『SOREKARA』 セルフライナーノーツ
こんにちは、ハナカミリュウといいます。
今回は先日リリースした拙作『SOREKARA』についてのセルフライナーノーツもとい思い出話を語っていきたいと思います。
はじめに
そもそも今この文章を読んでいる人の大半はEPを聴いてくれた人だと思うので、わざわざ概要を説明するのもくどいと思うのですが一応ざっと説明すると、『SOREKARA』は僕ハナカミリュウが今年(2021年)7月10日にリリースしたEPで、僕がいつもお世話になっているDOG NOISEさんが主宰するレーベルobake maskよりリリースさせていただきました。
その内容はというと
全曲ハナカミリュウ作詞作曲。エレクトロニカ×ボーカロイドを基盤に、ポップス、IDMなどの要素も取り入れたアーティスト本人の音楽的アイデンティティを研ぎ澄まし極めた作品です。
(obake mask「ハナカミリュウ - 「SOREKARA」リリース」https://note.com/obakemask/n/n6fd2ad1c8038)
これはDOG NOISEさんがnoteに書いた『SOREKARA』の紹介文の一部抜粋なのですが、はい、全部説明してくれていますね...
EPの内容をざっくりと説明すると以上で終わってしまうのですが、今回はさらにそこから一歩踏み込んだ、作者本人である僕目線からの語りを行っていきます。
いきさつ
まず「何故このEPを作ることになったのか?」ということについて。
去年のいつ頃からだったかしきりに「EP作りて〜、EP作りて〜」とことあるごとにボヤいており、「だったら作ればいいじゃないか」という話なのですが小っ恥ずかしいことに当時の僕は言うだけタダで何も行動を起こしていませんでした。EPを作りたいという気持ちよりもダラダラと生活していたいというダラけ心の方が勝っていたのかもしれませんね、結局恥ずかしいのは変わりませんが...
そして時は流れ今年の2月、いよいよ「EP作りたい欲求」が限界に達し、重い腰をどっこらしょと持ち上げ制作を始めます。その頃の僕は「締め切りが設定されていれば何かしら作れるだろう」という考えを持っており(今もそうですが)、この時もEPのコンセプトはおろかそもそもどんな曲を作るのかも一切考えておらず、とりあえず締め切りさえ設定してりゃなんとかモノは作れるだろうという見切り発車も見切り発車で制作を始めました。
この時自分に緊張感を持たせるために、自分で自分にオファーメールを出すという大変に虚しいことをしており、そのことを某Discordサーバーで呟いたところ前述のDOG NOISEさんが「そんな事するくらいだったらウチから出さない?」と声をかけてくださり、渡りに船もいいところで僕は二つ返事で快諾し、こうしてobake maskからEPをリリースする計画がスタートしたのでした。
今振り返るとなんちゅう軽はずみな男だと思わざるを得ないのですが当時はそれだけEPが作りたかったのです。
EPを作りたい動機の一つには、何か今後の自分の活動の拠点になる土台のような存在が欲しいという気持ちがあり、トラックメイカーとしての自分の立ち位置はおろか自分がこれから何をしたいのかも今以上にあやふやだった当時の僕はそういったものを非常に欲していました。
その土台となる存在を生み出すことによって、これから先どうすればいいか迷った時に振り返って今一度自分を見つめ直す拠点となり、また自ずと次はこれがしたいあれがしたいというアイデアを生み出すきっかけにもなるのではないかと。これは若干後付けもありますが当時の僕はそういったことを密かに考えていました。真面目だねぇ。
収録曲について
さて、EP制作のいきさつを一通り語ったところで今回の本編である収録曲解説を行なっていきます。
Tr.1 kawoshin
タイトル通りの曲です。
昔からカヲシンのカップリングが好きだったのですが、ある時シン・エヴァンゲリヲン公開のニュースを知り、僕の中でのカヲシン熱が加速します。
それ以後に一度カヲシンソングを作ろうとしたことがあったのですが、その時は上手くメロディと歌詞がハマらずあえなく違うテーマで歌詞を再考することになり、その時のリベンジを今回この曲で果たしました。
歌詞の内容は、世界の根本が書き換わるという壮大な規模感での別れの運命が待っていることを知った、メタの階層にいるカヲルくんの心情を綴ったものになっています。
トラックの原型は僕が所属しているDTMサークルで24時間作曲チャレンジなる企画を催した際に作ったものが元になっています。その時は、「位置」「家」「パソコン」という3つの単語をテーマに各々トラックを作ったのですが、よくこのテーマでこんなトラックが出来たなと我ながら思います。
EPの中で最もポップな立ち位置にある人懐っこい曲で、イントロも何かの始まりを匂わせる神秘的な雰囲気があったので1曲目に置きました。
MVの実写映像は自分で撮影したものをDOG NOISEさんに使っていただきました。
JRの車窓映像を撮影するのに夢中になっていたらさっぽろからいつの間にか恵庭まで来てしまい、「どうしたものか...」ととりあえず駅の周囲を当てもなく彷徨っていると何やら遠くに良さげな歩道橋が。ちょうどシンエヴァのラストシーンのような線路を見下ろす映像が撮りたかったのでここぞとばかりにロケを敢行。撮影ポイントに行くついでに線路の側を歩きながらの映像も撮影しました。
凝った演出やキレッキレのタイポグラフィが光るセンス抜群のMVを作ってくださったDOG NOISEさんには感謝感謝です...
Tr.2 フェーダー
EP随一の暗さを誇る曲です。
いつもトラック先行で曲を作るのですが、シンセのリフレインのフレーズが偶然生まれた時に「これはいけるで...」と思ったのを覚えています。
トラックの方向性としては、今年の1月にobake maskよりリリースさせていただいた「彼方への手紙」と同系統の、Microfunkを経由したIDM的トラックを意識しています。ただ今回はよりポップスの方向に寄せ「彼方への手紙」に存在したようなDJツール的要素を全て排除しているのが大きな違いです。
歌詞についてはあまりにも題材が陰惨すぎるのでちょっと公の場には書きたくないのですが、同時期に作っていた「猫がなく」という曲に若干引っ張られた節があります。「猫がなく」は希死念慮をテーマに友人の2人のラッパー/ボーカリストにマイクリレーをしてもらった曲で、それぞれ別ベクトルの死への感覚が綴られています。この曲のリリックのインパクトが強すぎて無意識的に影響を受けていたのかもしれません。
MVに使われている線が走るアニメーション素材は僕がスマホのアプリで制作したもので、その素材をりきさんが大胆にも加工&その他諸々の制作をしてくれこのような格好良い映像に仕上がりました。
全ての瞬間が格好良いのですが、僕は特にCメロのパートで波打つ白いキャンバスから文字が昇天する演出が好きです。
ちなみに曲名の「フェーダー」は機材に付いてるやつではなく、文法的に正しいのかはさておき「消えゆく者」という意味合いで付けました。
Tr.3 大海嘯(with cotowari)
DOG NOISEさんの別名義であるcotowariさんとの共作楽曲です。
この曲は僕が所属しているFRUIT AT THE BOTTOMというイベントのメンバーと今年の1月に楽曲制作合宿をしていたときに作った曲で、DOG NOISEさんがドロップ前まで作ったのを僕が受け取り、細々としたカットアップパートを作ってはまたDOG NOISEさんに返しまた受け取り...の繰り返しで制作を行いました。何気にEPの中で一番制作開始時期が早かった曲です。
「大海嘯」という曲名はDOG NOISEさんが命名したもので、歌詞を書く際僕はナウシカの作中で起きる大海嘯と現在のコロナ禍の現状を重ね合わせ、今の混乱している世界を半ば破滅的に描きました。
MVはこれまた僕が撮影した実写映像をDOG NOISEさんが加工、タイポグラフィを重ね合わせるという形で制作しました。
沸騰したお湯の泡って実は気持ち悪いんじゃね?という発想で、家にあった鍋に水を張り沸騰する様子をiPhoneで撮影したのですが蒸気が熱いのなんの...、蒸気で火傷しそうになるわカメラのレンズが曇るわで中々に撮影に難儀したのも良い思い出です。
MVのシーンで言うと僕は真っ赤になった泡とどアップで表示される「墓」の文字がお気に入りです。サムネにも設定しました。
Tr.4 H2Oとクジラの歌
Netflix Partyで『海獣の子供』と言う映画を観た後に作った曲です。
ウニョウニョしたサイン波の音や、クチャクチャなビート、ラスサビのパーカッションなど、自分の曲にしては珍しく生物的なアレンジになりました。EPの収録曲はどれもお気に入りなのですが、編曲の完成度で言うとこの曲が一番上手く出来たと自負しています。特にCメロ〜ラスサビのくだりは作っていてあまりのハマりっぷりに興奮して手叩いてました。
歌詞についてですが、映画に登場する"海"と"空"という兄弟があまりにも仲良しでしまいには宇宙になる程だったので、そんな2人の強固な結びつきを表現したいと思い書きました。くどすぎず遠回り過ぎずで歌詞も結構気に入ってます。
MVの映像は僕が指定したものに、DOG NOISEさんがblenderを駆使して3DCGで歌詞を載せた渾身の作になっています。
水面のように揺らいで浮き沈みする文字や、水に沈んだり流されていく3DCGの文字の動きが見ていて気持ちが良いです。ラスサビの演出は鳥肌モノ。
Tr.5 sorekara
EP最後の曲は表題曲です。よくあるやつですね。
この曲のトラックを作るときに、今僕が本当に好きな質感ってなんだろうという疑問が生じ、それを解消するために自分のiTunesライブラリの中身をひっくり返して自分のお気に入りの曲を一つ一つプレイリストに追加していくという作業を行いました。作業と言ってしまいましたが実際のところそれはすごく楽しくて、自分の「好き」が段々と研ぎ澄まされていく感覚が気持ちよかったです。
その過程で分かったことが、自分の好きな曲にはたいてい以下の要素が含まれているということでした。順に挙げると、「デジタル感」「冷たさ」「切れ味」「疾走感」の四つ。この四要素を基軸としてトラックを作った結果「sorekara」が出来上がりました。
余談ですが制作当時、僕の中でロックマン熱が再熱しあくる日もあくる日もロックマンゼロを遊んでいました。そのせいか、四要素の視覚的イメージが完全にロックマンゼロ、というか中山徹さんのイラストで固まってしまい、その結果上のプレイリストのサムネイルはロックマンゼロのイラストを設定しています。
歌詞についてですが、2020年コロナ禍で精神的に参っていた時期に悩みに悩んだ末に「なんとなくこれに縋ってりゃ大丈夫だろというものに自分を委ねようとするから、もしその拠り所がメチャクチャになった時におかしくなってしまうんだ。結局自分のことは自分で決定しないとダメなんだ」という考えに至り、製作時そのことが頭に残っていたのでこれ見よがしに詞にしました。なんか、説教くさいですね...
ただ弁解すると不特定多数の人に演説するような気は毛頭無く、あくまで趣旨は独白です。
この曲の歌詞は、上のような独白に加えてコロナ禍が収束してからの世界が良いものになっているようにという願いを込めた、そういう内容になっています。
MVは僕からのリクエストで、XFDにも使用したけづるさんのイラスト制作時のタイムラプス動画を使用してもらってます。
僕の中でこの曲はEPの中でも中立的な立ち位置にあり、ポケモンで言ったらノーマルタイプな曲なので(?)MVもシンプルなものが良いとリクエストしこうなりました。
この「ノーマルタイプな感じ」が自分の中でうまく言語化できないんですけど、なんかそういう感じなんですよね...
おわりに
以上セルフライナーノーツでした。書きそびれていたのですが、今思うと「彼方への手紙」「光滴る」で挑戦したことをEPとして結実させたいという気持ちも制作の動機にあったのかもしれません。
何はともあれEPをリリースできてよかったと心の底から思います。
この文章を読んでEPを聴く楽しみが増えたのなら幸いです。
それではまた。
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