続く未来

どーする?半年後、卒業だよ。
ほんとだよ、半年後って3月だよ。どーなってるんだろうなー。

高校卒業まであと半年。
学校行きたくないなーと思うのも、あと半年ということ。
半年後には行かなくて良くなる。
行かなきゃいけないときには行きたくないのは人間の性なのか。

半年後、樹(タツキ)は海外に行く。
夕(ユウ)と奏多(カナタ)は地元に残る。

ここは人口1万人程の島。
この島に生まれ育った3人はずっと一緒に育ってきた。
この時間が続くと思っていた。
何の疑いもなく。

半年前、樹が突然、「俺、来年卒業したら外国行くわ。」
と言った時、そうか、皆ずっと一緒にいることが終わるのか、と奏多は思った。
何の疑いもなく、毎年季節ごとのイベントを繰り返して日々を過ごしていた。
正月、誕生日、春休み、夏休み、学校行事、近所のお祭り、親戚や近所の集まり、海が目の前にある生活。
毎年同じようなことを繰り返し、あれ今年だっけ?去年だっけ?みたいな会話をするのも、今年で終わるのかと。

「どこの国行くの?」夕が聞く。
「わかんない。
どこの国に行こうか、行ってから考えようと思う。
とりあえず、モロッコかな。
そこから、陸で行くか海で行くか考えるわ。」

樹ってそんな度胸があって破天荒な人間じゃないよな?
奏多が心の中で思う。
でも、この島にいたら度胸も破天荒も出す場所なかったかもな、とも思った。

「モロッコかー。モロッコなんてどこにあるか何があるかも何も知らないよ。
この島でモロッコのこと考えてた人、樹だけかもよ、笑」
「確かに!それだけで、十分すごいことだわ。尊敬するわ。
本当に行って帰ってきたら、この島の英雄だよ、樹。
俺初めてお前を尊敬するわ。」

ゲラゲラ笑う3人。
奏多はこの時よりもっと、半年前にはもう樹を尊敬してたと思う。

樹がなぜ外国に行こうと思ったか、なぜモロッコに惹かれたのか。
それは樹にも正直わからなかった。
ただ何となく、ここじゃないどこかに行きたい気がしたからだ。
この島が好きで、この生活も時間の進み方も、好きだった。
3人でいることが自然で何の違和感もなかった。
ただ、ここではないどこかに行ってみたいと思っただけだ。
ただそれだけの理由と、発想と行動力が一致しただけだった。

夕は、半年後樹がいなくなることを呆然と考えていた。
半年後、奏多と2人になっちゃうのかと。
3人でいるのが好きだった。
樹と奏多と3人でいるのが最高に楽しかった。
樹と奏多のどっちも大好きだった。

この島に残ることは、樹を待つことでもあるんだなと。
そんなことを考えていた。

「俺も行きたいな、モロッコ。」
「え!?」「は!?」
「お前、大して思ってもないこと何となく言うなよ。心の声でてるぞ。」
「いや、今の今まで思って無かったこと声に出たわ。笑」
「何だよそれ、どっちだよ」

奏多もよくわかっていなかった。
モロッコなんて行きたいとも思ったこともなかったし、考えたこともなかったし、樹に言われた時も何も思いつかないくらい、何も思わなかった。
3人で話してたら、口から勝手にそんなことを発していた。

「俺、本当に何も考えないままこの島にいて、楽しくて、それで良くて、どこかに行きたいとか、人生変えたいとか、本当に思ってなくて。
樹、モロッコ行くなら俺も行ってみたいかもって思ったんだよね。
たった今。笑」

「なんかわかるかも、その感じ。
私も、この島にいることになんの不満も目的もなかったけど、そんなとこに行けるんだーって思った、樹のおかげで。」

「俺もだよ。俺もこの島好きで3人でいるの超楽しくて、何の不満もなかったよ。
今だって、早くこの島出たいとか思ってないし。
ただ、何となく思っただけなんだ。
知ってる?何かとか何となくって思うことが1番確信らしいぜ。」

「何だよそれ、全然確信ねぇ。」
笑う3人。

「本当に半年後、お前モロッコにいるのか?」
「ホントだよね、俺半年後モロッコにいるのかなー」
「すごいねー半年後、モロッコにいる人と話してるよ、私たち。」

モロッコってさ何があんの?何食べるの?
そもそも何語なの?
お前、日本語以外喋れんの?
何か、色々考えたら、お前ヤバくない?!
本気で行こうって考えてる?!

笑う3人。
半年後、でも何年後でも人はどこにでも行けるんだと思う。
明日にでも、ここではないどこかに行くことが出来る。
樹はそのことを2人に教えてくれたんだと思う。
人は行きたい所にいける。なりたいものになれる。
そして帰る場所も待ってる人もいる。


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