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The otherside of Interview with Matsuki Ayumu

この記事は、2019年3月19日にウェブサイト「DANRO」にて公開されたまつきあゆむインタビュー(https://www.danro.bar/article/12212359)のアウトテイク集(言い換えればNG集)です。編集部でバッサリカットされたものの、著者としては読んでもらいたい部分も多かったのでここに公開しておきます。主に、音楽や作品について突っ込んだ話をしているところが真っ先に切られたり、自分でカットしたりした(音楽メディアではないゆえの苦渋の決断でした)箇所の救済措置という感じです。

* * *

■友達いないやつの発想だよね

ーーまつきくんって、友達はいらっしゃるんですか。

まつき:(笑)。いないことはないけど、多くはないですね。

ーーというのも、全部の楽器を自分で弾いて自分で歌って自分で録音までするのって、友達いないやつの発想だなって。

まつき:ああ、そうですね(笑)。でも、そもそもは友達云々は関係なかったかもしれないです。

ーー最初に自宅録音、いわゆる宅録をやり始めたきっかけというのは。

まつき:それはやはりビートルズですね。ヒットチャートだったりアニメだったり、そういうところで聞こえてくる音楽とビートルズは、子供ながら明らかに異質だった。その理由は、オーバーダブ感だと思うんです。

ーー多重録音に魅力を感じたと。それがおいくつくらい?

まつき:12歳とか。

ーーその年齢で、録音の手法などをもう理解していたんですか。

まつき:僕の頃は、すでにそういった本が充実していたんです。マーク・ルイソンの『ザ・ビートルズ レコーディング・セッションズ』(シンコーミュージック)とか、そういうもので言葉から入っていってましたね。「オープンリール」とか「オーバーダブ」とか「ピンポン録音」とか。当時からそういうものに惹かれていた。

■宅録への傾倒

ーーで、MTR(マルチ・トラック・レコーダー)なんかを買うわけですか。

まつき:ですね。カセットテープに録るMTRでした、4トラックの。下手したら2トラックだったかもしれない。

ーーそれで宅録を始めた。バンドをやろうとは思わなかったんでしょうか。

まつき:思わなかったですね。当時はHi-STANDARDであるとか、パンク全盛で。それももちろん立派なバンドサウンドですけど、僕の思う“バンドサウンド”とは別種のものだと感じていたんです。それと、ビートルズが奇跡的すぎたというのもあるかもしれない。僕は幼少期にビートルズの音楽と出会って、それが基準になってしまったんですね。「音楽をやる以上はあれくらいできないと」って思い込んでしまった。

ーー「野球をやるなら大谷翔平くらいのことはできないと話にならないぞ」みたいな。

まつき:でも、あの同じ時代に同じ街であの4人が集まって、ジョージ・マーティン(プロデューサー)がいて、ジェフ・エメリック(エンジニア)がいて、その全てのパーツがそろって倍々ゲームになっていって。そんなことってないぜ、って。「ジョージ・マーティンみたいな人、探してまーす」とか言ったところで、ねえ(笑)。

ーージョージ・マーティンは、ジョージ・マーティンを探しているうちは絶対に見つからないですからね。

まつき:それを12歳のまっさらな僕は“最低限クリアすべきレベル”に設定してしまった。自分でもマズったなと思ってるんですけど。

■全楽器を演奏する“プレイヤーではない何か”

ーーひとりで家にこもって音楽を作る人っていうと、どうしても打ち込み(コンピュータで演奏データをプログラミングすること)系のイメージがあるんですけど、まつきくんの作る音楽って完全にバンド音楽じゃないですか。ギターを弾いて、ベースを弾いて、ドラムを叩くという。

まつき:そうですね、そこが屈折しているところというか(笑)。限りなく“生”を目指している。

ーーしかし、まつきくんってプレイヤーかソングライターかで言うと、圧倒的に後者だと思うんですね。

まつき:そうですね。「絶対に自分で弾きたい」みたいな欲望はないです。

ーー例えば、ご自分の作品でほかの人がギターを弾いていても構わない?

まつき:もちろん。ただ、コントロールしたいっていう欲望は人一倍強いかもしれないです。「誰が弾いているか」よりも「何を弾いているか」。どこでチョークアップ(ギターの弦を引っ張り上げて音程を上げるテクニック)して、どこでダウン(その逆)するのか、みたいなところまで制御したい。

ーー完全に作曲家の発想ですね。と言うわりに、まつきくんはあらゆる楽器が弾けます。最初に始めたのはどれだったんでしょう。

まつき:アコースティックギターです。12歳の時かな。ずっとやりたいと思っていて、中学受験の時に合格のご褒美で買ってもらった記憶があります。それで、ビートルズの「Blackbird」とかを弾いてました。

ーー作曲を始めたのはいつごろ?

まつき:初めてオリジナルを書いたのは、高校生くらいだったかな。

ーーギターを持ってから作曲を始めるまで、結構スパンがありますね。イメージとしては、まつきくんって曲を作りたいがためにギターを始めたんじゃないかと思っていたんですが。

まつき:最初はやっぱり、コピーできる喜びが大きかったです。今思えば全然弾けてなかったんですけど、「レコードと同じ音が出る!」みたいなことで感動していました。

ーー作曲に興味を持ったきっかけというのは。

まつき:それはあれじゃないですかね。「自己表現をしたい」みたいな、思春期特有の。それがたまたま高1くらいだった。

ーーちなみに、歌うのはお好きですか。

まつき:好きじゃないですね。自分の声が好きじゃないんで。

ーーとても魅力的な声ですけどね。となると、「歌いたい」もないし、「弾きたい」もない。やっぱり作家なんだなと感じます。

まつき:完全にそうですね。シンガーの人って、歌うことが人生だったりとか、歌でこそ表現できることがあると思うんです。でも僕の場合は、歌だけを抜き出して考えられない。アレンジやミックスも込みで、ひとつの価値として見てしまいますね。

■「1億年レコード」の本当の狙い

ーー2010年のアルバム「1億年レコード」で、流通を介さない直接販売を行いました。メールで客と直にやり取りをして、まつきくんのアドレスからダウンロードリンクが届くという。

まつき:やりましたね。

ーー作詞作曲とか演奏、録音までをひとりでやる人は珍しくないですけど、仮にもプロが販売までひとりでやるっていうのは正直、狂気すら感じます。まるでDANROに載るために生まれてきたようなアーティストだなと思っているんです。

まつき:ははは。褒めすぎじゃないですか。

ーー褒めてはいないです。「褒めてない」というのも変ですけど(笑)、事実を事実として言っているだけで。

まつき:ひとりでやることに固執していたわけではないんです。実際、CD時代のスタッフにも多少手伝ってもらってましたし、その方法をとることによってエキサイティングな聴き方をしてもらいたい、ということのほうが重要でした。

ーーそれから何作か、同様の手法でのリリースが続きます。傍目には、それなりにうまくいっているように見えましたが、3作ほどでその販売形態はやめてしまいましたね。

まつき:TwitterとかUstreamとか、2010年にあった“熱”が冷めてきたというか、インターネットのあり方が変化していった。「1億年レコード」で狙っていたのは、「インターネットを通してzipデータが僕のアドレスから届いてそれを解凍する」という“体験”も含めて作品だ、という提示の仕方だったんです。「ギター、ベース、ボーカル、インターネット」みたいな。それがどんどん薄れていっちゃったんで、自分のテンションや周りのテンションも下がっていったような感じ方をしています。

■最適解は見つかっていない

ーー昨年発表したアルバム「2018年のマニュアルトランスミッション」は、SpotifyやApple Music等でのデジタル配信のみで販売されました。

まつき:“ストリーミングされる音楽”として出すことがしっくりきたんですよね。ただ、それに対してエキサイティングな思いはないです。サブスクリプション(定額聴き放題サービス)というものに興奮みたいなものは感じていなくて。もちろん便利に使ってはいるんですけど、「便利だな」くらいのことで。

ーーリリース時のコメントでは、販売形態の変更について「自分の中でのインターネットの役割と音楽のあり方の変化によるもの」と説明していました。あれを読んだ時、「要は面倒臭くなっちゃったのかな」と思ったのですが。

まつき:面倒臭くはなかったんですよ。僕はもともと、自分で全部を把握しておきたい性格なんです。確定申告も税理士に任せないで、自分が機材にどれくらいお金を使ったかとかを眺めてニヤニヤしているタイプなんで。

ーー同時に、あのコメントは「今後まつきあゆむがアルバム単位で作品を発表することはありません」という宣言のようにも読めました。

まつき:よく言われている「iTunesの登場で音楽はシャッフルされ、ストリーミングの台頭によってアルバムという単位は崩壊した」みたいな言説には、実はあんまりピンときてなくて。だからと言って、「アルバムというものは10曲でストーリーがあって、アナログレコードでA面B面があってこそだ」みたいな話にも「だよね」とはならず。

ーーなるほど。

まつき:自分なりにしっくりくる答えが見つかっていないんです。それに対する苛立ちはあるんですよね。それで、「2018年の〜」は「寄せ集めです」みたいな、なかば投げやりな言い方をしたんですけど。

■DTMで食べていきたい若者へ、先輩からのありがたいお言葉

ーー今、DTM(デスクトップミュージック)でひとりで曲を作って、ニコニコ動画なんかで作品を公開している人もいっぱいいますよね。そういう人たちが音楽を仕事にしていくために必要なことって、なんだと思いますか。

まつき:すごくつまらないことを言うと、「お金があるところへ行け」ということですね。音楽を作って生活していきたいんだったら、予算のあるプロジェクトに関わらないといけない。夢のない話で申し訳ないけど(笑)、予算があれば、弦や管も打ち込みではなく生演奏を録れたりしますし。でかいスタジオでなければ録れないものと、DTMでひとりで作るものの両極を経験することで、初めて見えてくるものもあります。

ーーそういう、お金を持っている人たちと絡んでいくためには、どうしたらいいのでしょう。

まつき:そこですよね。それは、運かなあ……。

ーー運ですか。

まつき:僕の場合で言うと、「1億年レコード」だったりで人目につくようなことをしたのが生きたかなと思ってますけど。だから例えば、インターネットが好きなんだったら、Twitterで面白いことを頑張ってみるとか。

ーー目立つことをしたほうがいいと。

まつき:まあ、そうですね。あ、ひとつだけインタビューっぽいこと言っていいですか?

ーーお願いします(笑)。

まつき:とにかく曲を書くことです。曲を書くのって、素振りみたいなもんで、基礎体力を鍛えられるんですよ。とにかく書いて、どんなにダメでも出す。僕も「新曲の嵐」で一時期は毎週新曲を発表していましたけど、たくさん書いてると、そりゃ二度と聴きたくないような曲もできます。でも、それでいいんですよ。曲を書いてない人は信用ならないです。

ーーわかる気がします。

まつき:「このギターがこうで」とか「この音がなんとかで」みたいに口で言ってても、曲を書いてない人は一発でわかる。SoundCloudにすごく昔の曲だけ上がってて止まってるとか。そういうのは更新していったほうがいいんじゃないかな。「とにかく曲を書け」というのが、僕の唯一言えることですね。

ーー打席に立ち続けなさいと。

まつき:そう。三振でいいから。

ーー例えばお笑い芸人って、売れるとネタをやらなくなるじゃないですか。で、大御所の人とかが「何十年ぶりに漫才をやります!」とかいうのって、大抵つまらないですもんね。

まつき:あははは! それも同じことでしょうね。舞台に立っていないから、基礎体力が落ちてるんじゃないかな。

■その実践編を大公開

ーー最近はCM音楽の仕事も多いですよね。テレビからまつきくんの声が聞こえてくる機会も多くて。仕事の割合で言うと、今どんな感じなんですか。

まつき:今は、もうほとんどそれですね。CMが8割、映画が2割とか。

ーーそういった仕事は、楽しいですか。

まつき:楽しいですよ。常に新しいことをやれるし、自分の得意ジャンルにかかわらず、なんでも書けるようにならないといけない。使ったことのない筋肉を使う筋トレみたいな感じです。よく思うのは、仕事で依頼されて曲を書くにせよ、自分のプライベートで作るときにせよ、打席に立ったときの打率が良くないと何もできないってことで。その打率を上げるための筋トレが、今は続いているのかな。

ーー内角もさばけないといけないし、逆方向へ強い打球も打てるようにならないといけない。

まつき:そうです。あと、打った後のバットの投げ方とか。

ーーああ、とても大事なことですね。

まつき:映えるフォームとかね。そういう手数はたくさんあったほうがいいなって。ひとりでやることのつらみは、そこですね。トータルプロデュースを自分で全部考えておかなきゃいけない。なかなかしんどいです(笑)。

ーーさっきの話じゃないですけど、これまで個人でやってきて、CMや映画のような、大きなバジェットのあるプロジェクトにどうやって関わるようになったんですか。

まつき:懇意にしているCM音楽の制作プロダクションがあって、そこを通して仕事が来ます。映画もそうですね。そもそものきっかけとしては、過去の僕の作品を聴いて声をかけてくれました。最初は仮歌用のシンガーとして呼ばれたんですけど、「新曲の嵐」とかもチェックしてくれていて、「まつきくんは曲を書くのが早いから」って作曲の発注も来るようになって。CMの世界ってスケジュールがすごくタイトだったりするので。

ーーご自分の作品としてはなく、誰かのために曲を作ることって、それ以前はあまりなかったですよね。

まつき:そうですね、全然なかったです。曲提供とかもしてなかったし。

ーー自分の作品ではないからこそできる表現の快感みたいなものはあります? 例えば、自分の曲なら絶対に使わない言葉を歌詞に使うとか。

まつき:ああ、それはありますね。ただ、「純粋な自分の表現として書いた曲の最高さ」みたいなものは確実にあるんで、それが職業作家になりきれない部分だと思います。自分の曲は常に、毎週でも書きたいと思っているんです。仕事が忙しすぎて無理なんですけど。

ーーサラリーマンみたいなこと言いますね。

まつき:あははは! そうですね、「仕事に追われてDTMやる時間がないんですよ」みたいな(笑)。飲み歩いたりしてるわけでもないのに、やっぱり時間はなくて。でも、「これをやってやりたい」みたいなアイデアや意欲はありますよ。

■まつきあゆむっぽくないことが一番面白い

ーーでは、最後の質問です。今後、まつきあゆむはどうなっていきますか。あるいは、どうなっていきたいですか。

まつき:うーん、そうですね……。「アメリカに行って、あっちで映画音楽とかをやっていくんだ」みたいなカッコいいことが言えればいいんですけど、そんなことは微塵も思ってなくて。

ーーそういうのは、正直まつきあゆむっぽくないです。

まつき:でも、まつきあゆむっぽくないことが一番面白いですよ。

ーーなるほど、確かにそうですね。いきなり「月に行きたい」とか言い出したら面白いかもしれないです。

まつき:女優の彼女を連れてね(笑)。なんだろうな……。あ、まだ頭の中で鳴っている音の3〜4割くらいしかできていないので、せめて7割くらいまで到達してから死にたいです。

ーー10割じゃなくていいんですか。

まつき:それは無理でしょうね。あのジョン・レノンですら、「Strawberry Fields Forever」を後年に聴いて「いい曲だけど、音が良くない。全部録り直したい」とか言ってたらしいですから。僕は全然そうは思わないですけど、ジョンからしたらそうなんでしょう。そういうことの繰り返しだと思うんですよ。僕も機材選びや録音方法で新しいトライをし続けていますし、それこそ「1億年レコード」の時のような「CDって出さなくてもいいんだ、zipでいいんだ」みたいな“気づき”を常に探しています。

ーーじゃあ、もしかしたら今後、とんでもないことをやらかすかもしれない。

まつき:やりたいですねえ。できることならば。

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