マガジンのカバー画像

漫才台本 - 夢路いとし・喜味こいし

17
夢路いとし・喜味こいしの漫才台本集です。
運営しているクリエイター

#漫才

漫才台本「昔に戻ろう」

夢路いとし「私、なんぼ年とっても、絶対にこの言葉だけは口にせんとこ思てる言葉が2つありましてね」 喜味こいし「ホー、その2つの言葉とは?」 い「『このごろの若い者は』と、『わしももう年やから』の2つ」 こ「守れるか?」 い「『このごろの若い者は』とか『わしももう年やから』なんて言うてるようでは、平成時代を生きる資格ないね」 こ「またええ格好言うて、そんなこと言うとるから、若手の漫才師から『いとし師匠はええ格好しいや』なんて言われるねやぞ」 い「若手の漫才師がそんなことを?」

漫才台本「長年の勘」

夢路いとし「奈良県の大宇陀町へ参りました」 喜味こいし「この辺りは、万葉集なんかにもよく歌われてましてね」 い「私知ってますよ。この大宇陀を歌った歌」 こ「ホー、どんな歌?」 い(山本リンダの『ねらいうち』を唄う)「♪ウダダ ウダダ オーウダダ♪」 こ「それのどこが万葉集や!山本リンダの歌を無茶苦茶に唄ととんねやないか」 い「吉野川を下れ」 こ「……だいたい君が万葉集なんかわかるわけないわな」 い「吉野川を下れ」 こ「……教養なんかあれへんもんな」 い「吉野川を下れ」 こ「な

漫才台本「湯けむり物語」

夢路いとし「この度、うちの嫁はんと二人で旅行に行くことになりましてね」 喜味こいし「ホー、嫁はんと旅行に」 い「たまには、嫁はん孝行もしとかないかん思いまして」 こ「ええこっちゃ。で、どこへ行くことになったんや?」 い「嫁はんはサンフランシスコがええ言いまして」 こ「海外旅行かいな。豪勢やなぁ」 い「私はインドにしよ言うたんや」 こ「意見が分かれてしもたんか」 い「しょうがないから、その間をとって行くことにしました」 こ「間と言うと?」 い「サンフランシスコのサンとインドのイ

漫才台本「転職のすすめ」

夢路いとし「この前、嫁はんに言いましてね」 喜味こいし「嫁はんに何を言うたて?」 い「『僕もそろそろ老後のことを考えなあかんなぁ』と」 こ「……なんやて?」 い「『老後の事を考えなあかんなぁ』と。あと十年もたてば、この僕かて老後ですからね。今は若いけど」 こ「若ない!十年たたんでも、今が立派な老後や」 い「へっ?僕今、老後ですか?」 こ「当たり前やないか、君トシいくつや思てるねん。『茶摘み』やぞ」 い「なんやその『茶摘み』て」 こ「『茶摘み』の歌唄とてみい」 い「♪夏も近づく

漫才台本「こらいけま!」

夢路いとし「この前、あるうどん屋さんで、きつねうどんを食べたんです」 喜味こいし「きつねうどんを?」 い「そのうまいことうまいこと」 こ「そんなにうまかったん?」 い「うまいはずや、麺は最高の昆布とカツオを使こてるし、ダシは手打ちで腰があるし」 こ「麺とダシがアベコベや!」 い「あまりの旨さに、私は思わず大声で『こらいけま!』と叫んだね」 こ「誉められて店の主人、喜んだやろ?」 い「『誉めてくれておおきに、お客さんには、この四百円のきつねうどん、三百円にしときますわ』や」 こ

漫才台本「舞鶴見て歩き」

夢路いとし「大阪からこの舞鶴へ来るのも、便利になりましたねぇ」 喜味こいし「便利になったねぇ。福知山まで走っていた舞鶴自動車道が、この四月に、舞鶴まで走るようになりましたからね」 い「今、君は何を言うた?」 こ「舞鶴自動車道が舞鶴まで走るようになった言うとんねや」 い「へー、自動車道が走るとはねぇ、私は、自動車道の上を車で走るのやとばっかり思てました」 こ「車が走るねや!!」 い「舞鶴自動車道のええとこは、何と言ってもアレで走れるとこやね」 こ「アレで走れるて?」 い「アレや

漫才台本「気分はいつでも時代劇」

夢路いとし「愛知県へやって参りました」 喜味こいし「人間の体を日本列島に例えると、愛知県はちょうど、体の真ん中のヘソの部分やね」 い「ヘソの部分は、岡山県とか広島県でしょう」 こ「岡山県とか広島県がヘソ?」 い「ヘソ内海て言うやろ」 こ「瀬戸内海や!……まあしかし、日本の真ん中に在るだけあって、愛知県からは、偉人もようけ出てるわな」 い「イジンというと?」 こ「偉い人の事を偉人て言うねん」 い「とすると、私もイジンですね?」 こ「偉人違う、君はオジンやないか」 い「……聞かな

漫才台本「僕は町内会長」

喜味こいし「君、いま、町内会の会長さんをやってるそうやね」 夢路いとし「この四月からやらされましてね」 こ「君て、案外町内の人から信望をうけとるんやね」 い「自分の口から言うのはなんやけど、僕は町内では『我が町の聖徳太子さん』て呼ばれてるのやで」 こ「我が町の聖徳太子さん!?」 い「君は、『我が町の鼠小僧さん』て呼ばれてるらしいね」 こ「呼ばれてるか!」 い「町内会長なんか、なりたない言うて断ってるのに、選挙で僕が選ばれてね」(喜ぶ感じで) こ「選挙でね」 い「しかも満票でで

漫才台本「あなたやめられますか」

夢路いとし「私、最近の大学生を見てると腹が立ってしょうがないね」 喜味こいし「どうして?」 い「電車の中とかバスの中で漫画を読んでる大学生、この頃多いでしょう」 こ「多いねえ、漫画しか読まん大学生もいる言うがな」 い「私が大学行ってた頃なんか考えられんことやで」 こ「待て待て、君、大学行ってたん?」 い「行ってましたよ、昔」 こ「昔ていつ頃大学行ってたん?」 い「中学生の頃ですよ」 こ「……訳の分からんこと言うなよ。中学生の頃に大学へ行くわけないやろ!」 い「行ってましたよ。

漫才台本「推理は楽し」

夢路いとし「我々が舞台に出る前には、お客さんいろんなこと思てるやろね」 喜味こいし「何をお客さん思てるいうの?」 い「『いとしこいっさん、今日はどんな衣装で出てくるんやろ?』とか」 こ「それは無いやろ、我々は奇抜な衣装で売ってる訳やなし」 い「『今日はどんな顔で出てくるやろ、こいっさんはやっぱりブサイクのままやろか?』とか」 こ「ブサイクのままて!衣装は変えられても顔まで変えて出れんやろ」 い「しかし、我々もたまにはお客さんが『あっ!』と驚くような形で舞台に登場したいもんやね

漫才台本「板バサミはつらいよ」

夢路いとし「今日大阪からここへ来る途中の列車の中で、喧嘩を見ましてね」 喜味こいし「列車の中で喧嘩と」 い「どちらも白い服、白いシャツ、白い靴を履いた、恐そうなお兄さんや」 こ「白い服、白いシャツ、白い靴て、なんやカモメの水夫さんみたいなお兄さんやな」 い「けど、波にチャプチャプは浮かんでなかったで」 こ「わかっとるわい!」 い「その喧嘩の原因が、なんと、トイレに行く時、肩がちょっと触れたいうだけや」 こ「大の男の喧嘩の原因がそんなことかいな」 い「私は『お前たち、大の男が情

漫才台本「現代お巡りさん事情」

夢路いとし「毎日の新聞を読んでいて思うんやけど、相変わらず犯罪というのは絶えませんね」 喜味こいし「ほんまやね」 い「特に、都会に犯罪が多いね」 こ「それも大都会に多いがな」 い「余り無人島で殺人事件が起きたなんて聞いたこと無いでしょ」 こ「起こるわけないやろ!」 い「都会に住むと人の心が汚れるわけですかねぇ」 こ「それはあるやろね。うちの嫁はんの田舎の実家なんか、この何十年間、家に鍵なんかかけたことないちゅうからね」 い「貧しい実家なんですね、壊れた鍵の直し代も無いて……」

漫才台本「誉め誉め作戦」

夢路いとし「岐阜県の高富町へやって参りまして、いい所ですね」 喜味こいし「……」 い「落ち着いたいい町やと思いませんか……どないしたん?」 こ「今日は私、あまり喋らんとこ思てますねん」 い「なんで?」 こ「実は今日、大阪からここ来る列車に、女子大生のグループが乗ってまして、そのやかましいこと。私は寝よ思ても全然寝れへん」 い「そないやかましかったん?」 こ「そらベチャクチャとひどいもんや。君良かったね、汽車代浮かすために、大阪から自転車で来て」 い「アホなこと言うな!私は違う

漫才台本「花嫁の父」

喜味こいし「君とこの娘、今度結婚するそうやないか」 夢路いとし「ええ、来年早々に式を挙げますよ」 こ「そうか、あの子がもう結婚する年になったか」 い「もう二十二才になりましたからね」 こ「ついこの間まで、誰かお客さんが来ると」(左手を口にくわえ、右手を差し出し)「『おっちゃーん、おみやげ』てやってたと思てたのに、もうそんな年になったか」 い「いや」(右手を口にくわえ、左手を差し出し)「『おっちゃーん、おみやげ』は今でもやってるよ」 こ「させるな!二十二才にもなってるのに!」