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コント台本「ムコ殿無情」

(突き飛ばされるような形で、伊吹上手より登場、続いて山根登場)
伊吹「お助け下さい、お助け下さい!」
山根「ならぬ、お前を斬るのだ」(刀を抜く)
伊吹「どうか、命だけは……」
山根「うるさい!わしは人を斬るのが、メシより好きな男じゃ」
伊吹「メシより?」
(伊吹、懐から、メシを山盛りもった茶碗を出し、そばへ置く)
(山根、伊吹と茶碗をしばらく見比べ、伊吹に向かい)
山根「斬ってやるー!」
伊吹「ほんまや……」
山根「しょうもないことを試しおって……ターッ!」
(山根、伊吹を斬る)
伊吹(棒読みで)「ヤラレター!」
(伊吹、空空しく倒れる)」
山根「……お前死に方下手やなぁ、十年以上もこの仕事してるんやったら、もうちょっと、真に迫った死に方出来んか?」
伊吹「真に迫ったというと?」
山根「グワーッ!……ウェーッ!……ウァォー!」
(思いっきりきばって苦しむ)
伊吹「あんた、この芸だけは迫力あるね」
山根「ウウーッ!グァオーッ!」
伊吹「……しまいに血管はじけるで」
山根「うるさい!」
(山根、伊吹を斬る)
伊吹「ウウーッ!ググーッ!」(苦しむ)「……あんたには負けるわ」(倒れる)
山根「いかん、誰か来る」
(山根、上手へ去る、下手より同心姿の南方登場、手には十手を持っている)
南方「私は十手持ち、だから、人を助けるのが、メシより好きな男です」
(南方、倒れている伊吹とメシが山盛りの茶碗に気づく)
南方「アッあそこにメシ……そしてあそこに人が倒れている!」
(南方、伊吹と茶碗を見比べ)
南方「まずメシを頂こう」
伊吹「アホなアホな……今あんた、人を助けるのがメシより好きやと言うたがな」
南方「そうか」
(南方、伊吹のそばへ行く)
南方「どうした、誰にやられた」
(南方、伊吹を抱き起こす)
伊吹「あなた様は」
南方「奉行所同心、中村主水」
伊吹「中村主水と言えば、闇の商売は、必殺仕事人!」
南方「シーッ!声が高い」(大声で)「必殺仕事人なんて大声で言うな!!人に聞かれたらどないするねん」
伊吹「あんたの声の方がずっと大きいで」
南方「で、お前誰にやられた?」
伊吹「山根新八……」
(伊吹、懐から一両を出し)
伊吹「どうか、この金三両で、恨みを晴らしてください」
南方「金三両て……一両しかあれへんがな」
伊吹「あとの金二両は」
(伊吹、自分の股間を指さし)
伊吹「ここのを使って下さい」
南方「そうか、これを切り取って……使えるか!……よし、一両でいい、この中村主水、しかと、お前の晴らせぬ恨みを晴らしてやるぞ」
(南方、手に一両を持つ)
(下手より、武家の老婆姿の結城登場)
結城「ムコ殿、ムコ殿ではございませんか」
南方「これは母上」
結城「こんなところで何を?」
南方「人が斬られて倒れていたので、助けようと……」
結城「マー、養子のぶんざいで人を助けようなんて生意気な、あなたは養子なんですよ、養子の立場をお忘れですか、養子ですよ……」
伊吹「……ちょっとちょっと、なんか私の方に、グサッグサッとこたえるで」
(結城、南方の手にある一両に気づき)
結城「そのお金……そうですか、私とリツに、着物を買ってやろうと……頂いておきます」
(結城、南方の手から一両をもぎ取り、上手の方へ去っていく)
結城「リツや……リツ……ムコ殿が……リツ!」
伊吹「……えらいおかんのおるとこへ養子に行ってまんなァ、嫁はんリツさんですか、あや子のとこへ養子に行った私の方がましみたい」
南方「ゴチャゴチャ言わんと、早よ死なんかい、死ななあんたの恨み晴らせんやろ」
(伊吹、急に息も絶え絶えになる)
伊吹「ウウーッ!」
南方「迷わず天国へ行けるように今してやるからな」
(伊吹の上半身を裸にして、後ろから背中を流す格好)
南方「ハダカー、天国!」
伊吹「ホテル紅葉……ハダカー、天国、ホテル紅葉……」
(伊吹、上手へ去る)
南方「どうやら天国へ行ったようだな……さっ、あの男の晴らせぬ恨みを晴らしてやらねば……仕事の相手は、山根新八」
(山根、上手より登場)
山根「そうは簡単に殺られはせぬぞ、中村主水」
南方「というと、お前が山根新八」
山根「問答無用!」
(山根と南方の立ち回り、一度下手に消えた後、刀と刀を交える動作で中央へ)
南方「待った待った、あまり、刀と刀をチャリンチャリンとやり合うのやめましょや」
山根「どうして?」
南方「これをやると、刀の刃こぼれがしてしゃあない」
山根「わしの刀は、刃こぼれなどしないぞ」
南方「で、あんたの刀の銘は?」
山根「備前長船」
南方「ええ刀やもん……私の刀、金蔵作やで」
山根「ノコギリやがな」
南方「見てください、この刃こぼれ」
(刀を見せる、凄い刃こぼれ)
山根「えらい刃こぼれやなァ」
南方「ね」
山根「こんなんで斬れへんで」
南方「そやろか」
(南方、山根の胴辺りをノコギリのように斬る)
山根「ギャーーッ!」
南方「斬れたー」
山根「ウァーッ!」
南方「とどめをー!」
(南方、斬りかける)
山根「待ってくれ!わしも悪い人間だが、もっと悪いやつは、伊吹屋太郎兵衛」
南方「伊吹屋太郎兵衛」
山根「そう、わしを悪の道へ誘い込んだのはその男」
(山根、懐から五両を取り出し南方の手に握らす)
山根「これで恨みを晴らしてくれ」
南方「金五両!」
(上手より結城登場)
結城「ムコ殿、ムコ殿!」
(結城、南方の手の中の五両を見る)
結城「オー、金五両、そうですか、これで、私とリツを海外旅行へやってやると」
(結城、五両をもぎ取り下手へ去っていく)
結城「リツー、リツー……ムコ殿が……リツー!」
南方「クソーッ!あんた、この恨み晴らしてくれへんか」
山根「アホな!伊吹屋太郎兵衛へのわしの恨み頼んだぞ」
南方「まかせておけ」
山根「ウッウッ、わしはもうだめだ……わしみたいな人間でも、天国へ行けるんだろうか」
南方「まかせておけ」
(山根の上半身を裸にして、背中を流す格好)
南方「ハダカー、天国!」
山根(のらずに)歩行者天国へ行ってこよう」
(山根、上手へ、南方ズッコケ、下手より伊吹登場)
伊吹「私は伊吹屋太郎兵衛、われながら、よくまあこれだけ悪いことをしてきたものよ」
(南方、伊吹を斬る)
伊吹「ウワーッ!」
南方「とどめを」
伊吹「待ってくれ!」
(伊吹、懐から十両を取り出し南方の手に握らす)
伊吹「この十両でわしより悪いやつへ、恨みを晴らしてくれ」
南方「十両」
(下手より結城登場)
結城「ムコ殿、ムコ殿……ま、十両……そう、この十両を私とリツにくれると」
(結城十両をもぎとり上手へ去る)
結城「リツー、リツー、ムコ殿が……リツー!」
南方「あんたより悪い奴て、絶対あの女やろ」
伊吹「相手は山根新八の兄貴の、山根新吉!」
南方「山根新吉!」
(上手より山根登場)
山根「私は山根新吉、われながらよくもここまで悪い男よのう」
南方「ターーッ!」
(南方、山根を斬る、上手より結城登場)
結城「ムコ殿!ムコ殿!」
南方「早い早い!まだ次をやる分のお金もろてへんねん」
結城(倒れている山根に)「はよお金出しなさい!」
(山根、懐から十両を出す)
山根「この十両で、わしを斬ったこの男をやってくれ」
(山根、南方を指さす)
結城「ハイハイ」
南方「ハイハイて……私は、あんたの家のムコ殿やで」
結城「そう言えば、あなたは当家のムコ殿、そんなことできるわけがありません」
南方「でしょう」
結城「と、油断させておいて……」
(結城、千枚通しのようなもので南方の首を刺す)
結城「ブシューっ!」
南方「そんなアホな」
伊吹「養子てつらいでんなァ」
南方「うるさい、お前が養子やばっかりに、こんな芝居やらないかんねや……」
(おしおき)

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