今いくよ・くるよ「初恋の人に逢いたい」

いくよ：あけましておめでとうございます

くるよ：私、さっき初詣に行ってきたんですけど、うれしいことがありましてね

いくよ：わかってるわかってる。おみくじでええのが出た言うんやろ。くるよちゃんが百年参りに行く神社のおみくじちょっと変わってましてね

くるよ：どう変わってるいうの？

いくよ：（ぐるぐる箱を回す格好）黄色い玉が出たら、鐘がチリンチリン鳴って「今くるよさん大吉でーす！」

くるよ：それ商店街の大売り出しのくじ違うんか！？

いくよ：赤い玉が出たら「スカです！」

くるよ：おみくじにスカてあるんかいな⁉嬉しいこというのはおみくじやないねん

いくよ：と言うと？

くるよ：お参りの帰りに手相を見てもろたんです

いくよ：へー、このグローブみたいな手の手相を？

くるよ：いらんこと言いな！

いくよ：で、どう言われたん？

くるよ：「くるよさん、あなたは福を持ってますよ」

いくよ：くるよちゃんがフクを持ってるぐらい、手相見んでも誰でも知ってはるやないの

くるよ：そう？

いくよ：派手な服（くるよの服を指し）ようけ持ってるやないの

くるよ：そのフクやないねん！着る服と違ごて、わかるやろ私のいう福

いくよ：ああ、おたふくのフクね

くるよ：・・・私に喧嘩売ってるんか？

いくよ：そんなもん、適当に喜ばせといたらええわ思て、福をもってるなんて言うてはるのよ

くるよ：ところがそやのうて、その手相見、私の過去なんかズバズバ当てはるのよ

いくよ：私の過去て、あんた過去あったん？

くるよ：・・・過去の無い人間ているか？

いくよ：で、どう当てはる言うの？

くるよ：「くるよさん、あなたは漫才やる前、ファッションモデルをしてましたね」・・・当たってるやろ

いくよ：・・・実はこれ当たってるんです。この人ほんと、漫才やる前、ＬＬサイズ専門のファッションモデルをちょこっとやってたんです

くるよ：「くるよさん、あなた、２８歳の時、ある男性にプロポーズを受けましたね」・・・当たってるやろこれも

いくよ：当たってるわこれも、確かにこの人２８歳の時プロポーズ受けてます

くるよ：でも、結婚はしませんでした

いくよ：受けた相手、結婚詐欺師ですねん

くるよ：・・・思い出すだけで腹立つわ

いくよ：その結婚詐欺師にくるよちゃんの持ってるもん、みな騙されて持っていかれまして、持っていかなかったもん、ぜい肉だけ

くるよ：いらんこと言わんでもええねん！

いくよ：けど、その手相見、結構当たるね

くるよ：「くるよさん、あなたは小さい時から、お母さん一人ですね」これも当たってるやろ

いくよ：当たってへんがな。お父さんも小さい時からおるやないの

くるよ：それ言うたんや

いくよ：言うたら？

くるよ：「お母さん一人ですね、お父さんも一人ですね」とこうよ。考えたら当たってるやろ

いくよ：そんなん当たってるて言えるんか！

くるよ：「くるよさん、あなたは食べ物に大変神経質ですね」・・・これも当たってるやろ

いくよ：皆さん、意外や思わはるか知らんけど、これも当たってますわ。見た感じ、くるよちゃんて生ゴミでも平気で食べる感じするでしょ。それが違うんです

くるよ：なんで生ゴミ食べないかんのよ！

いくよ：食べ物に本当神経質なんです

くるよ：かまぼこなんか私食べませんねん。というのは、元の魚の形をしてないと、なんか変なものが混じってないかな思てしまいますねん

いくよ：そやから、人からかまぼこもろた時は、身はがして木だけかじりますねん

くるよ：かじるかいな！

いくよ：魚屋でサバ買う時でも、必ず「古いのよう食べん」言うて、店の人にわからんように、指でサバの腹を押そうとして突き抜けますねん

くるよ：突き抜けるのはたまたまや！普通に穴があくだけ

いくよ：穴をあけてどうするねん！

くるよ：そんなん買い物の知恵よ

いくよ：本当神経質ですよ、この前でも、モズクなんか腐るわけないのに、市場で「このモズク大丈夫やろか」言うて、一生懸命、鼻を近づけて匂いかいでますねん

くるよ：あの時は、風邪ひいて臭いがわかりにくかったから、特に真剣になって匂いかいでたの

いくよ：もずくに鼻水が落ちて、どれがもずくでどれが鼻水かわからへん

くるよ：後でそれ買うた人、災難やったでしょうね

いくよ：アホな！で、その手相見、くるよちゃんの今年の運勢はどや言うの？

くるよ：最高！私の長年の夢がかなう年やと言うてくれました

いくよ：へえ、ほなくるよちゃんは、ついに今年、穴の開いてないパンストはけるの？

くるよ：・・・なんでそんなことが私の長年の夢やのん

いくよ：というと、結婚出来るとか？

くるよ：そんな夢はとっくに捨てました

いくよ：そら捨てた方がええわ、あんたはいつ見ても、洋風建築やから

くるよ：なに、その洋風建築て？

いくよ：洋風建築には、床の間が無いやろ。つまり、あんたはオトコが見当たらんいうねん

くるよ：何を言うか、自分がどれだけの女や思てるのよ、この下手な小説

いくよ：下手な小説？

くるよ：スジばっかりが目立つだけ

いくよ：何を言うか、この水中花顔

くるよ：水中花顔て？

いくよ：ハナが沈んでる言うねん

くるよ：鼻が低いいうのは聞くけど、沈んでるいうのはちょっとひどいの違うか

いくよ：実際にそんなもんでしょうがな

くるよ：よく言うよ、母親参観バスト

いくよ：母親参観バスト？なにそれ？

くるよ：チチが全然出てこない言うねん

いくよ：・・・何をぬかすかこの包丁殺人

くるよ：包丁殺人？

いくよ：ブスーー！（刺す格好）

くるよ：何をぬかすか、五月五日

いくよ：五月五日？

くるよ：どこを見ても、コイコイコイ！

いくよ：やかましいわ！とにかく、くるよちゃんの夢いうのはなんやいうの？

くるよ：皆さん聞いて下さい、私の今の夢というのは、初恋の人に逢いたい、これなんです

いくよ：初恋の人に逢いたい

くるよ：（夢を語るように）私の初恋。それは私が中学二年の時でした

いくよ：中学二年

くるよ：その頃の私は、まだ男の人の手にさえ触れたことのない、純な乙女でした

いくよ：今でもまだ男の人の手に触れさせてもらえないままやないの

くるよ：・・・手ぐらい触れてるわいな！

いくよ：その頃と変わったん、純な乙女が不純なフトメに変わっただけやがな

くるよ：・・・ちょっと待ちいな、フトメは許せても、不純てなんやの不純て、言うとくけど、今でも私は純ですよ

いくよ：そう

くるよ：その証拠に私は、ビールは純生、焼酎は純しか飲まんのやから

いくよ：関係あるかいな

くるよ：その頃の私にとって、山下よしお君は、私の星の王子様でした

いくよ：その初恋の人が今でも星の王子様やと思てるのやったら、逢わんほうがええ。夢が潰れてしまうよ

くるよ：なんで？

いくよ：私も中学生の時、星の王子様やと思てた男の子いたのよ

くるよ：可愛い男の子やったんやろ

いくよ：ところが、この前の同窓会で逢うてびっくりしたよ

くるよ：というと？

いくよ：星の王子様が月の輪熊に変わってるねん

くるよ：・・・月の輪熊て

いくよ：初恋の人だけは、今になって逢わん方がええよ、年齢いったら変わるのやから

くるよ：それはわかるけどな

いくよ：多分、その山下よしおいう人も、頭のてっぺん、星やのうて満月に変わってると思うよ

くるよ：夢をつぶさんといてよ

いくよ：それでも逢いたいの？

くるよ：会いたいわよ、その子、私のことを「アルプスの少女ハイジみたいだね」て言うてくれたのよ

いくよ：それやろ。逢うたら、向こうかてげんなりするよ

くるよ：なんで？

いくよ：昔の「アルプスの少女ハイジ」が今は「あるブスの少女くるよ」やないの、げんなりするよ

くるよ：やかましいわ！それでも私は逢いたいの。とにかく私はあの頃の純粋な心をとりもどしたいの

いくよ：気持ちはわからんことないけどね

くるよ：こんな気持ちになる私って、男に疲れたのかしら（気取った格好で）

いくよ：疲れるほど男おったんかいな！

くるよ：（夢を語るように）思い出すのはよしお君の誕生日の日のこと

いくよ：何があったの？

くるよ：私は自分でケーキを作ってよしお君の家へ持って行ったの。でも、恥ずかしくてチャイムを鳴らせなかった

いくよ：わかるわかる、それが本当の初恋って乙女心よ

くるよ：でも、私が来たことだけは、よしお君にあとでわかってほしかった

いくよ：わかってもらう為にどうしたの？

くるよ：証拠に表札を持って帰ったの

いくよ：持って帰りな！

くるよ：帰る途中、私はばったりよしお君に逢いました

いくよ：よかったやないの、ケーキよしお君にあげたわけや

くるよ：それがあかんねん。あきらめて私ケーキを食べてしもててん

いくよ：早いこと食べ過ぎや！

くるよ：（大声で）私は逢いたーい、あきらくーん！

いくよ：よしおくんと違ごたか！？

くるよ：そやったね

いくよ：その手相見のいうことが当たってたら、その初恋のよしお君と今年中には出会えるわけやね

くるよ：私の予感では、どこかでばったり出逢うと思うねん

（二人左右に分かれて歩いてくる）

くるよ：「ちょっと、あんた、山下よしお君でしょ、そや、やっぱりよしお君や、面影あるわ」

いくよ：「というあなたは？」

くるよ：「くるよ！くるよ言うてもあかんわ。中学の時同級生やった酒井スエ子よ」

いくよ：（急に腰を曲げておじいさんになって）「おーお、スエ子さんだか、おらあすっかり、年をとっちまって、目も耳も悪くなっただけど、覚えとるぞー、スエ子さん」

くるよ：・・・なんで私がそんなおじいさんと同級生にならないかんのよ！

いくよ：（普通に戻って）「スエ子さんと言えば、確か、私の前の席に座っておられて、クラスで一番美人の」

くるよ：「そうそう、クラスで一番美人の」

いくよ：「秋山花子さんの隣に座っておられた方でしょ」

くるよ：「・・・まあそうですけど。でも逢いたかったですわぁ、よしおさんケーキのこと覚えてはる？」

いくよ：「ケーキ。ふんふん覚えてます覚えてます」

くるよ：「覚えててくれはった！？」

いくよ：「景気の悪い時代やのに、あんた食い物よう食べてはったねぇ」

くるよ：「その景気やないねん。でも、私の思た通り、立派な紳士にならはって。今何してますの？」

いくよ：「今、あんたと喋ってます」

くるよ：「そやのうて、お仕事は？」

いくよ：「星の王子様してます」

くるよ：「えっ？」

いくよ：「星の王子様というレストランの社長です」

くるよ：「立派にならはって。私逢いとうて逢いとうて、夢にまで見たことあるんですよ」

いくよ：「えっ、実は私もあなたのことを、今年の初夢で見たんですよ」

くるよ：「そう、私のことを今年の初夢で、うれしい！」

いくよ：「その夢のおかげで、その夜はうなされてうなされて、げんなりしてますねん」

くるよ：もうええわ！