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血パンダはどうやって演劇を作っているか その1-2.やってみたいお芝居の仕組みは決まっているけれど、台本がない場合

やってみたいお芝居の仕組みといっても、これまでの試みとしては二つ。
・あちらこちらで同時に喋る。
・雑談にしか見えない。
この二つを経て、血パンダの現在のスタイルは固まった様に思います。

あちらこちらで同時に喋る

同時に喋るというのはそもそも、ミュージカルなどで、別の歌詞を同時に歌うであったり、バミューダ★バガボンドという、えらくかっこいいバンドがあるんですけど、ツインボーカルで別の歌詞を歌っていたりするので、これは演劇でもできるんじゃね?そもそも、同じ言葉のセリフだけが聞こえてくるというのも、なんだか音として貧弱ですよ。と考えたものです。

やるとすれば簡単なことで、言葉の音と意味が交錯する様にすれば良いわけです。
セリフの工夫して、会話1の言葉と内容が、同時進行する会話2の言葉や内容と関連している様に聞こえるという状態、もしくは全員で別々の長台詞を言っているけれども、なんだか向こうで聞こえた言葉がこっちでも遅れて聞こえた気がするとか、そういう状態を作ります。
初期段階では、指揮者の様な役割の人間に合図を出してもらって、発声のタイミングを調整したり、音を合わせてみたりしていましたが、なんやかんやで慣れるもので、意味の交錯と音の交錯というのは、試みとしては概ね意図通りのものとなりました。
客席では、片方の会話に気を取られると、もう片方が類似した音しか聞こえないとか、なんだか似た様な話題が喋られているけど、なんだかよくわからない。といった空間が生じます。音楽系の人が、全部概ね聞き取れてしまって、ぐったり疲れたという話しがありましたが、それはそれで個人の特殊な事情ですね。
この試み以降は、同時に喋ったり、セリフとしては分けて順番に書いてあるけれども、会話としては一気に喋り合っている状態に近い速度になるという表現がスムーズにできる様になりました。

雑談にしか見えない

私、1993年頃からは基本的にずっと「静かな演劇」の一派というか、最近は現代口語劇とかいう様になったスタイルの台本を書いています、SFだろうが、妙に抽象的だろうが、とにかく書く姿勢としては日常会話の演劇です。
そこをさらに、本当にただ普通に喋っている様に見せるというのをやってみたくなりました。
やはり、予め用意したテキストをセリフとして発声するとなると、声の調子などが少し変わるものです。とにかく、そこを徹底して潰せる様な話しの流れを作り、最後にセリフとして用意した会話を混ぜて演劇的な効果を利用して空気を変えられるかという試みです。
これは、先の「同時に喋る」というのが感覚として掴めてから、場にある音と言葉のバランスで、もっと何かできないかということを考えたことのひとつです。

作業としては、以下の流れのことをしました。
1. 雑談をして、キーワードを記録する。
2. 雑談のキーワードを追って、一度した雑談を再現する。
3. さらに雑談の内容を取捨選択して、役割とシチュエーションを決めて雑談を再現する。
この時点で、雑談を再現した時点ではそうでもなかったのですが、シチュエーションを決めた途端に会話のやり取りがセリフの呼吸に近くなります。
4. セリフを発し、発されたものを受けて返すという間。声を出す瞬間の調子、語尾の調子から、セリフ的な形跡を消す。
セリフ的な形跡と言っても結構曖昧ですが、即興やコントめいたものを見ると、語尾に「こちらのセリフは言い終わったよ」という、合図的な力みが入る様な場合がままあります。
言葉のやりとりをしやすい様に、自然にやってしまう場合や、役者が親しんできた演劇の形式によっては、セリフを言い出す瞬間に気配を発し始め、言い終わると気配を消すという様なことがありますが、とにかくそれをしない様にしない様にしていくのでした。何故って、日常を模倣するのに、そんな演劇的な行為はノイズでしかないからです。
役者たちも、一度は雑談として自分で発声している内容なので、「雑談の時は、そうは喋ってないよ」という指摘に徐々に順応していきます。

これは実際に、とあるバーで、バーでの出来事として上演しました。
バーのカウンターの中のバーテンとして働く二人の女性の雑談と、客としてやってきた餅屋と革製品のリペア職人の雑談が展開していきます。
バーテンの二人は共通の知人の話し、二人の客はそれぞれ職人のよくある話をしています。「めずらしい」「よくある」など、多くの単語がカウンターのあちらとこちらで交錯します。
最後に、一方のバーテンの兄がふらりとやってきて、「金貸してくれよ」と、バーテンに懇願しますが、バーテンは即座に兄を追い返します。
この「金貸してくれよ」の瞬間と言葉の発声は演劇の間を利用します。
しばらくして兄が再び自分の主張をしようと戻ってきて、「話しを聞いてくれ」と戻ってきますが、そんな兄に「座って。おごるから、とりあえずビールでも飲んで」と促します。
兄は着席するものの、即座に「俺はこの後も用事があるからノンアルコールビールで」と言い放ち、再び場はなんともいえない空気に包まれて終わるという内容でした。
「金貸してくれよ」
演劇でもなんでもないかもしれないという場内の空気が変わるにはそのセリフだけで十分だったということも観測できたので、血パンダではパス回しめいたセリフのやり取りの呼吸を廃止する方向で今も稽古しています。

これ、お話し自体は、会場がバーということで、組み合わせで自然にこうなりました。あまり何か考えて物語を作ってないですね。バーと「金貸してくれよ」という兄の存在ありきで、捻らずに組み合わせたものです。

さて、台本パートはこんな感じ。あ、文化庁ギリギリでしたが審査通りましたよ全く。つか、とっくにプロジェクトは完了してるんだってぇの。
『月を見るがごとく』ご覧ください。そして、次回からは稽古パート。待て!次回。


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