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怪異蒐集

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「眠らない猫と夜の魚」に登場する大学生たちが収集した怪異話。 だいたい2,000字前後。ひまつぶしにどうぞ。
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#怪異蒐集

怪異蒐集 『𡚴(やまめ)』

■話者:Tさん、組合員、30代 ■記述者:八坂亜樹  森林組合に所属するTさんは、日常的に山に入って現状調査や測量を行っている。山ではビニールテープやペンキで木に印がつけられていることがある。多くは林業関係者のものだが、登山者や狩猟関係者のもの、中には一般人がつけた山菜等の目印もある。だが稀に、どれとも判別できないものもあるそうだ。  組合で働き始めて間もないころ、Tさんは測量のために同僚と山に入った。しかし作業を始めてすぐ測量機器が故障してしまい、代替器を取りに事務所に

怪異蒐集 『母のメモ帳』

■話者:Sさん、看護師、20代 ■記述者:黒崎朱音  Sさんの母は物忘れが多い人で、いつもメモ帳にメモをしていた。だから母の姿は、メモ帳とセットで憶えている。  Sさんの家は母子家庭で、母はパートを掛け持ちしながらSさんを育ててくれた。早く母に楽をさせてあげようと、Sさんが看護師として働き始めた矢先、母が倒れた。進行性の癌で、わかったときには手遅れだった。ずいぶん前から痛かったはずだが、我慢していたらしい。  入院して1ヶ月と経たないうちに、母は息を引き取った。それから葬

怪異蒐集 『七めぐり』

■話者:Kくん、小学生、10代 ■記述者:火野水鳥  Kくんが小学生のとき、家にミィという白猫がいた。腹を空かせてミィミィ鳴いているときに餌をやったら居着いてしまった、半野良の猫だった。  小学五年の夏休み、Kくんは暇になった。皮膚の病気を患って、日中あまり外に出れなかったからだ。外を遊び回る友人を羨みながら、ひとりで家で遊んでいたが、やがてそれにも飽きて、仕方なく宿題に手を付けた。どうにかして楽に自由研究を終わらす方法はないか、と考えていると、あるアイデアが浮かんだ。

怪異蒐集 『神様の視線』

■話者:Sさん、会社員、30代 ■記述者:黒崎朱音  旅行と写真が趣味のSさんは、旅行先で撮った何枚かの写真を、部屋の机の前に飾っている。先日も山あいの温泉宿を訪れて、道中に山の写真を何枚か撮った。そのうちの一枚を、机の前に飾った。  写真を飾ってしばらくしてから、部屋の中で視線を感じるようになった。 視線はなんとなく、机の前に飾った写真の辺りからしているような気がする。中でも、先日撮ったばかりの山の写真が妙に気になった。試しに山の写真を外すと視線は止み、再び飾ると視線を

怪異蒐集 『厄数』

■Eさん、研究員、40代 ■記述者:八坂亜樹  Eさんは小学生の頃、クラスで苛めにあっていたことがある。苛められていた友人のRを庇ったことで、代わりに標的にされたのだ。そのRがEさんを苛める側に回ったのが、何より辛かった。  家族に気づかれたくなくて、放課後はまっすぐ家に帰らず、裏山の廃神社で時間を潰すようになった。昼間でも暗く気味が悪いが、誰も来ない場所なので安心できた。  ある日、社殿の前に古い木箱が置かれていた。  上に丸穴があり、側面に「御籤」と書いてある。中には

怪異蒐集 『誑(きょう)』

■話者:Nさん、大学生、20代 ■記述者:八坂亜樹  Nさんの実家は、山岳信仰の残る山奥の集落にある。  集落には屋敷神を祀る家が多く、N家にも「ミ様」と呼ばれる祠があった。「ミ」というのは頭文字らしく、正式な名前はNさんも知らないという。祠はいつも鉄の扉で閉ざされていて、中を見たことはなかった。  Nさんには年の離れた二人の兄と二つ下の弟がいて、全員の名前に漢数字が入っている。それ自体は珍しくないが、長男から一、二と昇順になっているわけでなく、バラバラな数字が与えられて

怪異蒐集 『かんのり』

■話者:Nさん、研究員、40代 ■記述者:八坂亜樹  小学生の頃、Nさんは物置のように狭く粗末なアパートに住んでいた。 父はなく、母と二人の生活はいつも苦しかった。ただ同然の家賃も払えず、隣の一軒家に住む大家の嫌味に頭を下げて耐える、そんな母の姿が今も忘れられないそうだ。  ある日、Nさんは白い子犬を見つけた。子犬は側溝の中で屁泥に埋まり、小さな体を震わせてヒィヒィと鳴いていた。アパートは犬猫禁止で、もとより飼える余裕はない。しかしNさんは子犬を連れ帰った。惨めな姿が自分

怪異蒐集『山で目を塞ぐ』

■話者:Sさん、農業、80代 ■記述者:火野水鳥  昭和のはじめ頃に、Sさんが体験した話。  Sさんの家は農業を営んでおり、山にいくつか畑を持っていた。当時小学生だったSさんは、祖父の手伝いで山に入ることが多かった。  その日は台風が近づいているせいで、朝から強い風が吹いていた。山の畑に収穫待ちの野菜があったので、台風で痛む前にと、祖父とSさんは急いで山に向かった。  吹き付ける風の中を、祖父の後について山を登る。明け方の雨のせいで、足元はぬかるんでいた。足を取られな

怪異蒐集 『床下の穴』

■話者:Mさん、大学生、20代 ■記述者:黒崎朱音  Mさんが、高校生の時に体験した話。  みたま市には『首吊り屋敷』という、いかにもな名称の心霊スポットがある。ここでは過去に父親が家族を殺害後、首を吊って死んだらしい。    ……という話になっているが、実際にここで一家心中や自殺が発生した記録はない。『らしい』という噂だけが流れて、何でもない場所が心霊スポットになってしまっているのだ。  だが、若者の間では怖い噂の的になっていて、他にも、二階の窓から赤い目の人が覗