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怪異蒐集

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「眠らない猫と夜の魚」に登場する大学生たちが収集した怪異話。 だいたい2,000字前後。ひまつぶしにどうぞ。
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#小説

怪異蒐集 『呪い(まじない)の始末』

■話者:Aさん、中学生、10代 ■記述者:火野水鳥  Aさんの中学で霊現象が多発した時期があった。  霊を見る、声を聞く、憑かれる、怪我をするなど現象は多岐に渡り、目撃される霊も、血塗れの子供、赤い目の女、首がない地蔵などバリエーション豊かだった。今までも、どこそこのトイレの個室で子供の霊を見たといった話が流行ったことがある。しかし今回は体験者の数が桁違いだった。普段は幽霊を小馬鹿にしている生徒まで霊を目撃するに至って、「これは本当かもしれない」というざわついた空気が学校

怪異蒐集 『ヒトガタの家』

■話者:Eさん、家業手伝い、30代 ■記述者:黒崎朱音  旧市街に住む、Eさんの話。  中学生のころ、Eさんはよく旧市街にある公園で時間を潰していた。母親が勉強しろと煩く、家にいたくなかったからだ。  ある日、公園の前で友人のNさんに会った。そのNさんが妙なことを言った。夕方にヒトガタを持ってこの辺りを歩くと、変な場所に迷い込むことがあるという。 「ヒトガタってなんなん?」  そう聞くと、Nさんは折り紙で折った妙な形の人形を渡してきた。Eさんは馬鹿らしいと思いながらも、

怪異蒐集『集合写真』

■話者:Rさん、会社員、30代 ■記述者:黒崎朱音 「ここで集合写真を撮らないでください」  みたま市にある火葬場の待合室には、そう書かれた一風変わった張り紙がある。理由は不明だが、この場所で集合写真を撮ると、知らない人物が映り込んでしまうという噂があった。  Rさんは高校生のときに、葬儀のためにこの火葬場を訪れたことがある。大叔母が亡くなったからだ。100歳近くになってからの逝去で、大往生と言ってもよかった。そのせいか葬儀も暗い雰囲気はなく、集まった親類が思い出話に花

怪異蒐集『猫の番』

■話者:Nさん、自営業、40代 ■記述者:八坂亜樹  Nさんが大学生のときに体験した話。  当時、Nさんは県外の大学に進学していたが、長く病床に伏せていた祖父が亡くなり、葬儀のためにみたま市に戻ってきた。  生前の祖父にまつわる良い思い出はあまりない。一代で会社を興し、一線を退いてからもなお会社の運営に深く関わっていた祖父は、盆や正月などの家族が顔を合わせる行事にも現れないことが多く、幼かった頃からどこか近寄りがたい印象があった。しかし、治る望みのない病気が発覚してから

怪異蒐集 『クロネコ様』

■話者:Cさん、自営業、30代 ■記述者:火野水鳥  Cさんが通っていた小学校でクロネコ様が大流行したことがあった。  クロネコ様というのは、いわゆるこっくりさんで、みたま市では『クロネコ様』という名称で行われることが多い。休み時間になると誰もが仲間内で集まって、他愛のないことを質問したものだった。  その頃、Cさんはある女子グループに属していた。そのグループのリーダーはMちゃんと言って、街で大きな商店を経営する両親と、小学生にしては大人びた容姿を持った、クラスの女王

怪異蒐集 『襖越しに猫と話す』

■話者:Yさん、会社員、30代 ■記述者:八坂亜樹  湯田沼に住むYさんの体験談。  Yさんは両親から相続した一軒家に一人で暮らしている。複数の部屋を使うと掃除が面倒なので、Yさんは家にいるときの大半を一階の居間で過ごしていた。    居間は狭い庭に面していて、垣根越しに隣家の縁側と和室が見えた。和室は隣家に住むおばあさんの部屋のようで、縁側に座って繕い物をするおばあさんの姿を何度か見た。隣家はおばあさんとその息子夫婦の三人暮らしで、日中はおばあさんが一人で留守番をしてい

怪異蒐集 『願いを欲しがるもの』

■話者:Nさん、大学生、20代 ■記述者:火野水鳥  Nさんが中学生の頃に体験した話。  三珠山の麓の森の中に、それほど大きくない湖がある。Nさんの通っていた小学校で、この湖に関する噂が流行ったことがあった。  湖の中央には人が数人立てる程度の小さな島があって、木でできた小さな祠が建てられている。湖の岸からその祠に向かって願い事を叫ぶと願いが叶う、というのが噂の内容だった。  ただし、いつも叶うというわけではない。祠の陰から誰かが顔を出すことがあって、そのときに