうやら最初からつんでいたようです。
…そういえばキャンプ用品売り場にどうしてわざわざ着火剤なるものが置いてあるのか不思議に思っていましたが、成程、着火剤がないと大きい火になるまえに消えてしまうんですね…なるほど。

……
令和の世の中、人々は確かに物質的には豊かになりました。
清潔な水がすぐ手に入り、日が暮れてもまばゆいばかりの光が町を包み込んでいます。
けれども、私たちは怯えています、小さな失敗に。ダメな奴だと思われたくない、失敗するのは恥ずかしい、失敗するぐらいだったらやらない方がましだ。火を起こすのに失敗しても、料理に失敗しても、あるいは仕事、受験、アルバイト、そのどれを失敗しても私たちは死にません。私たちは今、こんなにも失敗できるというのに、どうしてそれを恐れる必要があるのでしょうか。私は胸を張って言います。私は今日、火を起こそうとして失敗しました。最初に取り決めた約束も放り投げて、それでも失敗しました。
それでも、それでも。いいと思うのです。
きっと成功するまで諦めずに火を起こした人もいるのでしょう、こんなんじゃあダメだとそっと非公開にした人もいるのでしょう。
こんな記事、公開するだけ無駄じゃねぇか、そう思う方もいるでしょう。
しかし、私は貴方に言いたい、私は失敗しました、貴方が次にするなにか、それが成功するか失敗するか、私にはわかりません。
けれどもどちらでもいいと思うのです、無様な失敗も、華々しい成功もそのどちらもが尊いものだと、私は思っているのです。

焙ってないしめさばも焙ったしめさばも、どちらも美味しいのだから…

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