横山やすし・西川きよし「我ら情報通」

きよし：こうやって、舞台に立つたびに、私、君とコンビを組んだ頃を思い出しましてね

やすし：どういうことを思い出すの？

きよし：二人が手を握り合うて・・・「やすし君、石にかじりついてでも、せめて三年間は漫才続けよな」

やすし：覚えてるよ、君のあの「石にかじりついてでも」の言葉

きよし：何を勘違いしたのか、君、墓石盗んできて、それに一生懸命かじりついとったなァ

やすし：・・・そんな言うのやったら、あの時「キー坊、漫才をやると言うた限りは、途中でケツ割ったらあかんで」て。私が言うたやろ

きよし：よく覚えてますよ「ケツ割ったらあかん」言う言葉

やすし：何を勘違いしたのか、君、急にズボン脱いで、ケツの割れ目、ガムテープでふさぎ出したがな

きよし：・・・人がちょっと言ったら、同じようなこと言い返すな

やすし：でも、君はなかなかの努力家や

きよし：君にそう言うてもらたら嬉しい

やすし：ちょっとでも新しいネタ仕入れよ思て、君は新聞なんかでも、一生懸命読んでたもんね

きよし：君かて努力家やで、新聞は読まへんけれど、新聞に何回も載せてもろてるがな

やすし：・・・皮肉かそれは！

きよし：しかし、君が新聞を読んでる姿、私、一回も見たこと無いな

やすし：私かて、新聞ぐらいは読むがな

きよし：ほんまに新聞読んでるか？

やすし：読んでるからこそ、五番のエンジンが好調とか、七レースは三番が堅いとか言えるねや

きよし：それ競艇新聞やろ！私の言うのは、普通の新聞や

やすし：普通の新聞？新聞に普通とか準急とかあるんかい

きよし：・・・普通の新聞ちゅうのは、ほれ、毎朝君とこの家に配られるやろ

やすし：毎朝うちへ配られる？わし新聞代、三ヶ月踏み倒してるねんで、配られると思うか？

きよし：新聞も今とってへんのかい！

やすし：だいたい私、新聞好かんねん

きよし：新聞好かん？

やすし：子供の頃に、新聞でいやな思い出があるねん

きよし：想像つきますよ、子供の頃の新聞で嫌な思い出と言うと

やすし：どんな思い出や言うねん

きよし：あの頃は、ちり紙が手に入りにくかったから、新聞紙で鼻噛むわな、・・・鼻の周りがインクで真っ黒になる思い出やろ

やすし：そんな思い出やな

きよし：すると、新聞でお尻を拭いた時に、お尻に「凶悪犯逮捕」てうつったとか

やすし：そんなんや無いちゅうねん！

きよし：ほな、子供の頃の嫌な思い出てなんや？

やすし：私、子供の頃、新聞少年でしてね

きよし：ホー、君が新聞少年

やすし：偉いやろ、君には出来んやろ

きよし：私は新聞少年はやってないけど、牛乳少年はやったで

やすし：君が牛乳少年を

きよし：母がヤクルトおばさんで、妹がシジミ少女や

やすし：なんやそのシジミ少女て？

きよし：知らんか、大ビン棒かついで♪シジミーシジミー♪

やすし：女の子がそんなん出来るんかい！

きよし：で、新聞少年の頃の嫌な思い出てなんや？

やすし：あれは雪の降る寒い朝やった。その日は私、風邪気味でな
きよし：そらいかんなァ

やすし：でも、その朝も、がんばって朝刊の配達に回った

きよし：ガンバレよ

やすし：（新聞配達の感じで）♪僕のあだ名を知ってるかい　朝刊やすしと言うんだよ　新聞配ってもう三月　雨や風にゃ負けないか♪

きよし：下手な歌やなァ！

やすし：♪盗んだ牛乳３０本♪

きよし：新聞少年やなしに、不良少年やないか！

やすし：私はあまりに寒気がするので、悪いと思いながら、配達中の一枚の新聞を燃やして暖まった

きよし：余程寒かったんやろなァ

やすし：そのことでえらい怒られて、新聞少年クビや・・・こういう嫌な思い出があるねん

きよし：そらちょっと厳しいなァ、なんにも、クビにせんでええがな、新聞一枚燃やしただけやろ

やすし：家一軒に燃え移ったけどな

きよし：そらクビになるわ！

やすし：新聞、わたしゃ大嫌い

きよし：ま、新聞を読まんでも、テレビでも新しい情報は仕入れれるわな

やすし：ところが私は、テレビがもっと大嫌い

きよし：テレビも嫌い？

やすし：子供の頃、テレビには嫌な思い出がありましてね

きよし：テレビに嫌な思い出というと

やすし：私、昔テレビ少年をやってましてね

きよし：テレビ少年？毎朝、テレビ配達してたんかい

やすし：違うがな、一日中テレビにかじりついてるから、テレビ少年

きよし：なるほど

やすし：♪僕のあだ名を知ってるかい♪

きよし：またやまたや

やすし：♪アンテナやすしと言うんだよ ♪

きよし：なんちゅうあだ名や！歌はええから、テレビの嫌な思い出ちゅうのは？

やすし：あれは雪の降る寒い日やった

きよし：よう雪が降るなァ

やすし：あんまり寒気がするので、私はテレビを燃やして暖まった。家に燃え移ってへんのに、えらい怒られてなァ

きよし：当たり前じゃ！しかし、君の無鉄砲は子供の頃からやなァ

やすし：今はテレビ大嫌い

きよし：しかし、それでは、君は情報はどうやって仕入れるねや？

やすし：新聞やテレビが無かっても、人間同士の対話があるがな

きよし：なるほど、新聞やテレビが無かった昔でも、井戸端会議なんかでも、結構情報仕入れられたからな

やすし：井戸端会議なんて、素晴らしい情報源やがな

きよし：（井戸で洗濯物を洗う格好）お熊さん

やすし：（井戸で洗濯物を洗う格好）なんでっか、お虎はん

きよし：お咲さん、このごろ見かけまへんな

やすし：お咲さんは、今、おめでたでんがな

きよし：またおめでたですか？

やすし：来月生まれるそうでっせ

きよし：へー、先月生まれたとこやのに

やすし：そんなに生まれるかい！

きよし：横山さんのご主人、このごろ見かけまへんな、お熊はん

やすし：あそこのご主人、例のとこですがな

きよし：・・・裁判所ですか？

やすし：違いますがな、海外旅行

きよし：あの鬼の横山はんが海外旅行、うらやましいねェ

やすし：・・・西川はんのご主人知ってますか

きよし：知ってますよ、目の大きい、いつも貧乏人にお金配って回ってる、仏の西川さんでしょ

やすし：・・・好きなこと言い過ぎや！

きよし：あの、西川さんのご主人どないしました？

やすし：今、海外旅行中

きよし：あの人も優雅なんですね

やすし：違いまんがな、外人の嫁はんが、外人の男作って海外へ逃げて、今探し回ってますねや

きよし：・・・君、それが私の家の未来の姿やと言おう思てんのやろ

やすし：水が足らなくなったね、また汲まなくては

きよし：あんたさっきから、何を洗てまんの

やすし：お米ですねん

きよし：そう、私のこのお水使こて下さい。ジャーッ（水を移す格好）

やすし：どうもどうも、て、この水、さっきまで何洗ろてはりましたん？

きよし：私のパンティですの

やすし：汚いな！

きよし：井戸端会議は、女同士の情報の交換源やった

やすし：男は銭湯なんかが、情報の交換源やった

きよし：銭湯がそうでした

やすし：（手拭いで前を隠す格好）いやー、西田はん

きよし：（手拭いで前を隠す格好）ハァ・・・あなたどなたでした？

やすし：私でんがな、ほれ、久しぶり、ほれ私

きよし：思い出せまへんねん（やすしの手拭いをめくって、中を覗く格好）アー、山下はんでんがな

やすし：・・・どこ見て思い出すねん！

きよし：しかし山下はん、えらい日焼けしてはりまんなァ

やすし：あ、これ、金に余裕ができたもんやから、ちょっと地中海へ泳ぎに行きましてなァ

きよし：（やすしの肩から泥を取る感じで）道路工事の泥がこびりついてますわ

やすし：・・・嫌味な人やなァ、あんたは色白いですなァ

きよし：あ、これ、金に余裕ができて、山の中の別荘借りて、閉じこもってたもんでね

やすし：（きよしの泥を払う感じで）地下鉄工事の泥がこびりついてまっせ

きよし：返すな！・・・山下はん、面白い情報おまへんか

やすし：情報といえば、昨日、井戸端会議の途中、お虎はんが倒れましたで

きよし：お虎はんが？どうせ長々と人の悪口言いおうてましたんやろ

やすし：どうでしょうかねェ

きよし：女が集まると、人の悪口を言うからいかん。お虎はんにしても、お熊はんにしても、どうしょうもない悪口言いやわ。そやから亭主もしょうもないのしかつかん。悪口なんか言うたらいかんねん、ほんまにアホやで・・・その点男は悪口言わんからよろしいな

やすし：言い放しや！

きよし：しかし、新聞、テレビ、対話。どんな形でもええから、我々は、新鮮で確実な情報を、いつも持っておきたいね

やすし：言えるね

きよし：（手帳を出す）私は、この手帳にびっしりと、いつか役にたつやろという情報を書き込んでる

やすし：そういうやぼったいことすな、私なんかこの頭に、びっしりと書き込んどるわ

きよし：（やすしの髪の毛をかき回し）何にも書き込んでないやないか

やすし：違うねん！つまり、情報をこの頭に叩き込んでるねん

きよし：ほんまかいな

やすし：私は君と違ごて、頭で仕事をする男や

きよし：そういえば君、この前庭に杭打つ時、頭で打っとったなァ

やすし：違うねや！

きよし：何が言いたいねや

やすし：つまり、私には学があると言いたいね

きよし：知ってるがな、いつも君、ガクばっかりやがな

やすし：ガクばっかり？

きよし：テレビ番組でとちってはガクッ（うなだれる格好）競艇で外れてはガクッ、嫁はんに逃げられてはガクッ・・・ガクあるで

やすし：そのガクやないねや、私には教養があると言いたいねや

きよし：今日、用があるのはわかってるわい。明日は用ないのやろ

やすし：ええ加減にせい！おちょくっとんのかい

きよし：私の手帳か、君の頭か、どっちが情報が豊富か競争しようやないか

やすし：受けて立ちましょう

きよし：（手帳を見る格好）まず、天気情報から、明日の○○地方の天気は（実際の天気予報を言う）・・・この情報は、今さっき気象庁へ問い合わせて聞いたんや、新鮮やで

やすし：明日の天気情報なんてしょうもない

きよし：ほな君は、天気のことで、どんな情報を持ってるねん

やすし：（一休さんよろしく頭に手を当て）来年の○○地方の今日の天気は、晴れの曇り、雨の降る確率は２０％

きよし：来年の今日の天気なんてわかるわけないやろ、そんな情報インチキや、当たるかい

やすし：当たるか当たらんか、来年の今日が過ぎてから文句を言え

きよし：忘れてるわそんな時には

やすし：それが付け目で言うたんじゃ

きよし：・・・天気情報の他に、どんな情報持ってんねん

やすし：（頭に手をやり）つり情報

きよし：ほー、つり情報か、ええ情報か？

やすし：六甲山中には、この秋、枝ぶりのいい松が生え揃い、絶好のつりシーズンとなるでしょう

きよし：それ、首吊り情報違うんかい

やすし：つり情報に違いはないがな

きよし：そんな情報流して、もし、ほんまに首を吊る人が出たらどないするん

やすし：ええやないか、私は善意の第三者や

きよし：悪意の第三者や！

やすし：君、他に情報言ってみい

きよし：（手帳を見る）結婚情報

やすし：なるほど、シーズンだけに、結婚情報を出してきたか

きよし：花嫁募集中、当方二十八歳、会社員

やすし：二十八歳会社員が花嫁募集か

きよし：実はこれ、うちの弟でね

やすし：弟さんかいな

きよし：（手帳を読む）当方の希望する方は、銀行勤めのOL、オンラインシステムに詳しい方、度胸のある方

やすし：君の弟は、何を考えとんねや！

きよし：こういう情報あかんか

やすし：海外旅行のしたい方、も付け加えんかい

きよし：・・・君の情報は？

やすし：（頭に手をやり）住宅情報、家売りたし、横山たけし

きよし：横山たけし？

やすし：うちの親父が家売りたがっとんねや

きよし：なるほど

やすし：部屋数七つの二階建て、土地付き現金払いで三百万

きよし：安すぎるがな、損やでそんなん

やすし：安うても早よ売りたいねや、親父が留守番頼まれてる他人の家やから

きよし：他人の家売ってどないするねん！

やすし：他に君の情報は？

きよし：（手帳を読み）スポーツ情報

やすし：スポーツ情報

きよし：巨人軍江川、大関に挑戦

やすし：待て待て！江川言うたら野球の選手やで、それがなんで大関に挑戦せないかんねん

きよし：江川は今まで日本酒をのまんかったんや、それが人に勧められて、思い切って大関に挑戦したんや

やすし：大関いうのは、酒の大関かい！

きよし：他に君の情報は？

やすし：（頭に手をやり）転職情報

きよし：転職情報

やすし：求む女性秘書、横山やすし

きよし：君が女性秘書求めてるんかい

やすし：二十歳前後の美人、給料六万、手篭めにしても文句言わん人

きよし：来るかい！給料六万で手篭めにしても文句言わない人て、そんな女性がおるわけないやろ

やすし：無理かな？

きよし：男でよかったら、私でどうぞ

やすし：いらんいらん！

きよし：（手帳を読み）ドライバー情報

やすし：ドライバー情報、車に乗ってこられた方、これは聞いておいてくださいね

きよし：ドライバー、プラスネジ式ワンセット三百円、イズミヤ

やすし：そら買い物情報や！だいたい君の情報はセコ過ぎるねん。もっとビッグな情報持ってないんか

きよし：買い物情報

やすし：買い物情報に、ビッグな情報があるねんな

きよし：ビッグボールペン、日本１７０円、ニチイ

やすし：ちゃうねんちゃうねん！私のビッグとは、もっと大きなグレイトな情報やねん

きよし：グレイトな情報

やすし：そうや

きよし：（手帳を読み）プロレス情報

やすし：グレイト東郷はもうおらんぞ

きよし：（手帳を読み）果物情報

やすし：グレイトフルーツ違ごて、グレイプやぞ

きよし：・・・グレイトな情報やろ

やすし：グレイト、つまり早い話が、スーパーな情報や

きよし：なるほど、スーパーな情報ね

やすし：スーパーマーケットの情報やないぞ

きよし：・・・

やすし：スーパーマン情報でもないぞ

きよし：それが言いとうて、わざわざスーパーへ持ってきたやろ

やすし：災害情報なんていうのは、ビッグで、グレイトで、スーパーな情報やで

きよし：なるほど、災害情報、ちゃんと書いてます

やすし：ホー

きよし：（手帳を読み）災害情報、地震が起きれば机の下へ、台風が来ればガラス戸に板を、横山やすしが来れば近寄らぬこと