砂丘
短歌 中西まさこ
這うように砂丘をのぼれば その先も砂丘が続く 蜃気楼 消える
疫病の高熱にうなされている 私はもう死んだのだろうか
スタインウェイはなんとなく嫌 この曲はベーゼンドルファーで聴きたい
葬送の曲も弾き手も楽器もしかもメーカーまで書き残しておく終活ノート
死ぬことが怖くないとはどういうこと 憎しみも愛も孤独も地に落とす
自らを助けることさえできなくて 誰の命をまかされようか愚か者
気づかない お前は鏡をのぞき込み「私じゃない私は違う」と目を逸らす
そうお前は赤児が乳をのむようなそぶりでいつもそれをむさぼる
ほかの人も孤独な人だと思いたい人の孤独を見れば哀しい
誤解だと言い切る言葉の断定に この人の 心の動きをじっと見ていた
初出:『未来山脈』2022年9月号
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