コメディNo.1「コメワンの人生教室」

前田：いらっしゃいませ、コメディNo.1の前田五郎です

坂田：ジャニーズ少年隊の坂田利夫です

前田：君のどこが少年隊や！こんなデボチンの禿げた少年隊おるんか。このデボチンは少年隊と違ごて発光体やないか

坂田：ほっとけ！

前田：しかし、そういうしょうもないこと言うてるから、いつまでたっても結婚できんのやで

坂田：結婚の話はやめてくれ、私が未だに独身でいるのは深い事情があるのや

前田：深い事情というと？

坂田：それには、私の生い立ちから話さないかんねや

前田：へー、君にも生い立ちあったん？

坂田：あるわい！

前田：その、生い立ちいうのを聞こやないか

坂田：皆さん、私の産まれは大阪市の港区というところです

前田：それはよう聞くわな

坂田：私が産まれた当時、父さんは会社員をしており、母さんは炭鉱夫をしてました

前田：待て待て、母さんは炭鉱夫やてかい

坂田：そう、近所の病院のな

前田：そら看護婦やろ！炭鉱夫いうたらな

坂田：♪おいらはな、生まれながらの炭鉱夫♪これやろ

前田：わかっとったら間違えるな！

坂田：（思い出を語る調子で）肉親が共働きの為、私はすぐに保健所へ預けられました

前田：・・・保育所へ預けられたんやろ

坂田：しかし、私が三つの時、母さんは看護師をやめました

前田：わかるなぁ、やっぱり母親として子供と一緒にいてやりたかった。それで看護師やめたんやろ

坂田：いえ、病院の注射器を横流ししてやめたんです

前田：なんちゅうおかんや！

坂田：そして一年後、父さんは病のユカにつきました

前田：ユカと違ごてトコと違うんか？

坂田：ええやないか、ユカもトコも字は同じやないか

前田：意味は全然違うねや！

坂田：そして、父さんは明日をも知れない状態になったんです

前田：そら気の毒に

坂田：やせ衰えた手で、その時、父さんは私の手をしっかり握って一言いいました

前田：どう言うた

坂田：アホの坂田ァー！

前田：・・・死にかけのおとんが息子の手握って、そんなこと言うんか

坂田：そして三日後、父は召されて地獄へ参りました

前田：天国へ行かせたれや！

坂田：一家の主を亡くした、母と子はその日から、ドトウに迷いました

前田：ドトウと違ごて、路頭やろ

坂田：でも、それから一年ぐらいはたくわえでなんとか生活できました

前田：ちょっとは貯金してたわけや

坂田：でも、それ以降は、明日食べるマツタケもカズノコも無くなったんです！

前田：それまで贅沢しとったんやなぁ！

坂田：そして一年、私に弟が産まれました

前田：待て待て、おやじは病気で二年前に亡くなったんやろ

坂田：それからまた一年、私に妹が産まれました

前田：親父もおらんのに、なんで君に弟や妹が出来るねん！

坂田：そんなんおかんの好き好き違うんか？

前田：えらいおかんやなぁ！

坂田：生活はますます困るようになりました

前田：そら困るわいな、君一人でも大変やのに、弟と妹が出来てしもたんやからな

坂田：私は当時、まだ学生ながらに朝シジミ売りのアルバイトをしました

前田：シジミ売り

坂田：（売り声）シジミー！シジミー！（だんだん寂しく）シジミー・・・シジミー（ハンカチを取り出し、大声で泣く）ウォーッ！

前田：何を泣いてんねや？

坂田：当時の頃を思い出したら、泣けて泣けて、ウォーッ！、ウォーッ！・・・皆さんもご一緒に

前田：アホか！しかし、シジミ売りなんていくらも儲からんやろ

坂田：（泣き声で）一月働いてわずか三十八文。これでは妹を山椒大夫の元へ送らなしゃあない

前田：・・・お前、口から出まかせを喋ってるやろ！

坂田：でも、私ら一家はなんとか頑張って生きて行きました。そして私は誓ったんです

前田：何を誓った言うねん？

坂田：妹の花嫁姿を見るまでは、俺は独身で通して家族の為に頑張るぞお、っとね

前田：なるほど、それが君が未だに独身でいる訳や、と言いたいんかい

坂田：皆さん、美しい話やと思いませんか、美談やと思いませんか、美談やと思われる方、拍手を下さい、そしてわずかでも結構です、お金投げてください

前田：皆さん、こいつのええ加減な美談に騙されてはいけませんよ

坂田：ええ加減な美談てどういうこっちゃねん、どこがええ加減や

前田：親父が病の床についた話、死んだて言うたなぁ

坂田：そやから、私が親父代わりになって一家を支えてきたんや

前田：ほな、君とこにいつもおるおっさんあれ誰や、あのおっさんテレビに出て「地神兼弘六十五才、利夫の父親です」てやっとったやないか

坂田：・・・マーそれはやね

前田：妹が嫁に行くまでは独身で通すやて・・・妹３年前に嫁に行って、もう戻って来たやないか

坂田：・・・皆さん、美談には気を付けましょうね

前田：だいたい、自分の過去をええように人は喋りたがる人間に、ロクなもんありまへんで、ほんまに苦労した人間いうのは、自分の過去はあまり喋りたがりません

坂田：そう言えば君は過去を喋らんね

前田：私こそ苦労して育ったんや

坂田：それは時々わかりますわ、君の何気ない時に、苦労時代の名残りが出るもん

前田：私の何気ない時に苦労時代の名残りが出るて？

坂田：二人でレストランで食事しますやろ、食べ物が運ばれたとたん「これ僕のおかずや、僕のおかずや、兄ちゃん姉ちゃんとったらあかんで！」と、こういう発作が時々おきまんねや、昔苦労してまっせ

前田：恥ずかしい話やけど、子供の頃のクセが抜けまへんねやなぁ

坂田：旅先の同じ部屋で寝る時おまっしゃろ、寝言いいよんねや

前田：どんな寝言私いう？

坂田：「お父ちゃん、今日は何盗んできたん？給食代にはなったか？」・・・苦労して育ってまっせ

前田：・・・ま、いくら苦労しても、気持ちを明るく、人生を生きて行きたいと私はいつも思うね

坂田：くよくよ生きるも人生、明るく生きるも人生、同じ人生ならくよくよ生きな損でんがな

前田：明るく生きな損やねん！

坂田：ほんまでっせ、人生なんて一生に一度しかおまへんねや

前田：一度に決まってるやろ！しかし、人生なんて、これから先は誰にもわからんというところに面白さがあるんやろ

坂田：それは言えますね

前田：コンピュータなんかがもっと発展して、人の先の人生までわかってしもたら、こないなりますわ

坂田：すんまへん、私のこれからの人生、コンピュータで調べてもらいたいんですが

前田：坂田利夫さんの今後の人生ですね、何年先を調べましょか

坂田：十年先、私どうなってますか？

前田：わかりました。カチャカチャカチャ（ボタンを押す格好）はい出ました。坂田利夫さんの十年先は、漫才師、独身、アホ・・・殆ど今と変わってまへんな

坂田：二十年先を見てちょうだい

前田：二十年先ですね・・・カチャカチャカチャ・・・坂田利夫さんの二十年先・・・今とはだいぶ変わってますよ

坂田：どない変わってます？

前田：お骨・・・無縁仏

坂田：・・・あのな

前田：アホのお骨・・・これだけは変わりまへんな

坂田：ええ加減にせいよ、お骨にアホとか秀才とかあるんか！

前田：先の人生がわかってしもたら、ちっとも面白ないわな

坂田：楽しみ悩みがいつ出るかわからんから、人生生きて見ようとおもうわけや

前田：けど、私は今、悲しい人生を送ってる人の為に「人生相談」に応じてあげてるんですよ

坂田：人生相談て・・・悩み事を訴えて来た人にアドバイスをしてあげる？

前田：それそれ

坂田：そのアドバイスが的外れで、余計にごたごたが起こっても、絶対に責任を取らんアレ

前田：そういう捻くれた言い方をするな。私の場合は、アドバイスを与えるだけではなく、最後まで責任をもって解決をしてあげる人生相談や

坂田：これは立派や

前田：そやから、知る人は、私のことを「お助け五郎」と言うてくれるか

坂田：お助け五郎・・・昔、将棋盤頭の五郎の君が

前田：いらん事いうな！

坂田：（電話を取る）もしもし、お助け五郎さんのお宅ですか？

前田：そうですが

坂田：実は、私、５０才になる主婦で、田中花子と申しますが

前田：田中花子さんですね、で、人生相談の要件は

坂田：実は、主人が若い女に夢中になりまして、生活費さえも家に入れてくれません。なんとかしてください

前田：わかりました。早速あんたのご主人に会って、解決して参りましょう・・・そして、お助け五郎は愛車に乗って、相談相手のご主人が勤める会社へ向かった

坂田：お助け五郎出勤・・・五郎は愛車を懸命にこいで向かった

前田：（自転車をこぐ格好）私の愛車は自転車か！

坂田：ええやないか

前田：ここが主人の勤める会社だな・・・もしもし、あなたが田中花子さんのご主人の田中武夫さんですか

坂田：（いばった感じで、パイプをふかせながら）そうだが、あなたは

前田：この会社では、だいぶ偉い地位におられるようですね

坂田：部長をやっておるよ、ワッハッハッハッ！

前田：（大声で）あなたの隠し女のことで参りました

坂田：（小さくなって）こっちへどうぞこっちへ！

前田：あなたの隠し女の・・・

坂田：大声を出さないで大声を

前田：田中さん、今のままでは奥さんがかわいそうではありませんか

坂田：それはよくわかっとるんだがね、でもナオミが可愛くて可愛くてなぁ

前田：ナオミというのは、その隠し女の名前ですか

坂田：そうなんだよ、ボインでな

前田：ボイン？

坂田：嫁はん、ダラン！（恰好）

前田：・・・

坂田：肌もムチムチー！

前田：ムチムチー！

坂田：嫁はんシワシワー！・・・その上におっそろしいベッピンさん

前田：会いに行こう（行きかける）

坂田：アホなアホな、ナオミは私の女なんだよ

前田：会って、あなたと別れさせるんですよ

坂田：待ちなさい！

前田：・・・ボイン、ムチムチのベッピンさんか、ナオミというのはすごい女やなぁ、ここがナオミのマンションやな、ピンポーン、ピンポーン、ナオミさんいらっしゃいますか

坂田：（女っぽい格好で）どなた、私ナオミよ・・・マー、頼もしそうな男（流し目）

前田：・・・あの部長は言うてたんと全然違うがな

坂田：私に何の用なのよ

前田：ナオミさん、あなた、田中さんとすぐに別れてください

坂田：私だってあんな男とすぐに別れたいわよ、でも私の男がね、金をとれるだけ引っ張っておけとやかましいのよ

前田：その男に会いましょ

坂田：怖いわよ

前田：会わずには帰れませんよ、会わせてもらいます

坂田：（チンピラ風に）ごじゃごじゃぬかしとんのは、どこのどいつじゃい。わいを誰やと思てけつかるねん。わいはこのへんでは顔役で通っとんのやぞ、なんで顔役や言うたろか、この前コンロで顔焼いたんじゃ

前田：おっ、お前、チンピラの坂田やないか

坂田：・・・あっ、これは、将棋盤頭の五郎にい

前田：未だにお前はヨタっとんのかい

坂田：他にすること無いもんで

前田：マーええわい、とにかくナオミを田中さんから手を引かせんかい

坂田：兄貴、私だって手を引かせたいんですわ。そやけど、がめついおばちゃんから借金してもうて、その借金を返すまでは、金いりまんねや

前田：よし、そのがめついおばはんに会いにいこやないか

坂田：えげつないおばはんでっせ

前田：がめついおばはんいうの、この家やな、こんにちは！

坂田：なんでっか、イッヒッヒッヒッ、イッヒッヒッヒッ！

前田：気色悪いな！

坂田：あんたは坂田はんの借金返しに来はったんでっか

前田：そやおまへんねや、借金なんとかしてやってほしいんだ

坂田：そんなこと出来まっかいな。私は主人に女が出来て、自分の生活費稼がないけまへんねや

前田：主人に女て、あなたの名前は？

坂田：田中花子・・・あら、あなた私が相談したお助け五郎さん、なんとかして！

前田：あかんわ