リモートワークで人間関係を作る「社交的会話」のすすめ

新型コロナウィルスの感染拡大に伴う非常事態宣言で、弊シンクタンクもご多聞に漏れずリモートワークになっている。
これを書いている2020年5月4日は、ちょうど、5月6日までとされていた非常事態宣言について、5月31日まで、25日間の延長が決定された日でもある。

この延長の是非とか、期間が長いとか短いとかの議論は一旦脇に置いて、これから(というかすでに)長期にわたるリモートワークについて考えたいと思う。

リモートワークには、その他のすべての施策もそうであるように、メリットとデメリットが存在する。
よく言われるデメリットのひとつは「コミュニケーションが取りづらい」というものだ。

しかし大前提として、電話やメール、チャットはどこにいても使えるし、昨今は顔を見て話せるオンラインミーティングのツールも充実している。コミュニケーションが取りづらい、とは言っても、コミュニケーションを取るためのツールはいくらでもあるはずなのだ。

それでも、「コミュニケーションが取りづらい」と感じるのはなぜだろうか。


コミュニケーションの2つの目的

コミュニケーションには、大きく分けて2つの目的がある。ひとつは情報の伝達のため、そしてもうひとつが、親交の確立のためである。

「今日はいい天気ですね」
「はい、本当にいい天気です」

この会話において、情報としての価値はほとんど重要ではない。いい天気なのは見ればわかる。

しかし、実際の社会生活において、私たちは情報として話すべきことが何もない時にも話をしているものである。「最近お忙しそうですね」とか、「お子さんはお元気ですか」とか。雑談と呼ばれることもあるが、ほとんど無意識に、ただその場をつなぐためだけに話していることもある。いわば、「黙っていないようにするために話す」という状態である。これが、親交の確立のために行われるコミュニケーションであり、「社交的会話」と呼ばれるものである。

リモートワークで不足するコミュニケーションは、この「社交的会話」であるといえよう。


社交的会話の役割と、リモートワークによるリスク

親交の確立のために行われる活動には、一緒に食事をとったり、何かしらのゲームをしたり、仕事をすることも含まれる。しかし、一緒に話すこと、つまり、社交的会話をすることが、もっとも気軽で、特別の準備が要らない活動だと言える。

人は、社交的会話をすることで、互いの緊張を解き、「私は(相手は)敵ではない」ということを互いに伝え合い、仲間・友人としての協力関係を築く。

リモートワークでコミュニケーションが取りづらいと感じたり、どことなく冷たい、無機質な印象を持ったりすることがあるのなら、それは社交的会話が欠如し、緊張が解かれないままに、情報伝達のコミュニケーションだけが行われているためだといえる。

こうした組織では、コミュニケーションミスによる生産性の低下や、エンゲージメントの低下が起こると予想できる。

リモートワークが本格化してまだ1~2か月であれば、過去に築いた人間関係の"貯金"でうまくいっているように見えても、長期にわたるリモートワークへの対策として、今のタイミングから社交的会話を意識的に行うことが必要になってくるのではないだろうか。


既存のメンバーと新しいメンバーとのギャップ

とはいっても、すでに人間関係が十分にできあがっている組織においては、社交的会話の重要性はやはりピンとこないかもしれない。むしろ、社交的会話が無くなったことで、作業の生産性が上がったと感じている人もいるだろう。(これは短期的なメリットでしかないのだが、今回は割愛する)

問題は、リモートワーク中心の環境になってからチームに参画した新しいメンバーである。具体的には、この4月に入社した新入社員と、コロナ前後で中途入社したメンバー、加えて、部署異動してきたメンバーである。

この問題の最も危険な点は、既存のメンバーと新しいメンバーとの間に、社交的会話の欠如によるデメリットの感じ方に、ギャップが生まれやすいということである。

既存のメンバーは、すでに関係性ができあがっている状態でリモートワークをするため、現時点では、社交的会話がなくなることによるデメリットを感じにくい。
万が一、社会的会話の不足を感じて、「ちょっと寂しいな」と思うことがあっても、その時は仲の良い同僚同士でチャットを飛ばしたり、電話をしたりすればある程度は解消する。

一方、新しいメンバーは、一緒に働くメンバーとの関係性が十分でない中で、成果を出すことが求められる。誰に何を聞いたらいいのかも分からない状態で、それでも自分で情報を取りにいくことが必要になるのだ。

オフィスに出社していれば「周りの様子を見て」、組織文化を理解した上で動くことができるし、ちょっとした休憩時間に、レポートライン以外の相談役を見つけることもできる。新入社員であれば、困っている姿を「見つけて」誰かが声をかけてくれる可能性もある。そうした機会がほとんど失われると考えれば、社交的会話の欠如に対する危機感は既存のメンバーの比ではないだろう。

リモートワークの環境下では、既存のメンバー、つまり、これまで良好な関係を築けていた者同士の結びつきは、維持しようと努力されやすい。一方、そうではない新しいメンバーとの関係性は、意識しなければそもそも築くことができない。このギャップを意識できるかどうかが、組織としてリモートワークで成果をあげられるか否かの鍵になってくる。


社交的会話を行うポイント

では、社交的会話を行うためには、どのようなポイントがあるのだろうか。オフィスでは無意識に、自然に行っていたことでも、リモートワークでは意識的に機会を作る必要がある。

①相手との「一致」を得やすい話題から始める
はじめは、挨拶や天気の話など、相手が迷わず返答できるものを選ぶ。
自分と相手の見解が一致しやすい話題から始め、一致を得たら、次の話題に進む。
(例)
「今日はいい天気ですね」
「ええ、本当にいい天気ですね」(一致)

②平凡な話題を恐れない
何か有益なことを言わなければならないという思い込みを捨てる。
あくまでも「親交の確立」のためのコミュニケーションであるという目的を忘れない。

③話をつなぐ、続ける
ひとつ「一致」が得られたら次の「一致」に進む。(話をつなぐ)
また、今日会話をしたら、明日も続けて行う。(続ける)


社交的会話は誰にでも始められる

最後に、重要なこととして、社交的会話は立場の上下を問わず、誰でも始められるものである、という点に触れておく。コミュニケーションの良いところは、「自分から始められる」という点だと常々思う。

コロナの状況で入社することになった新入社員であっても、突然リモートでマネジメントを行う羽目になった管理職であっても、ともに働く仲間に社交的会話を投げかけることはできる。

リモートワークで不安を感じたり、やりづらさを感じているとしたら、それは自分だけではなく、相手もまた同じかもしれない。パソコンの向こう側には同じ人間がいるのだと思ったら、5分10分、平凡な話題を一緒に話してみるのも、また楽しいのではないだろうか。


参考文献:S.I.ハヤカワ『思考と行動における言語 原書第四版』岩波書店(1985)

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