夢路いとし・喜味こいし「あなたやめられますか」

いとし：私、最近の大学生を見てると腹が立ってしょうがないね

こいし：どうして？

いとし：電車の中とかバスの中で漫画を読んでる大学生、この頃多いでしょう

こいし：多いねえ、漫画しか読まん大学生もいる言うがな

いとし：私が大学行ってた頃なんか考えられんことやで

こいし：待て待て、君、大学行ってたん？

いとし：行ってましたよ、昔

こいし：昔ていつ頃大学行ってたん？

いとし：中学生の頃ですよ

こいし：・・・訳の分からんこと言うなよ。中学生の頃に大学へ行くわけないやろ！

いとし：行ってましたよ。私中学生の頃、新聞配達してたんやで

こいし：・・・わかったわかった、大学へ新聞配りに行ってたわけや

いとし：そうですよ

こいし：学びには行ってないんやね？

いとし：行きたかったんやけど、親が「大学行くより手に職をつけた方がええ」言うて反対しましてね

こいし：昔の親はそういう考えの人多かったなあ

いとし：私は手に職をつけるより、頭に職をつけたかったんや

こいし：つまり、頭脳労働者になりたかったわけやね

いとし：結局、頭と手の間を取って、口に職を付けて漫才やってるわけです

こいし：・・・おかしな間やな！

いとし：考えてみれば、昔は大学へ行く者も少なかったね

こいし：今は猫も杓子も大学へ行きよるからね

いとし：猫や杓子が大学へ行きますか？

こいし：例えや！誰も彼もが大学行く言うとんねや

いとし：大学は出てなくても、私は常にインテリですよ

こいし：君がインテリ？

いとし：そのうえ嫁はんがヒステリで娘がポッテリですよ

こいし：ポッテリて？

いとし：ポッテリ肥えてんねや

こいし：それと君のインテリとどう関係あるねん！

いとし：だからインテリを名乗るだけに、私、漫画なんか読んだこと無いよ

こいし：いつもどんな本読んでるの？

いとし：最近は歴史ものにこってまして

こいし：ほー、歴史もののどういう本？

いとし：こないだ読んだんが「一休さん」

こいし：「一休さん」・・・あれ歴史ものか？

いとし：ほな推理ものですか？

こいし：歴史ものには違いないけど、大の大人が「一休さん」てね

いとし：馬鹿にしてるけど、私の読んだのは、ピクチャーブックの「一休さん」やで、凄いでしょ

こいし：ピクチャーブック・・・日本語に直すと？

いとし：絵本

こいし：どこが凄いねん！

いとし：字は大きいわ漢字はないわ、すごい読みやすいですよ

こいし：そら読みやすいやろけど、漫画と変わらへんがな

いとし：孫の誕生日に絵本買うてやろ思て、どんな絵本がええかなあと本屋でいろいろ絵本を読んでいるうちに、やみつきになりましてね

こいし：しょうもないもんやみつきなるなよ

いとし：でも「一休さん」なんか読んでると感心させられるね

こいし：とんちがすごいやろ

いとし：そんなんで感心するんやないねん

こいし：というと？

いとし：今の人に比べると、昔の人はおおらかやったいう事に感心させられるいうねん

こいし：ほー、昔の人はそんなにおおらかか？

いとし：一休さんが通ってはいかん橋を渡った後、「私は橋を通らずに、真ん中通ってきました」いう話あるやろ

こいし：「一休さん」の有名な話や。その一休さんの言葉に、みんなが「なるほど、参ったハッハッハッ」笑って感心するねん

いとし：今、もしかある子供が工事中で渡ったらあかん橋渡って「私は橋を通らず真ん中通ってきました」て言い訳したとしてみ。「なるほど、参ったハッハッハッ」いうて工事のおっさんが笑って感心すると思うか

こいし：・・・せんやろねぇ

いとし：「クソ生意気なガキや」言うて怒鳴るで

こいし：そら怒鳴るやろ

いとし：「毒やから食べたらあかん」言われた水飴食べて「なんで食べた」言われたら「和尚さんの大切な壺を割ってしもて死の思た」いう話あるでしょ

こいし：これも有名な一休さんの話や

いとし：もし今、自分の子がそんな言い訳しよったら「なるほど、これは参ったアッハッハッ」て笑うか？

こいし：「悪質すぎるわ」言うて、どつきまわしたるわ

いとし：昔の人はおおらかやったやろ

こいし：これは一つの伝説やないか

いとし：もし一休さんが今の時代の人やったら酷いもんやろね

こいし：酷いというと？

いとし：例えば、スーパーの文房具売り場でモノサシ盗むとするわな

こいし：一休さんがモノサシ盗むて？

いとし：「なんで万引きした！」て怒られたら、一休さんまた言いよるで
こいし：何を？

いとし：「いえいえ私は万引きしてません、万引きやなしにセンヒキ盗んだだけです」

こいし：モノサシやから線引きかい

いとし：ほなスーパーの店員「なるほど、これは参った、ハッハッハッ」と笑うやろか

こいし：あのな・・・

いとし：一休さんが電車の中で、人の財布をスッたとするわな

こいし：一休さんがスリを！？

いとし：「なんでスリなんかした」て怒られたら、一休さんの性格やったらきっとこう言うで

こいし：どう？

いとし：「私はスリなんかしません、盗んだ財布は四個やから、スリと違ごてフォーです」

こいし：・・・四個でフォーね

いとし：ほな捕らえた人「なるほど、これは参ったハッハッハッ」と笑うか

こいし：笑うかい！警察引っ張って行くわ

いとし：そやろ、その点昔の人は大らかやから、絶対「参ったハッハッハッ」言うて許してるで

こいし：だいたい一休さんがそんなことするわけないやないか

いとし：私この「一休さん」を読んでて、昔も今も変わらんなぁと思うのが、人間て、人が「やったらいかん」いうことをやりたがるいうことやね

こいし：そういうところは、昔も今も人間の変わらんとこかもわからんね

いとし：例えば「芝生の中へ入ってはいけません」て書いてあったら、余計入ってみたくなるとこ、人間にはあるやろ

こいし：あるある「この芝生そんなにええ芝生なんかなぁ」思てね

いとし：「この池で魚釣ってはいけません」て書いてあったら余計釣りたなるやろ

こいし：「いけませんて書いてあるぐらいやから、よほどいい魚がおるんやろな」いう心理でね

いとし：人殺しは重罪やて言われてても、人殺しは無くならんしね

こいし：無くならんね

いとし：「重罪や言われてるから、よほどええことあるんやろな」いう心理があるんですよ

こいし：あるかい！しかし、確かに人間には、人の言う事に逆らう心理はあるね

いとし：その心理を利用して、最近いろんな事してますねん

こいし：いろんな事て？

いとし：うちに今、嫁に行き遅れてる娘が一人おるでしょう

こいし：おるおる、とても貰ろてもらえそうにないブサイクな娘おる

いとし：その娘に、このごろ背中に紙貼って歩かせてるねん

こいし：背中に紙貼って歩かせてる？

いとし：「私はどうしようもない女ですから、私には絶対結婚を申し込まないでください」と書いた紙をね

こいし：ほー

いとし：人間には逆らう心理があるんやねぇ。その紙貼って歩くようになってから、その娘に結婚の申し込みが殺到しだしてね

こいし：ほんまかいな！

いとし：それから、私このごろ街を歩く時大声を上げながら歩いとるで

こいし：どんな大声を？

いとし：「私にお金をあげないでください！私にお金をあげないでください！」

こいし：・・・ほな、逆の心理が働いて、金やろういうのが出てくる思てかい

いとし：けど、案外お金だけはくれませんね

こいし：誰がくれるかい！

いとし：うちの家の板塀にフシ穴がありましてね

こいし：板塀のフシ穴がどないかしたん？

いとし：それまではそのフシ穴から覗く人おらんかったんやけど、そのフシ穴の横に「この穴から覗かないで下さい」て書いたんや

こいし：わざわざそんなことを？

いとし：書いたとたんに覗く人が多なってねぇ

こいし：わかるわかる、覗かないで下さいて書いてあったら覗きたなるのが人間の心理や

いとし：覗いたところを見計らって、私が出て行って言うねん

こいし：君が出て行って？

いとし：「これこれ、覗かないで下さいて書いてるのに、どういうことですか不道徳な・・・警察へ行こうじゃないか。いやなら千円置いておきたまえ！」

こいし：アホな！人の心理を利用して金とってどないするねん。一番悪どいの君やないか

いとし：これはちょっとやり過ぎや思いまして、今は覗いた人をおどかすだけにしてますよ

こいし：覗いた人をおどかすというと？

いとし：フシ穴から覗いて、ちょうど正面に見えるとこに、君とこの嫁はんの写真貼ってるねん

こいし：・・・うちの嫁はんの写真て

いとし：みんな真っ青な顔して、気味悪そうに逃げていくよ

こいし：なんでうちの嫁はんの写真見て気味悪がって逃げないかんねん！ほんまに気味悪がらせたかったら、君とこの嫁はんを塀の内側に立たせて、フシ穴に向かってニッコリ笑わせたれ

いとし：・・・うちの嫁はんを笑わせる

こいし：覗いたもんはそのあと一切、君とこから半径一キロ以内はよう近寄りよらんぞ

いとし：それどういう意味ですか！

こいし：フシ穴覗いたとたん、こんなんがガバーッ・・・恐ろして近づけるか？

いとし：アホな！しかし、最近うちの嫁はん私にうるそうてね

こいし：うるさいというと？

いとし：「タバコは体に悪いし、やめなさいやめなさい」てうるさいねん

こいし：やめ言われたら、余計吸いたなるのが人間の心理やで

いとし：そやからやめられるわけないから、嫁はんに言うたったがな

こいし：何を言うたん？

いとし：「わかったタバコやめよやないか、その代わりに、お前、近所のおばはん連中とペチャクチャお喋りするのやめよ」こう言うたった

こいし：なるほど、あの嫁はんがお喋りをやめられるわけないから

いとし：ほな嫁はん言いよんねん

こいし：何を？

いとし：「お喋りやめましょう。その代わりあんた、風呂からあがった後、裸でウロウロするのもやめなはれや」とこうや

こいし：なるほど、相手もその上に要求を出してくるわけや、で、君、どう答えた？

いとし：「裸でウロウロするのやめる代わり、お前、着替えが無い時、わたしのパンツはくのやめよ」言うたった

こいし：・・・いろいろある家庭やなあ。嫁はんどう言うた

いとし：「あんたのパンツはくのやめる代わり、こいしさんがうちへ遊びに来はった時「お茶菓子なんか去年の羊羹でええ」なんて言うのやめはれや」とこうや

こいし：去年の羊羹でええなんて君言うとんのか！

いとし：私かて言うたったがな

こいし：どう？

いとし：「去年の羊羹なんて言うのやめる代わり、お前もこいし君が来た時、猫の茶碗でお茶だすのやめよ」言うたった

こいし：こらこら！私は君らのオモチャか！

いとし：嫁はんいいよったがな

こいし：どう？

いとし：「こいしさんに猫の茶碗出すのやめる代わり、あんな私の事を「松坂慶子にそっくりや」言う口ぐせやめてね」とこうや

こいし：君、そんなこと嫁はんに言うてるの

いとし：言うてますよ

こいし：あれのどこが松坂慶子や！

いとし：私も言うたったがな「お前のことを松坂慶子いうのやめよ、その代わりお前も私のこと田原俊彦みたいいう口ぐせやめよ」

こいし：君とこは異常夫婦か！だいたい「自分がやめるから人にもやめなさい」いう言い方非常に醜いで

いとし：そうかしらんけどやで

こいし：例えやめられなくても、人の意見を素直に聞かないかん

いとし：わかった「自分がやめるから人にやめなさい」いう言い方やめよ

こいし：人にやめいうのやめるか

いとし：人にやめ言うのやめる代わり、きみ人に説教するのやめや

こいし：もうええわ！