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考古学をやめた日のこと。
2023年9月4日。
多分生涯忘れることの無い日。そんな日のできこと。
9月4日
朝はいつも通り5時に起きた。うとうととしながら、車に乗って現場に向かった。もうあの時は高速通勤をできる身体ではなかった。中央分離帯にぶつかりそうになることなんて、もう日常茶飯事だった。
「死ななきゃいい」
それだけを考えていた。
あまりにも眠い。パーキングエリアと高速を降りた後にあるいつものコンビニに寄って少しだけ眠っていた。最後にまともに現場へ直行できたのはいつだろうか。そうして、曇天の心で事務所に向かった。
殺気立っていた。ある区画の発掘が今月を以て終わらせなければならなかった。8月が〆だったが、実情を鑑みて9月末に延長していた。上層部からの圧力は言語にしようがないが、恐ろしいものだったことは覚えている。月末の会議で進捗を報告するのだが、不満たらたらな課長の顔が脳裏にこびりついていた。
調査が始まった。朝礼をする。顔は多分死んでいたんだろう。8月に入ってからというもの、調査を手伝うバイトの人達から、ずっと心配の声を掛けられていた。監督する側が言われては本末転倒だが、そんなことを考える余裕もなかった。
「大学院生をいったん休んででも入ったこの職を、続けないわけにはいかない。それが私の矜持」
心の中でずっと考えていたこと。矜持を守って生きていかなければならない。父が中間管理職、母は学校事務の長。私の家。私の家族。それを守って生きていかなければならないとずっと考えていた。
大学時代にまともな社会経験を経ずに大学院にまでやってきた。それが、採用募集が出たからと公務員に突然なった。多忙だったとはいえ、トントン拍子に進んだ安定への道。それを踏み外すことは決してあってはならないと考えていた。その時は、家族や大学院関係者ひいてはあの専攻・専修を汚すことになる、そうとも言える。一研究者になったばかりの私は、自分で自分の首を真綿で締めようとしていた。
昼休みになった。昼食は、ない。数日前から昼食を食べることがまともにできなくなっていた。食べ物の味が薄いことから始まり、この日までにはこんな有様だった。食べたふりをして、煙草を吸いに行った。そこから、私は前々から薄々考えていたことをした。
「局長、限界です。しばらく休ませてください」
きっかけはパートナーからだった。就職してからの半年間、就職を祝ってくれた後も支えてくれた。私の健康悪化に気づいたのも、最初は彼女からだった。やつれている。その後は急な下り坂だった。仕事が終わった直後に彼女の家まで逃げていき、泣きながら夕食を食べた日があった。そのあたりから、休職して身体を休ませてあげたら、と言われるようになった。
最初は、前述したような矜持を捨てる事は、自分の「家」や「経歴」を汚すことだからできないと思っていた。けれど、追い込まれていった。自分でもわかるほどの衰弱。普通にできる事ができなくなる。酒の量は今考えれば異常だった。深夜1時くらいまで飲んで寝て5時に起きることもざらだった。朝日が怖くなった。日の光の浴びる事さえ怖くなっていった。
午後の仕事は記憶が無い。思い出すことが出来ない。その場にいた、ということぐらいしか思い出せない。
定時になった。課長が来た。休むことは既に連絡が行っていて、泣きながら謝っていた。
「今日は最低限仕事やったら帰りな」
何も考えることなくそそくさと雑務を終わらせ、外に出た。みんなが外にいた。天を見上げている。不思議な空だった。
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真っ二つに青空と夕空が分かれていた。神を信じるなら、ここが分かれ目だとでも言われている様だった。
家に帰った。泣いた。母親も泣いた。気づかなくてごめん。ひたすら、ゆっくりと眠った。長い休み、私の変化が、はじまっていた。
わたしの状態
そこからはうつ病との戦いだった。抗うつ薬を飲みつつ、日々の生活をしていった。医者からは以下のような診断だった。
「抑うつ気分、軽度制止症状を認めます」
抑うつ状態とは、「気分が落ち込んで何にもする気になれない」、「憂鬱な気分」などの不快感なこころの症状が強くなり、うつ病のいくつかの症状が持続している状態です。
「うつ病」とは言えないまでも、ある程度の心のエネルギーが低下している状態を「抑うつ状態」といいます。
制止症状(psychomotor inhibition)は抑制症状とも呼ばれ、思考のテンポが遅くなったり、返答や話し方がゆっくりになったり、生気が感じられないような低い声になったり、といった状態を指します。
うつ病、とまではいかないが十分「うつ」の状態であった。この時に自分で感じていた症状はざっと以下の通りである。
・仕事に行くことがつらくなる。楽しいとかそういう感情は無く、つらいと
か嫌だと考える事が多くなる。
・研究や読書が出来ない。文字を追って読む・各ことがまともに出来なくな
った。
・不注意。先述の事故を起こしそうな感じ。呼びかけに応答しづらい。
あっという間に休職に入り、最初の1か月はなにもしていなかった。その後、私がある程度戻って今に至る訳だが、それは別日に書き留めたい。
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