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製麺機で麺を作るということ

前回記事から少し間が空いてしまいました。今日は製麺機で麺を作るということについて説明したいと思います。

製麺という作業は基本的には機械製麺か手打(人力)の2種類があるかと思います。大量に製造する製麺工場は基本的に機械製麺をしています。また、自家製麺のお店でも小型の製麺機を導入していることが多いのでそれは機械製麺です。

3年ほど前に地元ケーブルテレビ局に取材してもらったときの映像があります、下記リンクがそうです。前半部分が製麺工程の説明をしているので一度映像を見て頂いてから下の説明を読んでもらえるとわかりやすいかと思います☺️

機械製麺は以下のような順番で作業をします。

①調合→②ミキシング→③複合→④圧延→⑤切り出し・包装

①調合は小麦粉と捏ね水(こねみず)を規定の量だけ計量することです。大きな製麺会社だとサイロから自動給粉・自動給水が普通ですが中小規模の製麺会社は手作業でやっているかと思います。1種類の小麦粉で麺を作ることもありますし、中沢製麺では数種類ブレンドする事も多いです。業務用小麦粉の袋は1袋25kgなので25kg単位で配合する製麺会社も多いかもしれません。(50kg捏ねのミキサーならば小麦粉Aを1袋、小麦粉Bを1袋とかの配合なら半端がでなくて楽なので)

余談ですが、3年ほど前から中沢製麺では下の写真のような計量システムを導入して調合をしています。パソコンで製造する麺と製造量を指定すると秤の画面に次々と指示がでてきます。(水を20Lと画面に出る→秤に20Lの水をのせると次の原料の調合に進める)というシステムで、同時に原材料に貼ってあるバーコードを読み取るので間違えた原料のバーコードをよむとエラーになる。正しい原料を選ぶと自動的に在庫量から引かれていきます。また、すべて記録に残るので〇月〇日につくった〇〇という種類の麺はいつ入荷した原料を〇〇kg計量した、という記録まで残ります。あとでお客様から麺がいつもと違うと言われたときでもその麺の調合まで確認ができます。中沢製麺では数十種類の麺を常に製造しているのでこういったシステムがないとミスが発生しやすい、ミスに気づかないことが多くなってきました。それで導入しました、これはかなり役に立っています。

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②ミキシングはミキサーという機械に小麦粉と捏ね水をいれて生地を作る作業です。まぜている状態は下の写真のような状態です。

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この棒がぐるぐる回って小麦粉と捏ね水を混ぜてくれます。ミキシングの時間も麺によってまちまちです。ミキシングの時間が短いと混ざりが悪いのでボサボサした食感になります。ミキシング時間を長くするとなめらかな食感になり、ある程度の時間まではミキシングが長い方がグルテンの形成が進み弾力が強くなります。それはどういった麺を作りたいかによるので、この時間が正解というのはありません。またミキシングの時間はどの麺でもほとんど変えないという製麺会社も多いかと思います。中沢製麺では麺により3分〜16分くらいまでいろいろなミキシング時間があり、従業員を困らせています😁

また、ミキサーという機械にも種類があります。上の写真のような太い棒が横方向に設置されていてぐるぐる回るのは横軸のミキサーです。製麺会社は横軸が多いかと思います。縦軸のミキサーはパン屋さんやお菓子屋さんなどが使うことが多いようです、製麺屋さんはあまり使いません。何でなのかはよく分からないですがパンの生地の方が水分量が多くひとまとまりになっているので力が必要です、なので横軸のミキサーでは軸の枝棒に力がかかり折れやすいのではないでしょうか。また、パン屋さんはミキサーでは無くニーダーと呼ぶような気もします。パンの業界は詳しくないので間違えてたらすいません。

また、横軸ミキサーにも二本の軸が同時に回る二軸のミキサーもあります。こちらの方が良く混ざるという意見もあります。ミキサーについて深く話しすぎました💦

③複合はミキサーで捏ねた粒状の生地をローラーで潰して帯状にして、2枚の帯状の生地をさらにローラーで1枚に合わせる作業です。さきほどの動画の55秒あたりで行っている作業です。小麦粉に水を加えて捏ねると生地の中にグルテンというタンパク質が網の目状に生成されます。このグルテンが麺の弾力を生み出しています。複合したばかりの生地を押すと生地がへこみますが、すぐに元の形に戻ります。これはグルテンがしっかり形成されていて弾力が生まれている証拠です。さて、なぜ2枚の帯状の生地を1枚に合わせるのかというとそのグルテンの形成を強固&複雑にするためです。この複合をすることでよりグルテンが強くなり、弾力の強い麺ができます。複合は機械で2枚の生地にものすごい力を加えて行っています。なので複合を繰り返し行うと逆にグルテンに力がかかりすぎて破壊され、弾力の無い生地を作ることもできたりします。(通常は失敗作と言われるかと思います。)また、逆にグルテンが形成されにくい生地は複合してもグルテンを強固にできないので複合しないという方法も俺的にはあります。(なぜ「俺的に」というかというと他の製麺屋さんでやってる話をきいたことがないからです。でもちゃんと麺になります。)

④圧延は複合した生地をいくつかのローラーを通して徐々に薄くしていく作業です。さきほどの動画だと1分30秒前後で行っている作業です。下の写真がその画像です。圧延は徐々に生地を薄くしていきます。なぜ「徐々に」かというと、先程複合のところでも話したとおり生地に急に強い力をかけて薄くしようとするとグルテンを破壊する可能性があるからです。なので1つのローラーで3割から5割程度厚みが薄くなっていくように徐々に薄くしていきます。

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⑤切り出し・包装は、圧延で薄くした生地を切刃を通して麺の状態(麺線)にします。下の写真が切刃を通している状態の写真です。

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切刃の話ではよく「番手」という話がでます。ラーメン屋さんなどで「この麺は22番の麺です」などということがあります。番手というのは「30mmの中に麺線が何本あるか」を表しています。22番というと、30mm÷22=1.36mm。麺1本の横幅が1.36mmということです。10番というと30mm÷10=3mmということです。なので番手が多いほど横幅が細い麺、番手が少ないほど横幅が広い麺ということです。博多ラーメンなどは26番や28番、太いつけ麺やうどんは10番などです。

横幅より厚みのある「逆切り」という方法もあります。断面の方が厚みのある麺です。なぜそんなことするのかというと

・断面の方がざらつきがあるのでつけ麺などでスープの絡みがよい。

・断面の方が茹で湯を吸収するスピードが早くなるので茹で時間が短くなる

などいくつかの理由があります。ラーメン屋さんの麺だと家系の麺とか二郎系の麺は逆切りしているという話を聞きます。(余談ですがある製麺会社で製麺の作業員さんがだいたいで厚みをあわせていたら徐々に厚みの設定が変わっていってしまって、最終的に逆切りになってしまって人気がでた麺があるという噂を聞いたことがあります。) ちなみに逆切りは無理な切り方なので切刃や製麺機に負担がかかる方法です。

次に、「なんかあそこのラーメン屋の麺、短くない?」ということありませんか。その理由を説明します。製麺機のローラーの横幅は関東幅と関西幅があります。(今はそういう言い方をするのかよくわかりません) 関東幅は21cm、関西幅は23cmです。ローラーの幅で出てくる生地の横幅は決まってしまいます。最終的に麺が麺線になるところで、「変数」のものと「変数で無い」ものがあります。

【変数 麺の長さ・1玉の重さ】    【変数でないもの 生地の横幅・厚み】

生地の横幅は関東幅か関西幅か使用している製麺機で決まってしまうので変数ではありません。麺の厚みは本来は変数ですが、最初に麺の規格を作った時点で「この麺の厚みは1.5mm」など普通は決めるので厚みも麺の種類によって固定されます。(毎度厚みが違ったら茹で時間とか変わっちゃいますからね、別な麺になっちゃいます) 

1玉の重さも変数ですが、1玉150gなど製品によって決まるので最終的には固定されます。ということで製麺機で麺を作るときは最終的に長さで1玉の重さを決めることが多いです。

家系のラーメンがなんだか短いのは厚みのある生地を150gなど特定の重さに抑えようとすると長さを短くするしかなくなってしまうからです。最終的な調整を長さで行っているからです。逆にお客様から「麺の啜り心地をよくしたいので〇〇cmの長さにしてくれ、重さはこちらで量るから」というリクエストもあります。この場合は最終的な調整を重さでしているという訳です。それが麺の長さの決まる理由です。

製麺会社では出てきた麺線をそのまま包装機に投入してパッケージングします。それで完成となります。

さて、長くなりましたが製麺機で麺を作る工程でした。

製麺機で麺を作る利点は、

①安定した麺を大量に安定的に製造できる ②低加水の麺など手打ちでは作れない麺を作ることが出来る の2つが大きいかと思います。

さて、製麺機で麺を作るということの締めとして「製麺機で製麺」と「手打ちで麺を作る」のはどちらが良いのかという話をしたいと思います。これは麺に限らず世の中のすべてのことに通ずる事だと思いますが、「最終的な目的を達成できる手段の中で効率のよいものを選ぶのが正解で、手段で判断すべきではない」ということだと思います。なので、「手打ちだから美味しい」「機械だから美味しくない」とか決めつけている人も多くいますが、手段では美味しさは決まらないと思います。もちろん手打ちでしかできないこと、機械でしかできないこともあるのでそれは使い分けていけば良いことだと思います。

今回記事のTOPに出ている写真の麺は「カラヒグ麺」(低加水パスタフレスカ)という麺です。製麺会社の大型機械でないと作れない低加水の麺です。


そんなわけで今回も最後までお付き合いいただきありがとうございます☺️ 


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