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unchanged and changed

 今回の部員日記は経済学部2年の中牟田篤がお送りします。
未熟な文章ですので、平にご容赦くださいませ。
 部員日記もはや一周となりました。週二回更新と部員の減少の影響力をひしひしと感じますね。
 初めに今回のサムネイルはRADWIMPSの「携帯電話」という曲のMVから頂きました。内容と少しばかりリンクするところもあるので、良ければお聴きください。
携帯電話 RADWIMPS MV https://www.youtube.com/watch?v=IPN9mzWT21E


 さて、皆様は古い友人と久しぶりに再会する、成人式のようなイベントで何と言われますか?
大なり小なり違いはあると思いますが、恐らくは大きく「変わったね」と「変わらないね」の二パターンに分かれるのではないでしょうか。
僕の場合、容姿や所属する社会集団への指摘以外は、「変わらないね」と言われることが過半でして、それにはいつも笑って「ありがとう」と返していました。けれども、どこか本心で笑えていない節も抱えていました。
というのも当たり前ですが、「変わったね」、「変わらないね」はどちらも褒め言葉でもあって悪口でもあるからです。
もちろん嫌味で「変わらないね」と言ってくる友人はいないのですが、どうにも保守的で、過去に縋りがちな僕自身の心性を見透かされてしまったようで、手放しで受け取りきれない自分が確かにいました。

 しかしながら、そうした心持ちに転機が訪れるイベントが先日ありました。携帯電話の買い替えとそれに伴ったデータの引継ぎです。
愛用していたiPhone6が寿命を迎えつつあったため、新たにiPhoneSEを購入したのですが、初めはデータの移行がスムーズにいきませんでした。
(原因は中牟田家のiTunesがこじれていたからなのですが、正直今でもよく分かっていません。)
始めて手にした新しい携帯電話は、アプリの並びとホーム画面の画像は以前と同じでした。けれども、かつての写真や音楽などアプリの中のデータは一片も残っていない、なんとも衝撃的なものでした。
例えるなら、新興のゴーストタウンに引っ越したような、そんな恐怖がありました。
そこからデータを取り戻す戦いが始まり、悪戦苦闘を経てなんとか必要なデータは持ち越すことができたのですが、そこで少し意外な発見がありました。
それは、データは人生そのものである、という感覚でした。
僕自身、思い出の写真や昔好きだった音楽はある程度あっても、日常的に振り返るタイプでもないと思っていましたし、実際そうでした。
写真や音楽がなくなってもどうってことない、ないならないでリセットできるみたいでいいじゃないか、そうとさえ思っていました。
しかし、二度と振り返られないかもしれないと悟った時、恐怖に続いて実際に感じたのは、自分の一部が失われていく喪失感と、急いで何とかしないといけないという焦燥感でした。データを取り戻す戦いが、不思議なことにも、アイデンティティを取り戻す戦いに様変わりしていたのでした。

 データと言うと無機質な印象ですが、ここでは過去や記憶、思い出、そういった、時間軸で今より後ろにある非物質的なもの全般、に同じ価値があると思います。
そう考えてみると、「死者は生者の記憶の中に生き続ける」といった良くある文言や、ピンポイントで言えば「誰かの記憶に残るような人生をお薦めします」といった某バンドの曲の歌詞にも、時間軸こそ違いますが、きっと同じことが表れているのでしょう。
今ではない過去や未来の、非物質的なものの価値。それらは目で分からなくて、手で触れられないけれども、僕が想像する以上に大きなものなのだと漸く気付きました。

 翻って、冒頭の話に戻りますと、やはり過去は縋るものではありません。似たようなことを前回も書いた気がしますが、昔を懐かしんで何か良いことはあるかと言えばないのです。
ただ、僕は今回の経験で、人は過去に生かされている、という認識を持ち始めました。
過去の思い出で空腹は満たされませんが、昨日までの人生で、僕らの心と身体が養われてきたのでしょう。
そう捉え直せられるなら、「変わらないね」という言葉も、自分が今まで人生を真っすぐ積み上げてきた証のように、聞こえるかもしれません。

 僕もいずれ慶應義塾を卒業し、部に属している現在が過去となり、社会人になることでしょう。
色んな人の話を聞く限り、きっと嫌なこともたくさんあるでしょう。嬉しいことよりも、悲しいことや辛いことの方が多かったりするかもしれません。
恐らく僕がそうなった時、部員の皆様には、僕から、飲みに行かないか、ご飯に行かないか、という突然のLINEや、突然の電話、仮にこのご時世が長く続くとするなら、zoomのURLだけが届く日があるかもしれません。
でもそんな少し無礼なことがあっても、もしスケジュールが空いていた暁には、寛大な心で是非とも傷付いた僕に付き合ってあげてください。
そして、僕の姿を見るなり言ってやって下さい。変わらないねって。
そしたら僕も自然と笑って、何か、言う。