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流浪の月(映画ver.)

李相日監督作品、広瀬すず氏、松坂桃李氏ダブル主演の「流浪の月」をみた。

こちらの映画は、2022年度のアカデミー賞ノミネート作品。
主役のお二方のみならず、この作品に関わった多くの方が、優秀賞を受賞している。

惜しくも映画が公開されてた時には行けなかったので、U-NEXT内でレンタルし視聴してみた。

原作を先に読了済(感想文は下の記事から)なので、原作のあのシーンがどのように映像化してるのか、また、原作との違いを意識しながら鑑賞した。

以下感想(ネタバレあり)


事実と異なる都合のいい解釈

「人は見たいようにしか見ない」
「流浪の月」劇中セリフより引用


これは、家内更紗が劇中、文と一緒にアヒルボートを漕いでる時のセリフ。
わたしはこの言葉が、劇中ですごく印象に残っている。

同名小説を読んでいる時は、物語が一人称視点で進んでいくのもあって、どちらかと言えば主役の2人と同じ視点で物語を見ていたけど、映画では、より遠くの俯瞰的な視点で物語を観ていた。

だから如何に、外野の都合のいい解釈と、自己満足な正義感に2人が振り回されてるのかを、鑑賞者は目に焼き付けることになる。

孝弘に性的虐待されていたおばさんの家も、無自覚にモラハラ発言をする亮くんとの同棲生活も、息が詰まるほど苦しい世界なのに、周りはそこが更紗にとって安全地帯だという。
何も知らないくせに、世間は文が更紗を誘拐したと言う事実にだけ目を向け、2人のことを性的異常者とその被害者と好き勝手に騒ぐ。

更紗が本当に一緒にいたいのは文なのに、文のそばが1番安心するのに、自分が気持ちよくなるためだけの正義感を振り翳し、保護という大義名分で、簡単に人の幸せを奪っていく外野の身勝手さに、暴力的な恐怖を感じた。

映像と音楽で魅せる登場人物の心情

この映画は、とにかく映像や音楽で魅せるシーンが多い。
しかも一つ一つが綺麗で、画面停止すればそこには一つの作品が出来上がってる、と言わんばかりの美しく切ない風景が広がっている。

役者の存在感や息遣い、自然の音だけで登場人物の心情を表しているシーンが所々にあって、それだけでも感動できるのに、絶妙なタイミングで繊細な音楽が流れるから、本当にうっとりとしてしまう。

この作品は、誘拐事件を題材にしていることもあり、一人一人の登場人物の内に秘めてる感情や立場が全て複雑である。
よって、言葉で全て説明するのではなく、映像や音楽を巧みに利用することで、鑑賞者の想像力を掻き立て、繊細かつ絡み合った感情を見事に受け取らせる。
それにより、鑑賞者はまんまと映画の世界に、のめり込み、まるで物語の世界に自分が入り込んだかのように没入していく。

これはあっぱれ。
監督の罠に、私は喜んでかかりにいく。

この映画を映画館で見ることができなかったことが悔やまれるくらい、本当に映像と音楽が綺麗な作品だった。

役者たちの体当たりの演技

本当に役者陣の演技が素晴らしすぎて、常に目が釘付けだった。
まぁ、それもそのはず。
主役の2人はアカデミー賞常連俳優だし、脇を固める俳優陣もかなり実力派揃いだ。

私は、すずちゃんの演技がすごい好き。
こうサラッとしてるんだけど、その役にちゃんと寄り添ってくれるというか、感情の根っこからその役の人として生きてるような演技が本当に好きで、顔の造形の美しさに胡座をかかず、真摯に役に向き合ってる姿勢には、毎度尊敬の念を抱く。

今回の更紗の役も、広瀬すずだからこそあそこまでセリフ無しに行けたんじゃないかと思えるくらい完璧で、完全に家内更紗でしかなかった。

また、松坂桃李氏もなかなかにえげつない。
私は最初、この配役を知った時「松坂桃李って結構男男してない?」とおもった。
だって彼、去年のアカデミー賞の時はヤクザのに立ち向かう警察役でノミネートされてたのに。
今回、彼が演じた佐伯文は中性的で、何年経っても成長をしない青年。
そんな自分に自信がなくて、常に本当の自分を隠して生きている。
もう真逆、真逆も真逆。
真逆なんだけど、観てみたらもう佐伯文は松坂桃李じゃないとありえない。
まず、そんな非力な役を演じるために、10キロも減量して役に挑んだのだから、まずその時点で、大きな賞賛を彼に送りたい。
最初の登場シーンから、常に猫背で、俯いてて、摺り足でゆっくり歩いてくる姿は、小説の中の佐伯文そのもの。
そのものすぎて、笑ってしまったくらい。
そして、ラストシーンで自分の体を更紗に見せるシーン。
このシーン私的にこの映画の一番の見どころだと思っている。
震えながらパンツを脱ぎ、ゆっくり振り返りながら成長してないペニスをこちらに見せるところは小説にはない。
映画ならではのシーンで、あんだけ体を張って「佐伯文という人物とはこういう人です」
と鑑賞者に訴えかける姿には、大きく心を揺さぶられた。

松坂桃李氏の演技の幅の広さと、懐の深さが成し得た役だと思う。

最後に

小説も良かったけど、映画もかなり良かった。

これは出来れば1人で観ることをお勧めする。

1人で静かにみて、とことん美しい世界に浸って、残酷なまでの現実をただひたすらに痛感して、映画を見終わったその時に、自分の中に残った感情を、大切に持っておいて欲しい。

もしその感情を、少しだけ共有したくなったら私にこっそり教えてほしい。

世間に取り残されそうな貴方に、是非。

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