変な絵
webライター兼ホラー作家の雨穴氏著作、「変な絵」を読了したので、感想を綴っていこうと思う。
雨穴氏の前作である「変な家」も以前読んでいて、感想を載せているので、時間が許せばそちらも是非読んで欲しい。
「変な家」の読書感想文↓
「変な家」から雨穴氏の文字でのホラーワールドにも病みつきになった私は、今作もU-NEXT内で購入し、一気に物語を進めていった。
相変わらず大胆な雨穴ワールドにどっぷり浸ることができる今作は、前作に比べて小説らしい小説だった。
あらすじ
以下ネタバレあり感想
小説ならではの展開
さっきも言ったように今作は前作である「変な家」とはまた違ったスタイルで物語が進んでいき、より小説らしい小説になっていた。
具体的に言うと、「変な家」は主人公の筆者が時にその手助けをする栗原を交えて、様々な登場人物の話を聞き、事件の真相に迫って行った。
つまり、雨穴氏の動画とほぼ同じような道筋であったわけだけど、今作の「変な絵」では、そのような形式はとっていない。
まず、筆者が出てこない。
栗原も学生として出てきて、まだ建築士にはなっておらず、事件のきっかけとなるブログを紹介したのも、彼の先輩である佐々木という人物だ。
え、雨穴出てこないの?と思った雨穴ファンの貴方、大丈夫。
あの独特な雨穴ワールドは文章でも健在で、じわじわくるホラー感を十二分に味わうことができるし、小説ならではの表現方法、つまり叙述トリックを活用している雨穴氏の物語の展開の大胆さには、いつもながら驚かされる。
(ここの叙述トリックは読んでいて、わ!っと驚いて欲しい)
ちなみに、この作品も雨穴氏のYouTube動画で一章が公開されているので、こちらをまず見ることをお勧めする。
絵が表す物語の真相
この絵は題名にもある通り、作中に出てくる絵が物語のキーワードになってくる。
あるものは心理テストとして、あるものは自分の秘めた思いを表現するために──。
そして、またあるものは自分が巻き込まれた事件の真犯人の手掛かりを残すために絵を残す。
それぞれがどんな絵を描いたかは、本編を読んでもらえばわかるので割愛するとして、よくもまあこんなに様々な絵を使ったトリックが出てくるものだ。
前回の間取りに続き、今回は絵。
どちらも普段自分が何気なく触れているものに、ホラー要素を付け足しているところが憎い。
その癖、雨穴氏の小説は、自分の中で「こうかな?」と思った展開の遥か斜めを通り過ぎていき、思わぬところに着地する。
いい意味で期待が裏切られ続けるし、その分ワクワクが続いて濃くなっていく。
ページを捲るたびに、「あ、そういうことか!」と伏線が回収されて行く爽快感と、相変わらずの後味の悪さがいいコントラストとなり、なんか癖になるのは雨穴ホラーの強い武器だと思う。
母性
先程私はこの作品のキーワードとして「絵」があると主著したけれど、もう一つその陰に隠れている重要なキーワードがあると思っている。
それは「母性」というもの。
実際本作の真犯人は、一件の殺人を除き(それもまた歪んだ母性の成れの果てではあるのだけど)目の前のものを守ってあげたいという思いで殺人を繰り返し、結果的には自分の首を絞め、挙句自分の命よりも大切なものの首まで絞めていた。
母性、つまり母となるものが子に対して抱く感情であり、大切にしたい、守ってあげたいという気持ちを指す。
それはとても大切な感情であるけれど、それは同時に恐ろしいパワーを持った、見えない凶器にもなりうる。
もちろんこれは物語であり、実際に起きた事件ではない。
でも、この真犯人の持っていた母性は、ただ暴走した異常な愛というだけで片付けられるのだろうか?
私は母になったことはないけれど、もし私が子供がいて、その子供が父親から虐待まがいのことをされていたとしても、平和的な解決をしようと努めることができるだろうか?
子供を脅威から守るために、目の前の人を傷つけないと約束できるだろうか?
海よりも深い愛が、いつか底知れない狂気となり得る可能性は誰にだってあるような気がした。
最後に
前回の「変な家」同様、じわじわくるホラーエンターテイメントを約11万文字で味わうことのできる本作。
なんと、本作を読み終わった最後のページには、購入者限定特典として本作の第1章【風に立つ女】の雨穴氏朗読動画が視聴出来るQRコードが印刷されている。
動画とはまた別の満足感が得られるこの特典があるため、私は紙媒体での購入をお勧めする。
雨穴氏の可愛らしい朗読を聴きたい貴方に、是非。
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