横山やすし・西川きよし「男が命をかける時」

きよし：さっき表で、どこかのお年寄りと君、えらいモメてたやないか

やすし：そらモメるがな

きよし：なんでや？

やすし：顔見知りでもないのに「コラーッ！やすし！」なんて呼ばれたら、誰かて怒るやろ

きよし：「コラーッ！やすし！」てかい

やすし：私がなんぼ芸人でも、そんな呼ばれ方される必要ないねん

きよし：そらそうや「コラーッ！やすし！」と違ごて「これはやすし」やったら、私が出て来て「買いにきよし」で丸く治まったんや

やすし：君は関係ないねん！

きよし：どういう言い方で呼ばれてたら、君は腹立ってなかったいうの？

やすし：（国会風に）横山やすしくん

きよし：国会議員か君は！

やすし：丁寧に呼んで欲しかった

きよし：しかし相手は年寄りや、もうちょっとやさしいモメかたもあるやろ

やすし：年寄りやからこそ、もっと常識をわきまえちゅうねん！

きよし：けど、見たとこ相手は明治の人やで

やすし：明治の人がなんやねん、うちの兄貴、グリコの人じゃ！

きよし：何の関係あるねん！

やすし：私はもう年寄り嫌い、大嫌い

きよし：年寄り大嫌い言うても、いずれは君も年寄りになる身やで・・・あっそうか、君は三十五歳で死ぬんやったな！

やすし：なんでやねん！ほな私の寿命、あと二年かい

きよし：いずれは君も歳はとるねや

やすし：歳はとっても、心は万年二十歳でいるつもりですよ私は

きよし：心は万年二十歳てかい

やすし：七十になったから言うて「わしゃもうおじんや、孫のおもりだけが楽しみでのう」・・・そんなん嫌い

きよし：ほな、君が七十になった時、どんなことを喋ってるいうの？

やすし：「よう、セーラー服のお姉ちゃん、あんたヘモグロビン多そうね、カッコいい」（指笛を吹く）

きよし：・・・あのな、七十にもなっててやで、「よう、セーラー服のお姉ちゃん、あんたヘモグロビン多そうね、カッコいい」てね・・・うちのおじんがそれで困っとんねや！

やすし：ほんまかいな！

きよし：しかし、君が歳とったら、どんなおじいさんになっとるやろね

やすし：さあ、どうやろね

きよし：（やすしの前髪を示し）完全にこの辺りは毛無いわな

やすし：うちの親父がそやからね

きよし：（おでこを指し）ここにシワが三本（両頬を指し）こことこことこことに三本ずつ・・・この辺りにシミがボタボタ、目やにがごてー・・・君、今のうちに死んだ方が幸せやで

やすし：ええねん死ぬのは！

きよし：私が老人になった時の姿てどんなんやろね

やすし：髪の毛は真っ白やろね

きよし：うちは白髪系統やからな

やすし：眉毛も白やわな、目がどないなっとるかが問題や、多分腐って、ここまでただれ落ちとるで

きよし：アホな！・・・君なんか、自分の老後を考えたことあるか？

やすし：考えるわけないやろ！明日のことも考えたことさえないのに

きよし：明日のことも考えたことないて？

やすし：江戸っ子が明日のことなんか考えて、クヨクヨしてられるかってんだ、ベラボウめ

きよし：・・・江戸っ子だってねぇ？

やすし：淡路島の生まれよ

きよし：どこが江戸っ子やねん！

やすし：とにかく私は、明日は明日の風が吹くいう生活しか出来へんの

きよし：いかんねえ、そんな生活は

やすし：しかしね・・・

きよし：なんで君は、明日はあさっての風が吹くいう生活が出来んねや

やすし：どんな生活やそれは！

きよし：堅実な生活をせな駄目でしょ、貯金もちゃんとして

やすし：そら君は貯金もできるわな、所得番付にも載ったもんな・・・同じようにこうやって漫才してて、片方が所得番付上位に載るんやから、せめてもう片方は中位くらいに載って当たり前やけど、どこを見ても、私の名前おまへんねん・・・みじめでっせ

きよし：そんだけ働きが悪いからや

やすし：まあええわい（捨て台詞）ピンハネしてんのんわかってんねん

きよし：誰がやねん！誰がピンハネしてるいうねん

やすし：君やとは言わんわい・・・目玉の大きいやっちゃ

きよし：・・・わいやないか！

やすし：とにかく、芸人が明日の生活を考えてるようでは駄目

きよし：芸人やから考えないかんねや、それでのうても芸人は明日の無い生活を送っとんのやで

やすし：明日の無い生活？

きよし：そうや

やすし：ほな芸人いうのは、今晩寝て、明日の朝起きたら、その日はあさってかい

きよし：意味が違うねや！

やすし：というと？

きよし：明日が無いいうのは、つまり、芸人いうのは人気商売やわな

やすし：人気だけが頼りや

きよし：その人気が、今日はあっても、明日もあるとは限らんちゅうねん

やすし：わかるねぇ、特に歌手なんかそうやね

きよし：歌手は若ないとあかんみたいな傾向ですからね

やすし：その点、漫才の方はベテランが頑張ってくれてるから心強い

きよし：人生幸郎のお父さんなんか、舞台でフラフラしながら「マー皆さん聞いて下さい（恰好）」

やすし：フラフラてね・・・

きよし：皆さんが知れはらしまへんやろけど、人生幸郎さんが舞台に出てはる時、必ず楽屋で坊さん待ってはりますねんで

やすし：アホな！

きよし：童話に、コオロギとアリの話あるやろ

やすし：コオロギとアリの話？

きよし：夏の間、コオロギは遊びまくって、冬になって食い物無くなって、アリのとこへ助けを求めに行く話や

やすし：そのアリが君で、コオロギが私やと言いたいねやろ

きよし：ようわかっとるがな

やすし：フンッ、アリがどやちゅうねん（ボクシングの格好、アントニオ猪木の真似をして）「アリには絶対勝つ！」

きよし：「日本ハム・・・」いらんことさすな！

やすし：（CMの真似をして）「目玉アリ退治は、横山はんにまかしとくんなはれ

きよし：もうええちゅうねや！

やすし：だいたい君は、明日のことを考えすぎやねん

きよし：考えすぎいうことはないですよ

やすし：君がこの前、一日消防署長を引き受けたんも、将来もし自分がこの道で生活やっていけんようになった時の為に、コネつけたんやろ

きよし：消防士になるためのコネやいうんかい

やすし：やらしい・・・男として情けない

きよし：自分はなんや、いつもちゃんと警察にコネつけとるやないか

やすし：・・・

きよし：男としてやらしい言うのやったら、役人の天下りほどやらしいもんないで

やすし：天下りて、役人がコネつけて会社の重役になる？

きよし：そうそう

やすし：役人が会社の重役やなしに、漫才師になっても、やっぱりこれ、天下り言うのやろか

きよし：役人が漫才師に？・・・そら、ダダ下がりやないか

やすし：ダダ下がりて・・・

きよし：役人が一度掴んだ栄光に恥も外聞もなくしがみつく気持ち、私はわからんことも無いね

やすし：そう言えば、君もよう、エイコウにしがみついとるがな

きよし：栄光に？（気取って）すると今の僕って栄光を掴んでるんだなァ

やすし：ちゃうちゃう、私の言うエイコウはキャバクラのエエコや

きよし：キャバクラ？

やすし：ええ子やええ子や・・・しがみつきぱなしやないか

きよし：ほっとけ！しかし、天下りはともかく、男が転職をするちゅうのも一つの賭けやね

やすし：賭けやね

きよし：私も、自動車の修理工、パン屋の店員・・・いろいろと転職をして、苦労してきました

やすし：いろいろ転職したんやなァ

きよし：夢多き男やったからねえ・・・

やすし：私も店員、工員と、君以上に転職したからねえ

きよし：根気のない男やったんやなあ

やすし：なんやそれは！自分の転職は夢多き男で、私の転職は根気の無い男かい！

きよし：転職しても失敗するケースは、どんなケースかわかるか

やすし：どういう転職が失敗する？

きよし：まず坊さんが医者に転職するケースね

やすし：・・・そら失敗するわ

きよし：今までの癖が出て、病人見たら、手合わすからね

やすし：他に失敗するケースは？

きよし：天文学者が、風呂屋の窯炊きに転職するケースね・・・すぐ覗きたがるからね

やすし：他には？

きよし：相撲取りが競馬の騎手に転職するケースね・・・重たかって馬死ぬからね

やすし：初めから転職できるわけないがな

きよし：海で海女をやってた女性が、バーのママに転職するのも失敗するケースやね

やすし：なんで海女をやってた女性が、バーのママに転職したら失敗するの？

きよし：すぐ、モグリ営業してしまう

やすし：ヤブ医者が、バスの運転手に転職するのも失敗するケースやで

きよし：なんで？

やすし：（運転する格好）ヤブ医者だけに、すぐ手を放すで

きよし：怖いな！

やすし：消防士が散髪屋に転職するのも失敗するケースでっせ

きよし：どうして？

やすし：ホースと勘違いして、すぐ首の血管切って、水吹き出させたがるからね

きよし：アホな！

やすし：プロ野球の選手はマンジュウ屋へ転職したらあきまへんで

きよし：どうして？

やすし：癖が出て、作ったマンジュウ皆投げてしまいよる

きよし：・・・プロ野球の選手と言えば、あの人達も、将来自分に力が無くなった時、どんな職業についたらええか、みんな考えてるらしいね

やすし：（マイクを持つインタビュワーの格好）それでは、プロ野球選手の方々に、もし自分がプロ野球の世界で通じなくなった場合、末期（まつご）をどうして生きていくのか、インタビューしてみましょう

きよし：末期てなんや！

やすし：阪神タイガースの掛布選手がおられます。聞いてみましょう

きよし：（掛布がゴロを受けて投げる格好）

やすし：掛布さん、こんにちは

きよし：・・・（目をむき）こんにちは

やすし：・・・カケフというよりも、キョウフいう感じがするな！

きよし：ほっとけ！

やすし：どうです？もしプロ野球で通じなくなったら、なんで生活やりますか？

きよし：もちろん洗濯屋をやりますよ・・・布団のカケ布専門の

やすし：なるほど、マイクをつけた車で町を回られるわけですね、注文取りに

きよし：そうです

やすし：♪ロバのおじさんチンからホイ♪

きよし：ロバのパン屋やそれは！

やすし：あなたの場合は、どういうて注文取りに？

きよし：もちろん・・・カケフー！カケフー！カケフー！

やすし：なるほど・・・おっ、阪急の福本投手がおりました・・・福本さん

きよし：なんだんねん

やすし：なんだんねんて・・・あなた、プロ野球で通じなくなったら、何で生活しますか？

きよし：足を活かして泥棒しまんがな、泥棒を・・・

やすし：アホな！福本投手に怒られるで・・・おっ、ヤクルトの若松選手がおります。若松さん

きよし：はい

やすし：もしプロ野球で通用しなくなったら、何で生活しますか？

きよし：結婚式場の仕事でもやりますよ

やすし：・・・若松選手と結婚式場ね・・・もう次に言うオチはわかったんねん、これだ！（きよしの目を指さす）

きよし：♪メデタメデタの　若松さまよ♪　ほっとけいうねん！

やすし：最後に、王選手にインタビューしてみましょう

きよし：（右打ちの格好）

やすし：そら右打ちや右打ちや！

きよし：これでええねん！

やすし：なんで？

きよし：鏡に王選手が映ってるとこや

やすし：言い訳すな！・・・どうですか王さん、もしあなたがプロ野球で通用せんようになったら、何で生活をしますか？

きよし：イヤァー、僕はどこか田舎でも行って、のんびり過ごしますよ

やすし：さすが大物、考えることがみみっちないなァ

きよし：ハッハッハッ（笑い）

やすし：田舎へ行って何をやりますか？

きよし：のんびりと、かかしのアルバイトでもやりますよ

やすし：もうええわ！