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いちばん好きな人との仮交際が終わった

 性格が良い人だった。内面の偏りや執着が感じられなくて、そういうところを尊敬していた。初めてあんなに内面が整っている人と関わったかもしれない。


 上品で、優しくて、可愛い人だった。まともな家庭で愛されて育つとこうなるんだろうな、と話すたびに思った。その人のご家族に会うのを密かに楽しみにしていた。一緒にお食事をして、「家族団欒」を体験したら泣いちゃうかもしれないな、と思った。その時は来なかったけど。

 悲しい。悲しいんだけど、うまく泣けない自分がいる。だって、私はあの人に見合うだけの人間性を持っていない。「まぁそうだろうな」って、納得しちゃうんだもん。

 あの人はどんな人と結婚するんだろう。きっと、まともな家庭で愛されて育って、私より自立してて、私より出産・育児へのモチベーションが高くて、私より素直で可愛い人なんだろうな。私はあなたのことが好きだったけど、言葉で上手く伝えられなかったのが心残り。どうせ終わるなら、良い思い出をたくさん持ち帰ってほしかった。

 私はあなたと初めて話したとき、とても癒されたし、優しい気持ちになった。だから、私も「関わる人に良い影響を与えられる人間になろう」と思った。私は、あなたに良い影響を与えられただろうか?


 ティグレって知ってる?聞いたことないよね。フランス語で虎って意味なんだって。私も初めて食べるの。初めての体験を共有したかったから、二つ買ってきたの。いっしょに食べようよ。

 週末、あなたに会えたらそう言いたかった。私にはもう、なんにも共有する権利がない。あなたに会うはずだった日、ティグレは賞味期限を迎える。どんな味がするのかな。



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