酒井くにお・とおる「上手な夫婦喧嘩の秘訣」

とおる:川崎市の〇〇へやって参りました

くにお:がんばろうね、とおるちゃん!

とおる:がんばって漫才をやらせていただきます

くにお:ファイトよ、とおるちゃん!

とおる:・・・お客さんの笑いが、我々の生き甲斐なんですよ

くにお:いいこと言うわね、とおるちゃん!

とおる:・・・誰かこの男を、マンホールへ掘り込んで、下水処理場で処分してくれませんか

くにお:アホな!とおるちゃんというのは君の愛称やろ、その愛称を言って、どこがいけないのよ?

とおる:言い方が腹立つねん、ほな君の愛称を同じ言い方で呼んだろか
くにお:別にかまわないわよ

とおる:がんばろうね、フンコロガシちゃん。ファイトよ、コソ泥ちゃん!

くにお:・・・あのな、フンコロガシとかコソ泥なんて愛称あるんか!

とおる:ここで皆さんに一言自慢しておきたいことがあるんです

くにお:どんなことを自慢するの?

とおる:私、〇年間漫才を続けておりますが、その間、一日も欠かさず体が弱いんです

くにお:そんなこと自慢できることか!

とおる:見た目とは違うんです

くにお:見た目そのままや!

とおる:先ほども我々の出番を待つまで、舞台の袖で不安を覚えていました

くにお:私も同じですよ、漫才がウケるかどうか不安だったんでしょ

とおる:そうじゃなくて、舞台の袖からマイク前まで、立ちくらみを起こさずに辿りつけるかが不安だったんです

くにお:情けない体やな!

とおる:でも無事に辿りつけました。これもひとえに皆様の拍手のおかげです。酒井とおる頑張りました!

くにお:そんな大層なことか!

とおる:もう私、漫才が終わるまで一切動きませんからね、もし漫才の途中で私に動きが入るようでしたら、「とおるちゃん、今日はよっぽど体調がいいんだなぁ」と思って下さい

くにお:そんなこと気にしてられるか

とおる:私とは正反対で、この兄貴は本当に体が丈夫でしてね

くにお:これだけは有難いことです

とおる:この数年間、この人は熱を出したことも無ければ、腹を下したことも一度もありません

くにお:これ本当なんです

とおる:試しに、賞味期限を半年過ぎたまんじゅうを食わしてみたけど、平気でした

くにお:食わすな!

とおる:体は丈夫なんですけど、兄貴はケチというか、お金に細かいんです

くにお:別にいいじゃないの

とおる:仕事が自宅から二駅先であったとしたら、交通費を浮かす為に、その二駅を歩いて行くんですよ

くにお:いいじゃないの、健康の為にも二駅ぐらい歩いたほうがいいのよ

とおる:二駅と言っても、私鉄の二駅と違ごて、新幹線の二駅ですよ

くにお:歩けるか!

とおる:営業の仕事で、たくさんの芸人さん仲間と一緒に行くことがあるんですが、その時、弁当が出ることがよくあるんです

くにお:特に昼間の仕事の時は出るね

とおる:ところが、その弁当を食べない芸人さんも結構多いんです

くにお:多いね

とおる:その弁当をこの人が貰い集めて持って帰るんです。弁当を家族へのお土産にするのなら、まだいいんですが、そうじゃありません

くにお:どうだと言うのよ?

とおる:近所のコンビニ前に立って、売るんです

くにお:・・・あのね

とおる:「さぁ弁当買ってちょうだい、ここのコンビニ弁当より、豪華で安いよ!」・・・そうまでして金儲けしたいか?

くにお:それが嫁には内緒の、私の小遣いになるのよ

とおる:金儲けしたかったら、漫才の仕事だけにこだわらずに、ドラマの仕事なんかも引き受けたらいいのと違うか、君は演技が上手いから

くにお:私、演技が上手いと思てくれる?

とおる:思てますよ、演技を買われてスカウトされたこともあったやろ

くにお:私がスカウトを?

とおる:「老夫婦の息子の役をやってくれませんか」とスカウトされたやないか、オレオレ詐欺グループから

くにお:されてるかい!

とおる:とにかく兄貴は芸達者なんですよ、特に時代劇の役者をやらせたら、絶品ですよ

くにお:時代劇なんてとんでもない(時代劇風に)拙者、時代劇の才能はとんとござらぬわ、おのおの方もそう思われるであろうが

とおる:・・・ちゃんと時代劇風になってるでしょ、時代劇だけはなくて、女形をやらせても、これまた上手いんですよ

くにお:(女形で)あらまあ、とおるさんたら、私に女の役なんて出来る訳がないじゃないのよ、ウーン、もうイヤ!

とおる:やるでしょ、またこの人、アホのおっさん役をやらせても絶品ですよ

くにお:アホのおっさん役?これはちょっと難しい設定やね

とおる:難しいことないでしょう。いつものあんたをそのままやったらいいだけやないか

くにお:やかましいわ!

とおる:演技だけではなくて、兄貴は踊りも出来るんですよ、特に京都の舞妓さんが舞う京舞いを舞わすと絶品ですからね

くにお:無茶なことを言うな、男の私が舞妓さんの京舞を舞える訳が・・・♪月はおぼろに、東山♪(踊る)

とおる:・・・おだてりゃなんでもやるんです。でも、こんな私でも、京舞いではないんですが、”マイ”だけはよく舞うことがあるんですよ

くにお:ホー、どんな舞いをよく舞うの?

とおる:めまいをよくまうんです

くにお:それが舞いか!

とおる:芸達者な兄貴にドラマの話が来ても不思議はないんですが、ところが先日、この私に「刑事ドラマに出演しませんか」という話が来たんですよ

くにお:刑事ドラマに?いい話じゃないの

とおる:でも脚本を読んで、これは断らせていただきました

くにお:どうして断ったの?

とおる:アクションシーンをやらなくてはいけないのよ、体の弱い私にアクションなんかやれるか?

くにお:体が弱いから、アクションはぴったりじゃないの

とおる:君、アクションシーンをわかってるのか?

くにお:風邪をひいた人の役やろ

とおる:はぁ?

くにお:(クシャミで)アックション!

とおる:帰れ!・・・アクションシーンというのは激しい動きの演技やねん

くにお:で、脚本に書かれていた、君のアクションシーンてどんなのよ?

とおる:ある公園で死体が発見されて、刑事が公園周辺を聞き込みにまわるんだけど、私はその公園で犬を連れて散歩している人の役なんですけどね

くにお:それのどこがアクションやねん、普通の通りすがりの役でしょう

とおる:私にとってはアクションやねん。犬を連れて歩くなんてことは、私にとって激しい演技やねん

くにお:情けない体やなぁ

とおる:私は言ったんです。「すみませんが役柄を変えて貰えませんか」

くにお:どんな役柄と変えて貰うの?

とおる:「犬を連れて歩くなんて、私にはとても無理です。動かなくてもよい、死体の役と変えて貰えませんか」

くにお:そしたら相手は?

とおる:「無理ですよ、公園で発見される死体は、悪徳金貸しの用心棒で、元プロレスラーですよ」

くにお:・・・とても君は元プロレスラーには見えんわな

とおる:そして言われました。「今度また、食うに困って行き倒れになった人の役があったら、とおるさんにお願いします」と

くにお:その役がぴったりだわ

とおる:さっきも言ったように、兄貴はお金に細かくてね、嫁さんに家計簿までつけさせているんですよ

くにお:別に家計簿をつけさせることが、悪いことじゃないでしょ

とおる:この前も家計簿を見ながら「今月の家計簿の数字はどうなっているか調査してみようか、えーと、11111・・・なんだこの11111という数字は!」

くにお:11111?

とおる:家計簿と間違えて、自分の学生時代の通知簿を見てたんです

くにお:間違う訳無いやろ!そんな通知簿なんか、今頃ある訳ないわ

とおる:あっそうか、君の時代の通知簿の評価は、甲乙丙丁やったな

くにお:私は明治生まれか!

とおる:家計簿を見て、「今月はガス代が多い」とか「電気を使い過ぎや」とかうるさいんですよ

くにお:確かに私は、ガス代や電気代にはうるさいけど、嫁さんが使う、化粧品代とか衣装代には文句を言ったことありませんよ

とおる:どうして、化粧品代や衣装代だけには文句を言わへんの?

くにお:私にも芸能人としての見栄があるでしょう。連れて歩く嫁さんには、いつも美人であってほしい

とおる:そやのに、なんで連れて歩いてる嫁さん、いつもいないの?

くにお:うるさいわ!

とおる:この男がお金に細かいから、嫁さんが腹を立てて、ここの夫婦はケンカが絶えたことがないんです。最初は口喧嘩から始まるんですが、この夫婦は近所から、オタマジャクシ夫婦と言われてましてね

くにお:オタマジャクシ夫婦?

とおる:必ず、後で手が出て足が出るんです

くにお:それでオタマジャクシかい!だいたい、私は普通なんですけど、うちの嫁さんは血の気が多いんです

とおる:えっ、嫁さん血の気が多い?

くにお:そうなのよ

とおる:その多い血の気を、貧血で困ってる私になんとか輸血してもらえませんかね

くにお:・・・あのな

とおる:でも駄目だわ、私の血液型はO型だけど、君の嫁さんは、たぶんAB型だから、輸血できないわ

くにお:どうしてうちの嫁さんがAB型だと思うの?

とおる:君とこの夫婦喧嘩の最後はいつも、嫁さんのエービー固めで決着がつくでしょう

くにお:アホな!

とおる:それに、近所からは、この夫婦はセミ夫婦とも言われてましてね

くにお:なんでうちがセミ夫婦なのよ

とおる:セミはいつもオスがなくのよ

くにお:やかましいわ!

とおる:君とことは違って、うちは殆ど夫婦喧嘩はしませんね

くにお:仲が良いんだね

とおる:今でも、夫婦いっしょに風呂に入ってますからね

くにお:えっ、その年になって?風呂ぐらい一人で入りなさいよ

とおる:ところが駄目なんです。私、一人で風呂に入れないんですよ

くにお:どうして?

とおる:嫁さんに両肩を抑えていてもらわないと、体が浮き上がってしまうんですよ

くにお:情けない体やな!

とおる:そんな我が家でも、たまには夫婦喧嘩はありますけど、上手な夫婦喧嘩をしますからね

くにお:上手な夫婦喧嘩なんてあるの?

とおる:ありますよ、君に上手な夫婦喧嘩の秘訣を教えましょか

くにお:教えて、頼むわ

とおる:上手な夫婦喧嘩の仕方その1

くにお:その1

とおる:夫婦喧嘩が始まりかけたら、男として嫁にスパッと言ってやること

くにお:スパッと何を言うのよ?

とおる:「弱いものいじめだけはするなよ!」・・・こう言っておくと、嫁は少しは手加減してくれます

くにお:・・・なるほど、勉強になるねぇ

とおる:その2、お互いに絶対に暴力は振るわない

くにお:あとで手が出る足が出るのオタマジャクシ夫婦はいけないんだ

とおる:・・・よう見たら、あんたの顔、オタマジャクシに似てるね

くにお:ほっとけ!

とおる:その3、例え口喧嘩であっても、相手の心が傷つくことは言わない

くにお:心が傷つくことてどんなこと?

とおる:相手が気にしている欠点そのものをズバリと言ってはいけないのよ

くにお:なるほど、そのものズバリとね

とおる:例えば、君は嫁さんに「このブスの中のブス」とか「イノシシみたいな顔しやがって」とか「そのスタイルはなんや、ダンゴムシの生まれ変わりか」と言うような、そのものズバリは言ってはいけない

くにお:あんた、うちの嫁さんをそんな風に見てたんか

とおる:その4、喧嘩が終われば、そのことを後々まで引きずらずに、その場でカラッと忘れること

くにお:それが難しいのよねぇ

とおる:それでは駄目、カラッと忘れなさい。例え喧嘩の時に嫁さんから、「このド甲斐性なし」とか「あんたの頭の中は韓国の女性五人組グループよ!」と言われても、カラッと忘れよ

くにお:私の頭の中が韓国の女性五人組グループと言うと?

とおる:KARA・・・カラだけにカラッと忘れよ

くにお:・・・あのな

とおる:「私にはあんたの他に、男がいるのよ」と言われても、喧嘩が終われば、カラッと忘れよ

くにお:忘れられるかい!

とおる:その5、これは大切ですよ

くにお:と言うと?

とおる:喧嘩が終われば、仲直りの証に、必ず相手をお嬢様抱っこしてあげること

くにお:そんなこと、アホらしいて出来る訳ないやろ

とおる:うちは、お嬢様抱っこしてますよ

くにお:へっ?君が奥さんを?

とおる:いえ、嫁が私をお嬢様抱っこしてくれるんですよ

くにお:君がお嬢様抱っこしないの?

とおる:そんなことしたら、複雑骨折で入院して、今頃ここで漫才できるわけないでしょう

くにお:もうええわ!




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