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走圏の妙味〜子母鴛鴦鉞

この武器は「子母鴛鴦鉞(しぼえんおうえつ)」と言います。

以前の記事で、常識のごとく何の説明もなくこの写真を載せたら「なんですかあれは⁉️」「特別なメッザルーナですか⁉️」などのご質問をいただき、メッザルーナのほうがわからない私めのレールがだいぶ世間から外れていたことを反省する次第。

八卦子母鴛鴦鉞の套路は、石井敏先生から過去何度か示していただいたことがあるが、私は鴛鴦鉞への「共感性」を感じることができず、ちゃんと覚えることもなく放置してしまっていた。

しかしちょうど走圏の掘り下げを行っていたところに改めてこの套路を拝見し、一気に私の身体に「共感性」が生じた。

八卦子母鴛鴦鉞の套路は、八卦掌の基本に乗せて行う。両手に鴛鴦鉞を持ち、走圏とともに展開し、転身しながら変化していく。

正直、パッと見の実用性は疑問。リーチは短く、半端な使い手では長器械相手に戦うのは厳しかろう。逆に短器械としても中途半端。匕首のように隠し持てる大きさでもない。

しかし、鴛鴦鉞とはそういう「わかりやすい実用性」とは異なるところにある武器なのだということが、この度理解できた。

鴛鴦鉞は八卦掌の創始者、董海川が愛用したという。董海川自身が発明したという説もあるとのこと。

今なら、なるほどさもあらん!と思うことができる。

なんといってもこの「U字形」だ。

このU字形と、「前がバックリ空き、背骨でつながっている『人体』」というものとのシンクロ率が非常に高いのである。

このU字形を両手に持ち、走圏を行うと、「傾向に沿っている」感がとても高い。自動的に動いている感じだ。

董海川がこの子母鴛鴦鉞を持てば、リーチのあるなしといった「わかりやすい実用性」などまったく問題にならなかったのではないか。

想像だが、董海川は「武器と身体との共感性」のほうを重視していて、真の実戦において決め手になるのはそちらのほうであると考えていたのではなかろうか。

子母鴛鴦鉞に「共感」するためには「走圏を掘り下げる」必要があった。

眼前に存在したものの本質に気づかず長年を過ごしてきた己の不明を恥じるところだが、よほどの天才でなければ子母鴛鴦鉞がそのような武器であるとすぐ気づくことはできまい。

「良書は、こちらが『そこ』にたどり着くまで待ってくれている」と言われるが、武術にも同じことが言える。

子母鴛鴦鉞は、私が走圏を掘り下げて『そこ』にたどり着くまで待ってくれていた。

これもまた「走圏の妙味」と言えるものではなかろうか。

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