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人魚

短歌 中西まさこ

責められたと感じてそれをうたに詠む人魚の髪が氷湖に凍る

この町に一店舗だけのカフェの客 黒板の品を従順に買う

温かいアメリカーノをダブルショットでマグでそそごうお前の痛みに

微笑みの悲しくひかる雪の午後まるいサインの濃緑と白

クリスティアン・アンデルセンの物語こどもを大人にしてしまう罪

あの人がたまらなく好きと身をよじる人魚の尾びれが湖水を叩く

下半身のうろこを無理に剥ぎ取って見つめる 青い血のひとすじを

しろい脚をわたしにください 後悔は絶対しません 声を売ります

再会の岸辺に王子が見た者は一糸まとわぬ聾唖ろうあ女人にょにん

あこがれた姫にはなれず宮殿の床磨きをする惨めな下女に

初出:『未来山脈』2018年4月号


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