子供向け映画とエンパワメントと(クレしん映画感想)
クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園
を、このあいだワクチン接種で早退した日に観ていた。ふっクラでオススメしてたからですね。安直。時間があるとこういう余裕のある選択ができる。
今週、作業背景で2周目の途中まで流し観したので、せっかくだから思考の記録をしよう。
クレしん映画は30作超あるらしいけれど、おそらく自分は2、3割しか観たことない。いちばん記憶に残っているのはヘンダーランド、という、アラサー世代の多分に漏れていない人間です。
さて、今作は小中高一貫の全寮制エリート学校(天下統一カスカベ学園、通称「天カス」)に春日部防衛隊のみんなで1週間体験入学する話。
みんなを推薦した風間くんが、学校に向かうバスの中でめちゃくちゃウキウキワクワクしているのがいじらしい。エリート校だからというだけではなく、彼にとっては、みんなと同じ小学校に行くというのは、いわばifの世界線なので。
そんな感じでバックグラウンドの違いから軋轢が生じていく風間くんとしんちゃんたち、それぞれに色々思うところのある天カス学園の生徒たち、プラスそれぞれのポリシーを持つ先生たちが、例によってワチャワチャする話です。ミステリー仕立て。
天カス学園では生徒は個々人の持ち点で成績が決まる。学校生活はすべての挙動がAIであるオツムンによって監視されていて、学園にいる間は、一挙手一投足をエリートな行為(加点)か、ノンエリートな行為(減点)かで評価される。持ち点は胸につけたバッジみたいなもので絶えず上げ下げされるので、生徒本人にはもちろん、周囲にも持ち点が分かる仕組みになっている。失敗を重ねれば重ねるほど露骨に扱いが下がっていく。所属する学級にも給食の豪華さにも格差がある。マリみてや紳クロの生徒会もびっくりのやばいヒエラルキー社会だ。
当たり前だけど、こんなんいいわきゃないっすな。
意図的に目に見える格差を生み出すことで、ある程度能力のある人間はめちゃくちゃ権威もとい大人に忖度するようになるし、保守的な選択しか踏めなくなる。スケープゴートにされた側は、防衛規制的に自らそういう役目に向かっていくこともある。(『ある男』の本物の彼にもそんなところがある。)カスカベ防衛隊の皆さんなのでさすがにそういう方向に話が進んでいくことはないけれど、大人はかなりグロテスクさを感じざるを得ないシステムだ。
放課後の時間、寮の部屋の中などのプライベート空間は監視の外であることも、(プライベートがあるというのは当たり前の良いことではあるのだけれど、その一方で、)ここでは「良い子であるべき場所で良い子であればあとは何でもいい」みたいなことの裏返しでもあり、風刺を感じる。
しんちゃんたちの担任の先生(脇野先生)はそんなシステムに疑問を抱いている役回りなのだけれど、風間くんが漢字を間違えた時に脇野先生がウフフと微笑んでいるシーンがあり、見返してみると細かいなあと思う。
終盤、「エンパワメント作品だ!」という感じがすごかった。誤解なきよう断っておくと、良い意味で言っている。たまに偶然アニメを観てると、休日のひろしがヒマワリを背負いながらしんちゃんと遊んだり(遊びのフォーマットで片付けをさせる)していたので、クレしんはそのあたりとても「信用できる」と思っている。
ただ表現的にとても露骨だったので、大人がひとりで自分のために観ていると台詞回しなんかが若干かゆかった。繰り返すけど良いことだと思っている。そして実際、ターゲットであるこどもたち世代に訴えるには、このくらいの濃い味が良いんだろうと思っている。
90年代初頭生まれの自分が小さいころのディズニー映画は『眠れる森の美女』とか『美女と野獣』とかで、(今思えばそれでも『白雪姫』から考えれば『美女と野獣』『リトルマーメイド』ではプリンセスが主体性を持っているのだけれど、)プリンセスがいて王子がいて困難が訪れて、という構図だった。そこから、まあ途中の時代はちょっとスキップして、今はもう、ズートピアとかアナ雪の物語展開はなんというかすごい(※日付が変わろうとしており、二段飛ばしの気持ちで筆を進めている。)。あ、トイストーリー4も。スパイダーマンノーウェイホームも。多分物語の展開だけで言えば、「無粋」とか「こんなの○○じゃない」とか、そういう感情になる人も絶対にいるなと思う。でも、物語から世の中全体を変えていく、変えていこうとするというのは、そういうことなんだろうなという感じがしている。
その意味で、『天カス学園』の展開はエンタメと理想とエモ(迫るタイムリミットによりこの言葉を使わざるを得ないのが誠に遺憾…)が織り交ざっていてよかった。「青春」という概念が概念のままバランスよく描き出されていて、様式として美しかった。
あんまり子供アニメに詳しくないのだけれど、今ってどんな感じなんだろう、実際。女児アニメはよく多様性とかエンパワメントとか自己受容とか、そういったものを意識しているようなアップデートがなされているという評価を聞くことがある。プリキュアには男の子も宇宙人もいるらしい。仮面ライダーとかドラえもんとかはどうなってんでしょう。仮面ライダーは実写か。実写はまたちょっと切り口が違う話になるかな。でも戦隊モノにおいて女性=ピンクじゃない、みたいな動向くらいはありそうですね。しずかちゃんの入浴シーンとか今どうなってるんすか。
そんな風に2020年代の子供向けアニメ業界の実際が気になったクレしん映画『謎メキ!花の天カス学園』鑑賞でした。
たぶん、今作における制作陣の渾身の受け狙いのひとつは「おしりに穴が開いてるー----!!!!!!」だと思う。自分が観てる中では焼肉ロードもそうだったけど、大人向けのユーモアも忘れないのも良い、というか、作ってる大人が楽しんでやってるのか。最高。
タイムアップです。
きっと折に触れて追記すると思います。しないかも。
CM前にしんちゃんが「オラ もうすぐ5歳」って言うときに、絶対に立ち上がってテレビの横に並んで「私も!」と言っていた、もうすぐ5歳の頃の自分をふいに思い出した。
おやすみなさい。
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