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しらすについて掘り下げてみた話

こんにちは、中乃一です。前々回、こだわり釜揚げしらすで、しらす丼を作ってみた話、を掲載したところ、大きな反響をいただきました。ありがとうございます。補足や質問があったので、さらに「しらす」を掘り下げてみたいと思います。

今回のお話は、豊洲市場しらすセリ人のマイスターと、マイスターから紹介いただいた、さかな一代の「こだわり釜揚げしらす」の生産をしていただいている、静岡県吉田町のかねはち久保田水産さんに詳しく教わりました。ありがとうございます。まずは、神秘の湾、駿河湾について、久保田水産さんから補足をいただきました!

駿河湾については新しい発見がいっぱい!

用宗港_3847866_m

駿河湾の漁港探索:用宗港(安倍川の河口の漁港、静岡市)しらす漁が有名
運搬船が青いコンテナに入った生しらすを届けている様子がわかる。

まず、ぼくも興味を持った「駿河湾」について。駿河湾は、外海となる太平洋に開けた解放湾であるため、黒潮波及水と呼ばれる湾外からの海水の流入が多く、他の内湾よりきれいであることが特徴だそうだ。

駿河湾を囲む陸地には、富士山や南アルプスの山々があり、そこから流れ込む河川も多い。そう、このところ話題の、リニア中央新幹線の南アルプスの流水の越境がからむ問題は、こんなところでも影響している。決してこの問題だけに限った話ではないけれども、双方の利害が関係しているのはもちろん、開発が与える自然環境への影響が問題みたい。大井川の河口部である、吉田町の網本さんたちも心配している、是非、議論を尽くして欲しいね。

話を戻すと、一般に山には窒素分(N)、海にはリン酸塩(P)が多く、植物の生育にはこのNとPが必要なんだとか。良い生態系を保つためには、このNとPのバランスが重要。東京湾や大阪湾などの内湾は、陸からのNが多く、栄養に富んでいるそうだけど、人為的なN(し尿など)のため、バランスが悪い。実際、赤潮や青潮(苦潮=無酸素水塊)などが頻繁に発生していることからもそれはわかる。一方で駿河湾に流入する陸のNは、山の腐葉土などから流出した自然由来の栄養が主であるため、生態系にやさしく、バランスの取れた健康な海なんだ。

駿河湾は、とっても深い湾であるということは、前回もお伝えしましたが、深いと何が良いのでしょうか? そこを少し補足させてもらいます。

浅い内湾では、海底に蓄積した分解しきれない有機物が、酸素を消費する有害物となって海を汚染するそうですが、駿河湾では、深い海底に沈んでいく間に、有機物は完全に分解され栄養となっている。これらを豊富に含んでいるのが、駿河湾深層水なんです。この駿河湾深層水が、湧昇流によって上層に運ばれる豊かな湾となっている。

それから、湾が深いということは、水量が多いということでもあります。海が汚染されにくいことに加え、様々な要因の引き起こす変化が、急激に進みにくい性質もあります。もちろん、場所柄黒潮の影響により、水温が大きく変化することはありますが、人為的な影響は他のどの湾よりない。日本一深く、水量豊富な湾なんですから。

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黒潮は、駿河湾のすぐそばを流れる場合は、黒潮波及水が伊豆側から反時計回りに流れ込み、駿河湾の水温を上昇させることが多い。一方、沖に冷水塊ができると、黒潮の流れが、大きく駿河湾や遠州灘を避けるように南の沖合に蛇行する。静岡県から愛知県にかけてのしらす産地が、好不良を繰り返すのは、このような自然の影響によるらしい。ちなみに、画像の太平洋側の赤い帯が今年(2021/9/16現在)の黒潮の流れ。紀伊半島沖を大きく蛇行している。

海上保安庁がレポートしているので、のぞいてみるのも面白いと思います!

しらすは何の魚の稚魚でしょうか?

しらすは、主としてカタクチイワシ・マイワシの稚魚なんです。生後1か月から2か月以内の、まだ透明な時期の頃の俗称です。マイワシのしらすは、色が黒っぽく、主として春に出回り、カタクチイワシのしらすは、春から冬までの長期にわたって出回り、色が白いというそれぞれの特徴があります。

脅威の産卵ペースと成長スピード

釜揚げしらすの原料であるカタクチイワシは、成熟すると3日に1回の割合で1尾あたり8000粒の卵を産卵すると言われているそうです。産卵された卵は、なんと3日でふ化します。

ふ化したカタクチイワシの稚魚は、1日あたりの成長度が、0.7ミリに達するそうです。栄養の多い豊かな海では、しらす漁で捕獲される大きさになるのに、1か月ほどで到達します。

ただ、黒潮にのってやってくる海の生物については、うなぎの赤ちゃんの謎が近年少しわかって来たように、完全に解明されていない部分が多く、カタクチイワシやマイワシの稚魚である、しらすも謎に包まれている部分もまだ多い。

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静岡県のしらすは小さい!?

静岡県のしらすは他県産と比べて小さいと言われています。豊洲市場のマイスターに聞いてみました、小さいしらすが好まれる背景はあるのでしょうか?

しらすのサイズが小さいということは、食べた時に硬さを感じず、魚臭さが少ないということに直結しています。むしろ、魚のクセが必要なのは、しらすではなく、「ちりめん」です。だから、「釜揚げしらす」には、口当たりが柔らかく、上品な風味を醸し出す、小さいサイズのしらすが選ばれて、高い札が入りますね。

しらす漁って、どうやって漁をするの?

ぼくの大好きなYoutuber、小豆島の漁師はまゆうを運営する、はまゆうさん(ぼくは当然登録してます!)、「1匹1円以下の魚で稼ぐ漁に密着!」の回で、しらす漁の様子を動画にしてくれています。こちらは、瀬戸内の海でのしらす漁の様子かと思いますが、2艘引きでの迫力のしらす漁の様子が動画になっています。漁師だから撮れる動画ですね、是非見てみてください!

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ところで、カタクチイワシの稚魚を採ってしまって大丈夫なのか?

先ほどのはまゆうさんの動画のコメントにも、稚魚であるしらすを採ってしまって大丈夫なのか? という趣旨のコメントがちらほらとありました。(もちろん、はまゆうさんの動画のコメントは、主のはまゆうさんのものなのでお任せするとして)前回のしらすの回で、ありがたいことにぼくにも、そんな質問がありました。だからみなさんも、気になるところではないでしょうか?

水産庁が出している「カタクチイワシの資源・漁業及び資源管理について」で、資源管理状況が報告されています。

今回さかな一代の大人たちに駿河湾の補足で協力いただいた、静岡県吉田の網本さん達をはじめ、さかな一代で取り扱いのある、愛知県の網本さん達にしても、それぞれの県が、カタクチイワシを直接的に、もしくはカタクチイワシを含む漁業種類として水産資源の管理対象としていることがわかると思います。漁の休業や、操業時間の短縮を行いながら、しらす資源を協力して守っています。

とはいえ、みなさんお気づきの通り、まず、何に対して大丈夫か?とうところがありますよね。ご紹介したデータは、カタクチイワシの成魚の漁獲高との関係において、しらす漁の影響は少ない、としたものです。カタクチイワシは、海の生態系の中で、いろんな魚の餌にもなっている側面もありますから、単にカタクチイワシの種だけの保全ということだけでは語れない側面はあります。カタクチイワシが、稚魚であるしらすの段階から、成魚に至る間のどの段階で捕食されるか、どういった海の生物に影響しているのか、学んでいかなければならないでしょう。

海の豊かさに感謝して、「豊かさって何だ?」ってみんなで関心を持っていきましょう!

ぼくは、海の豊かさに感謝して、恵みである魚を食べることを広めながら、多くの人に関心を持ってもらうこと、そして、ぼくと同じような考えでなくても構わないから、水産をはじめとした一次産業に対して、多くの人がいろんな意見を持ってもらえることが、大切だと思っています。「大丈夫なのか?」という問いに対して、「大丈夫なんだ!」と行動できる水産社会をみなさんと共に作りたい、そう思って行動しています。

稚魚を採ってしまって大丈夫なのかの最後に、水産に対して様々な警鐘を鳴らす、漁業ジャーナリスト片野 歩さんの「シラスは獲っても良いのでしょうか?」を紹介させていただきます。

豊洲市場のしらすマイスターに聞いてみた!

しらすはとにかく鮮度が大事。だから、漁でしらすを網から上げたら、すぐに大量の氷でしめる。これが足りないと、釜揚げしらすや、しらす干しにする場合、炊くと腹側から割れてしまうんだよ。(ちなみに、生しらすを釜で煮ることを、「炊く」と言います)

しらす漁で有名な港では、どこも沖から猛スピードのしらすの運搬船が到着すると、おじちゃんおばちゃん総出で、しらすの入ったコンテナを陸に上げてるところが見られるよ。漁港の市場でセリにかけられたら、すぐに加工場に運ばれて加工に入るし、とにかく処理スピード勝負だね。かねはちさんも、港からかなり近いよね。

かねはち吉田漁港

それから、しらすの製造加工の世界も、おいしいしらすを食べてもらおうと、加工機材メーカーの技術開発が進んでるよ。みなさんに質のいいしらす加工品を提供しようと、製造加工業者と一緒に頑張っているよ。

釜揚げしらす・しらす干しを炊く、丸くない釜。まるで流れるプール

中乃くんは、「釜揚げ」と聞くと、丸い釜を想像しただろうけど、最新の加工技術では、アツアツの熱湯のままに、つづら折りに蛇行した流路を3分弱くらいかけてしらすが流れるようにコンピューター制御されている釜なんだよ。さらに、新しい加工技術が生まれて、そもそも釜で炊くのではなく、「蒸す」釜揚げしらすも登場している。生しらすの養分が溶け出さないという理屈は、確かにそうなんだ。

炊いたら、釜から上げて水分を切り「釜揚げしらす」になる。これを干すと、「ちりめん」になるけど、「ちりめん」も、品質管理と主に衛生面から、乾燥機を使って天日で干すのと同様な効果を生む生産方法が主流になってきているよ。何層にもベルトコンベアを重ね、交互に逆向きに回した構造の設備で、釜揚げ後のしらすは、送風機から送られる風を受けながら、ベルトコンベアの上を移動し、上の段から下へパラパラ、また次の段へパラパラと繰り返して降りてくる間に、狙った水分量へ調整される仕組みだよ。

それから、異物などを取り除く技術も、どんどん進んでいる。炊く時に、比重の関係で浮いてくるものを取り除く他に、炊きあがりのしらすを、目の細かなネットにぶつけるようにして異物を取る手法もある。まあ、ふるいにかけるようなわけだけど、小エビの足やひげが引っ掛かかって面白いように取れるね。それでも、最後に頼るのは人間の目だけどね!

ズバリ、腹側に曲がったしらすが、良いしらす!

釜揚げしらす・しらす干しの、「良いモノ」の見分けのポイントを教えるよ。鮮度が高い、いいしらすを加工するほど、腹側に丸まるんだ。これは、しらすを判断するのにプロがやっていることだから、みなさんも是非覚えておいてほしい。

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さっき、網から上げた後の手当で不足があって、生しらすの鮮度が落ちた悪いしらすだと、炊いたら腹から割れる、って教えたけど、鮮度がいいやつは、その逆なんだよ。

しらすマイスター、今日はありがとうございました!

豊洲市場でセリ人を務めるしらすマイスター。産地の荷物を集めて、各地の生産者の代理人として、商品のセリを行い、セリ後はいち早くその日の市場の情報を、生産者へフィードバックしている。

マーケットニーズをつかんでいるから、荷物を託してくれる生産者さんの水産物が、ニーズに合って適正水準で売れるように、日ごろから様々な助言を行う。時には、加工機械メーカーをつないで導入などもアドバイスすることもある。そればかりか、加工機械メーカーへの開発助言も行うなど、実は、セリ人の仕事はとても広くて、とても奥深い。

マイスターのことは、また取り上げたいと思います、お楽しみに!

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