風あたり

6月下旬。
石垣港から船に乗った。
ほとんどが山岳地帯で、マングローブの生い茂る自然豊かな、西表島へ。
昼過ぎに上原港に着くと、路線バスの一日乗車券を買い、島内をぐるっと回った。
ここまではなんてことのない、いつもどおりの旅だった。

終着バス停のそばに食堂を見つけた。そのほかには何も見当たらない、最果ての集落である。
民家の1階を改装して作った店内では、真っ黒に日焼けしたオジイがまるで自宅にいるかのように酒を飲んでいる。仕事を終えた漁師のようだった。

ミーバイの天ぷら定食。からりと揚がった身の味は濃く、ごはんがすすむ。つけ添えのゴーヤの白和えや島野菜の天ぷらも丁寧に作られている。
僕よりもちょっと若い、これまた真っ黒の店主の愛想が良い。
「昔は自分で釣ってきたりしてたんですけどねぇ。最近体力的にキツくて」
「宿も予約せずに来たんですけど、港の近くに民宿がいくつかありましたよね?」
「あるんだけど、やってるかなぁ。なにせコロナでしょ。あと……お客さん、どちらから?」
「東京です」
「内地かぁ……」

このひっかかる言葉がすべてだった。

「もしもし、今晩部屋ありますか?」
「ありますよー。風呂トイレは部屋にあったほうがいいですか?」
「いや、安ければ共同でも」
「はーい。ええと、ちょっと待って。どこから来たの?」
「東京です」
「満室です」
「え?いや、今、風呂トイレとかって……」
「ごめんねー」

「新規のお客さんはとってないんですよ」「今日まで閉めてるんです」
ウソかホントか分からないが、8軒の民宿に断られた。
そういえば石垣島でも「しばらくの間一見の方の入店をお断りさせて頂きます」という張り紙を出した居酒屋を見かけた。
沖縄に限らず、離島の医療体制や高齢者の割合を考えると、当然といえば当然である。
いつになったら大手を振って旅ができるのか。
まして海外など……。

結局、西表に泊まることはかなわず、夕方の船で石垣島に引き返すことになった。
石垣港近くの食堂で、刺身をとり、ビールを飲んだ。
薄いマグロの味が、夏至を過ぎたばかりの八重山の高い空に、溶けて、消えた。

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