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そのお店の開業、なぜだれも止めなかったの?

■定年を迎えたら、自分のお店を持つのが夢だった。

通勤途中、早朝から開いているカフェ。

以前はダイビングショップに併設したカフェでしたが、ダイビングショップの撤退と合わせて、カフェも無くなりました。

 通勤途中の通り道、急ぎながら歩いていますから、再開したカフェのお店は気にはなりましたが、時間が合わず、お店に寄ってみようとまでは至りませんでした。

 出張で始発の新幹線に乗る日、早く目覚めすぎて、早朝から営業しているカフェに初めて行ってみました。

 午前6時、お店にいたお客さんは、常連らしい年配の女性が一人。オーナーは、年配の少しダンディーな男性の方。お店の作りは、こだわりのカフェの雰囲気が醸し出されていました。コーヒーにはこだわりがあるようで、お店の中にはコーヒーの説明が書かれたPOPがたくさん。コーヒーのメニューは充実していて、新たに導入したであろう大きなエスプレッソマシーン。朝のメニューは、ボリュームのあるモーニング。さすが、名古屋、という感じでした。

 少しだけ話をしましたが、定年を迎えたら、自分のお店を持ちたかった、という夢があったそうです。

 お店の店舗外装には、手書きの立て看板のみ。お店の中には、コーヒーのこだわりが伝わるポップがたくさん。お店の中を見れば、こだわりのコーヒー屋さんであることがとてもよく伝わりました。

 このカフェを利用したのは、早朝の出張の時の2回だけ。後は、通勤の通り道で、このお店の前を通りながら、相変わらず何屋さんか分からないなぁ、と思いながら通過していただけでした。

 

■ひっそりと廃業してしまったカフェ。お店を維持する経費はいくら必要?

 このお店がオープンして1年ほど経過。小さなカフェは、ひっそりとお店を閉じていました。

 何があったのかは分かりません。体調を崩されたのかもしれません。真相は分かりませんが、お店が無くなったことだけは確かです。

 ここからは勝手な推測です。余計なお世話だとは思いますが、少しだけお付き合いください。

 坪数は15坪前後でしたから、家賃相場は15万前後でしょうか。電気水道ガスの光熱費は営業時間から逆算すれば月に3万円は必要だったと思います。その他の諸経費は、広告はしていなかったようですから、5万円から10万円は維持費で必要でしょう。最低でも25万円は固定的な経費は掛かっていたと思います。定年退職して、それほど大きな生活費が必要な状況ではなかったかもしれませんが、材料費を除いて、最低でも毎月の売上は25万円は必要。もし、お店を作るのに借入をしていたとすれば、その返済金と最低限必要な生活費(もしくは必要なお金)を足した金額が、最低限達成しなければいけない売上高になります。

■最低限達成が必要な売上が見込めるお店だったのか。

 お店の中に来れば、こだわりのコーヒーがお値打ちに飲める。コーヒー好きの人なら、一度お店に来たら、もう一度行きたくなると思う。店内の告知はとても充実していました。でも、店舗外の看板は、小さく立て看板があるだけで、カフェのようなお店、にしか見えません。営業時間もよく見ないと分かりませんでした。

 立地に関して言えば、来店型サービス業としては最低な立地です。まず、駐車場はお店の前に1台だけ。近くに近隣パーキングもありません。道路は、生活道路ではあるものの、大きな道路からの抜け道のようば場所。普通だったら、お店を出す場所ではありません。でも、以前のダイビングショップがあった時もカフェでしたから、居抜として借主を募集していたのでしょう。

 立地もダメ、駐車場もない。お店の中はしっかりとこだわりのコーヒー屋さんであることがわかるが、お店の外観は何屋さんか分かららない。かろうじてカフェと気づいても、気軽に入る要素がない。

■なぜ、だれも止めなかったのか。

 定年退職後、夢だった自分のカフェを開きたい。そんな思いをもって、物件を探していたのだと思います。そんな時に、カフェの居抜物件の情報を不動産屋さんで見つけた、もしくは、紹介された。

 きっと、その情報を見た時は、お店の中の様子の写真、お店の外観の写真と家賃の金額を見て、『このお店良さそうだ!』と思ったのだと思います。居抜物件でしたから、スケルトンからスタートするよりも当然必要なお金も少なくなります。なおさら、『ここで行こう!』そんな決断をされたのだと思います。(全部、推測ですけどね)

 本人が『やろう!』と決めれば、後は、いろいろな人がサポートをしてくれます。不動産屋さんは大家さんと交渉し、家賃のスタートを遅らせれもらえないか、減額交渉もしてくれたりもします。施工業者さんも店舗の内装工事のデザインと予算を、できるだけ本人の要望に合わせてくれます。本人の『やろう!』という期待に応えるべき、プロとしての仕事を目一杯発揮してくれます。だれも、このお店が失敗するなどと微塵も思っていません。成功するためのアドバイスをたくさんしてくれたと思います。

 では、なぜ、このお店は1年でやめてしまったのでしょうか。もちろん、本当の理由は分かりません。

 オープンしたお店の中はとてもキレイでした。カフェの機材もオシャレでしたし、確かに、コーヒーのこだわりがあり、もう一度お店に来よう、と思えるだけの品質がありました。それでも、1年で廃業したのはなぜか。

■もし相談を受けていたら、絶対に止めていた。

 もし、自分が相談を受けていたら、絶対のこのカフェのオープンは止めていました。もちろん、その段階では未来は分かりませんので、ひょとしたら上手く行ったのかもしれません。でも、現実に廃業してしまった。

 開業してはダメだという要素は、『立地』です。

 この人だったら、この品質だったら、この商品を扱うなら何とかなる。そう思えるかもしれませんが、来店型サービス業としてダメな立地には、絶対にお店を出してはいけません。ダメなものはダメなんです。お客様の立場になれば、分かります。何屋さんか分からないお店で、駐車場もなく、カフェと気づいても、気軽に入れる雰囲気ではない。勇気をもって、一度お店に入ればリピーターになるかもしれないけど、その一歩が出ない。立地と店舗デザインというのは、新規客を獲得する上ではとても重要な要素です。

 ひょつとしたら、この人だったら上手く行くかもしれない。開業相談の段階では、『その人』がどんな素晴らしいキャリアの持ち主かは分かりませんし、出来るだけ聞かないようにします。カフェという商売の種類で、お客様にとって来店しやい立地かどうか。まずは、ここで判断します。立地が良ければ、極論を言えば、あなたでなくても上手く行きます。でも、その良い立地で、『あなただからこそ』上手く行く理由があれば、なおさら、その開業は上手く行きます。

■『開業を博打にしてはならない』

 『開業を博打にしてはならない』そのお店を閉めてしまった理由は、本当のところは分かりませんが、ここに書いた内容でないことを願うばかり。夢の実現であるからこそ、必ず生存するお店つくりをしてほしいです。

なかしま税務労務事務所 税理士 中嶋政雄

 

 


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