夢路いとし・喜味こいし「推理は楽し」

いとし：我々が舞台に出る前には、お客さんいろんなこと思てるやろね

こいし：何をお客さん思てるいうの？

いとし：「いとしこいっさん、今日はどんな衣装で出てくるんやろ？」とか

こいし：それは無いやろ、我々は奇抜な衣装で売ってる訳やなし

いとし：「今日はどんな顔で出てくるやろ、こいっさんはやっぱりブサイクのままやろか？」とか

こいし：ブサイクのままて！衣装は変えられても顔まで変えて出れんやろ

いとし：しかし、我々もたまにはお客さんが「あっ！」と驚くような形で舞台に登場したいもんやね

こいし：例えばどういう形で？

いとし：二人がこうローラースケートで登場するとか

こいし：・・・あのな、我々は光ゲンジやないで！

いとし：そら確かに君は、光らない喜味こいしやで・・・

こいし：ほっとけ！

いとし：そやけど、もし我々がローラースケートで登場したら、お客さん「若いなぁ」と思うやろね

こいし：「若いなぁ」と思う前に「この二人、漫才終わるまでに死ぬやろな」と思うわ！

いとし：我々はともかく、私は漫才の若手には言うてるねんで

こいし：何を？

いとし：「歌手に負けんように、君らも流行をどんどん取り入れなさい」

こいし：そう言えば、光ゲンジのローラースケートに刺激されたんか、一輪車に乗って唄う、女の子の歌手グループまで出て来てるね

いとし：そやから私、若手の漫才師に言うたったんや「君らも負けんように竹馬に乗ってやれんか」と

こいし：・・・あのな、一輪車は流行ってるけど、今、竹馬流行ってるか？

いとし：私の若い頃流行ってたで

こいし：そら大昔やろ！

いとし：舞台に出る前だけと違ごて、我々が漫才やり出してからも、お客さんはいろんなこと想像しますよ

こいし：どんなこと？

いとし：「この二人一体何才くらいやろ、こいっさん百才超えてるの違うやろか？」とか

こいし：なんでやねん！私が百才越えてたら、君は私の兄貴やからその上やで

いとし：「こいっさんはいつも、奥さんのことボロカスに言われてるけど、本当はこいっさんの奥さんて美人と違うやろか」とか

こいし：これは思てる、絶対思てる！

いとし：思てる人は、本物見たら「思て損した」と思いますよ

こいし：どういう意味やそれ！？

いとし：「いとっさんてどんな家に住んではるのやろ」て思てる人もいるかもわからんよ

こいし：これはいるかもわからんね、大した家には住んでまへん

いとし：そう、名古屋城をちょっと大きくしたような家ですわ

こいし：見栄を張るな！

いとし：君の家のことかて思てるお客さんもいると思うで

こいし：私の家のどんなとこを？

いとし：「こいっさんの家にある、冷蔵庫の中て何が入ってるのやろ？」とか

こいし：・・・あのな、そんな細かいことまで想像する人間がどこにいるねん

いとし：うちの嫁はん、いつも君とこの冷蔵庫の中想像してますよ

こいし：なんで君とこの嫁はんに、うちの冷蔵庫の中を想像されないかんの？

いとし：うちの嫁はんにとっては、ライバル意識があるわけや

こいし：ライバル意識！？

いとし：そやから私、うちの嫁はんに言うてやってるねん

こいし：どう？

いとし：「こいっさんとこの冷蔵庫はな、カズノコ、メロン、お頭付きのタイ、マツタケ」

こいし：（気取った格好）まあそれぐらいはね

いとし：「イクラ、ウニなんかのシールをベタベタ貼ってるで」

こいし：シールて、そんなもん貼ってるかい！奥さんは中身を知りたがっとんのやろ

いとし：「中身はな、バーゲンの玉子、バーゲンの塩シャケ、バーゲンのキャベツ、バーゲンのナスビ・・・」

こいし：うちはバーゲンしか買わんのか！

いとし：それを聞いて、うちの嫁はん安心したようにバーゲンへ出かけよる

こいし：えらいライバル意識やなぁ！

いとし：しかし、人間て人様のことをいろいろと知りたがるとこがあるね

こいし：それがあるから、写真週刊誌なんかも相変わらず売れてるわけや

いとし：写真週刊誌と言えば、この前私、二人でホテルから出てきたとこをカメラでパチッ撮られまして

こいし：君が誰とホテルから出てきたことを？

いとし：大原れい子

こいし：嘘つけ！大原れい子さんが、君とホテルに入ってくれるか！

いとし：入ってくれへんから出てきてん

こいし：・・・出てきたということは入ったんやろ！

いとし：ホテルいうてもやらしいホテルと違うで、普通のホテルやで

こいし：それでも相手は大原れい子やろ？

いとし：そうそう

こいし：スターの

いとし：そうそう、スナック・スターの

こいし：スナック・スター！？

いとし：たまってたツケを、ホテルのパーラーで、大原れい子いうママに払ろて、一緒に出ようとしたところをパチッや

こいし：・・・そんなところやろな

いとし：それでも心配したで「夢路いとしにまたまた愛人か！」て書かれたらどないしよ思て

こいし：またまたて、君一回でもそんなこと書かれたことあるんか？

いとし：見栄張らしてえな。私かて、京本直樹と何もかも似てるてよう言われるんやから

こいし：どこが似てるねん！

いとし：でも私は開き直って言うてやったよ「撮りたかったら何枚でも好きなだけ撮りなさい」

こいし：ほなカメラマンどう言うた？

いとし：「撮らしてもらいますから、お二人さん、ちょっとどいてて下さい」

こいし：どいてて下さい！？

いとし：ホテルのドアの修理箇所を確認するカメラマンやってね

こいし：そんなことやと思たわ！

いとし：でも、人の秘密を探って、話を面白くするために背ビレ尾ヒレを付けるああいうのて、私は嫌いやね

こいし：そんなこと君が言える立場か

いとし：どうして？

こいし：君とこの嫁はんかて、他人の秘密を探っては、背ビレ尾ヒレを付けて近所に言い回りよるで

いとし：うちの嫁はんそれが好きやねん

こいし：うちの夫婦がこの前、久しぶりに夫婦喧嘩した時かて、それをかぎつけた君とこの嫁はんどない言うて回りよった

いとし：どう言うて回りよった？

こいし：「こいっさんとこの夫婦、大喧嘩しはりましたで」

いとし：話を面白くするために背ビレがちょっと付いたんや

こいし：「物の投げ合いでっせ」

いとし：尾ひれや尾ひれや

こいし：「こいっさんの奥さん、出刃包丁まで振り回しましてね」

いとし：胸ビレや胸ビレや

こいし：胸ビレまで付けるんかい！それだけないぞ

いとし：嫁はんもっと他に付けたか？

こいし：「奥さん荷物まとめて里へ帰らはりましたで」こうや

いとし：腹ビレ腹ビレ！

こいし：「離婚寸前ですよ」

いとし：フンやフンや！

こいし：フンて・・・君とこの嫁はんて、ヒレだけでは飽き足らずにフンまで付けて喋るて、ほんま、金魚みたいな嫁はんやな

いとし：今何言うてくれた？

こいし：金魚みたいな嫁はん言うてるねん

いとし：うちの嫁はんてそんな可愛い？

こいし：違うねん！ちょっとしたうちの夫婦喧嘩を、離婚寸前までにしてしまうから、背ビレ尾ヒレの大きい金魚みたいやと言うとんのや

いとし：言うとくけど「離婚寸前」と違ごて、君とこは「もう、離婚届出した」てうちの嫁はんは言いまわったはずやで

こいし：アホな！君とこの嫁はんにうちの嫁はんを見習わせ

いとし：うちの嫁はんが君とこの嫁はんを見習うて？

こいし：そうや

いとし：嫌やでそれは、うちの嫁はんをこんな体の牛女にさせるの

こいし：・・・スタイルを見習わせ言うてるの違うねん！うちの嫁はんは、人様の不幸を一切背ビレ尾ヒレを付けて、喋りまわったりはせんやろ

いとし：それは認めよ。けど君とこの嫁はんかて、よそで不幸があったら回ってることは回ってるで

こいし：どう言うて回ってるいうねん

いとし：頭にローソク立てて、「たたりじゃ、たたりじゃ」言うて

こいし：・・・うちの嫁はんは横溝正史の世界の嫁はんか

いとし：横溝正史と言えば、私、うちの嫁はんに言うてるねん

こいし：何を？

いとし：「よし子、他の家のことをいろいろ想像してたら嫌われるよ。そんなに想像したかったら、推理小説でも読んで犯人を推理したらどうや。な、推理しい。炊事・洗濯の方は今まで通り私がやるから」

こいし：情けないな！そやけど君の言う通りや、推理小説はいいよ、私も横溝正史から江戸川乱歩、松本清張を読み漁ったもんや

いとし：最近は生ゴミも漁ってるそうやないか

こいし：漁るかい！野良猫やないねん

いとし：けど、君が推理小説ファンとは知らなんだね

こいし：そやから、私なんかちょっと本を読んだら犯人を当ててしまうから、余程よう出来た本やないと読む気がせんね

いとし：ほなこれちょっと推理してや

こいし：どんな推理や？

いとし：ある男が遊園地にある長い滑り台を滑りました。ところが、途中で男の姿が見えなくなってしまいました。男はどうしたのでしょう

こいし：滑り台にへばりついか、それとも裏へ隠れたか。

いとし：残念でした。実は滑り台にはサンドペーパーが敷き詰めてあり、男はすり減って消えてしまったのでした

こいし：しょうもない推理をさすな！

いとし：ではこの事件は、自殺だったのでしょうか

こいし：滑り台にサンドペーパーを敷いて自殺する奴おらんやろ、他殺やろなこれは

いとし：残念でした。この事件はマサツでした

こいし：勝手にせい！推理小説ファンの私にしょうもない推理させるな

いとし：実は私今、本格的な推理小説を書いてるんですけどね

こいし：君が本格的な推理小説を？

いとし：君その犯人推理できるか？

こいし：君の書いた推理小説の犯人ぐらいすぐ当てたるよ。私はベテランの推理小説ファンやで。で、どんなストーリーの本書いたんや？

いとし：「それは、町はずれの、とある一軒家から始まるのである」

こいし：とある一軒家

いとし：なんで、とある一軒家にしたかわかるか

こいし：なんでや？

いとし：一軒家に戸が無かったから、寒うて寝てられんやろ。そやから「戸ある一軒家」

こいし：とあるいうのはその戸かい！？

いとし：「その一軒家には、桃田一郎３６才と妻の花子３２才、それに小学生の二人の息子が住んでいる」

こいし：なるほど

いとし：「桃田家の朝は早い。アムステルダムの朝は早いというコマーシャルも昔あった。朝はどこでも早いのに決まっている。晩のすぐ前が朝であったら、昼じゅう夜だらけである」

こいし：しょうもないこと書くな！どこが本格的な推理小説や！

いとし：「朝食を済ませると、妻は看護婦として勤める病院へ、そして子供たちは学校へと出かけた」

こいし：主人の職業は何や？

いとし：「主人の桃田一郎は、その後、山へ芝刈りに出かけた」

こいし：今時、山へ芝刈りに行くか？

いとし：「芝刈りと言っても、山に作られたゴルフ場の芝である。桃田はゴルフ場の管理の仕事をしていた」

こいし：なるほど、ゴルフ場の芝刈りね

いとし：「桃田が芝刈り機で芝を刈った時である。桃田は「あっ」と驚きの声をあげた」・・・さ、そこで君に推理をしてもらうで

こいし：どんな推理や

いとし：さて、この事件の犯人は誰でしょう

こいし：わかるわけないやろ！

いとし：わからんか。ほな、私の本は横溝正史、江戸川乱歩、松本清張よりもよう出来てる訳やね

こいし：そやないねん！まだ事件も出て来てへんのに犯人がわかるわけないやろ、話を先に進めんかい

いとし：「なぜ桃田が叫び声をあげたかというと、そこにプロゴルファーの青崎が殺されていたのである。昔刑事をやっていたことのある桃田はとっさに『これはゴルフ場密室殺人事件だ』直感した」

こいし：どこが密室やねん！

いとし：「昔、医者をしたこともある桃田は死体の状況から見て、死亡推定時刻は昨日の暮れ六つと判断した」

こいし：暮れ六つてな・・・

いとし：「桃田は昔、時代劇映画の監督もしていたのである」

こいし：いろんなもんやっとったんやなぁ！

いとし：「桃田が調べてみると、青崎の頭にはホーテで殴られたような跡が残されていた」

こいし：ホーテ？

いとし：「いや、ドンキで殴られたような跡が残っていた」

こいし：ドンキホーテ・・・勝手にせい！

いとし：「その凶器らしき物は見当たらなかったが、死体のそばには、破裂するようにして破れた布袋と、砂が散らばっていた」

こいし：なるほど・・・凶器は何であったか、想像つくね

いとし：そこで君に推理してもらお

こいし：やりましょう喜んで

いとし：凶器は布袋に砂をギューギューに詰めて殴ったと判明したんやけど、殴られる前、被害者の青崎は犯人に対してどう言ったでしょう

こいし：わかるかいそんなもん！私はその凶器は何やを当てるのや思たわ

いとし：わからんか、回りに砂が散らばっとったんやで

こいし：わからん、どう言うたんや？

いとし：「スナー！スナー！」

こいし：帰るわ！こんなんどこが本格推理小説や

いとし：まあまあもうちょっと聞いて

こいし：凶器は袋に砂を詰めたものやとわかって、その後どやねん！？

いとし：「青崎の性格は良く無く、殺人の動機を持つと思われる者は数多くいたが、結局は三人に絞られた」

こいし：三人にね

いとし：そこで君に推理してもらうで

こいし：何を？

いとし：犯人はプロゴルファー仲間の田中栄二でしょうか、キャディの高田恵美子でしょうか、支配人の加藤よしおでしょうか

こいし：わかるかいそんなもん！

いとし：犯人が三人に絞られた言うのに、君まだわからへんか、君は推理小説のベテランファン違うんか

こいし：なんぼベテランでもわかるわけないやろ。その三人の名前て今初めて出てきたんやで

いとし：そんなもんかなぁ、私なんか犯人はすでにわかってるで

こいし：そらわかってるやろ！君が書いとんねや。こっちはもうちょっと聞かなわかるかい

いとし：「被害者は、かなりの力で殴られたと思われる」

こいし：なるほど、それで犯人は、プロゴルファー仲間の田中か、支配人の加藤の二人にしぼられるわな

いとし：なんで？

こいし：キャディの高田恵美子は女やろ、かなりの力いうのは無理やろ

いとし：「キャディの高田恵美子は、元女子プロレスラーであった」

こいし：・・・あのな

いとし：「調べてみると、被害者の青崎は芝生の上の土に、指で、E・Tという英語を書き残していた」

こいし：犯人は田中栄二か高田恵美子に絞られるね。どっちもイニシャルがETや。支配人の加藤よしおはYKやからね

いとし：支配人の加藤は、その顔つきから、ETというあだ名があった

こいし：勝手にせい！

いとし：「もっと調べてみると、犯人の足跡らしきものが残っており、その足跡の大きさは４５センチで、足跡の深さは１５センチに達していた」

こいし：待てちゅうねん！そんな足跡残すの化け物しかおらんで、それちょっと話がオーバー過ぎんか！？

いとし：オーバーでええねん

こいし：なんで

いとし：話を面白くするために、背ビレ尾ヒレを付けてるねん

こいし：もうええわ！