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怪異蒐集

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「眠らない猫と夜の魚」に登場する大学生たちが収集した怪異話。 だいたい2,000字前後。ひまつぶしにどうぞ。
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2024年5月の記事一覧

怪異蒐集 『神様の視線』

■話者:Sさん、会社員、30代 ■記述者:黒崎朱音  旅行と写真が趣味のSさんは、旅行先で撮った何枚かの写真を、部屋の机の前に飾っている。先日も山あいの温泉宿を訪れて、道中に山の写真を何枚か撮った。そのうちの一枚を、机の前に飾った。  写真を飾ってしばらくしてから、部屋の中で視線を感じるようになった。 視線はなんとなく、机の前に飾った写真の辺りからしているような気がする。中でも、先日撮ったばかりの山の写真が妙に気になった。試しに山の写真を外すと視線は止み、再び飾ると視線を

怪異蒐集 『厄数』

■Eさん、研究員、40代 ■記述者:八坂亜樹  Eさんは小学生の頃、クラスで苛めにあっていたことがある。苛められていた友人のRを庇ったことで、代わりに標的にされたのだ。そのRがEさんを苛める側に回ったのが、何より辛かった。  家族に気づかれたくなくて、放課後はまっすぐ家に帰らず、裏山の廃神社で時間を潰すようになった。昼間でも暗く気味が悪いが、誰も来ない場所なので安心できた。  ある日、社殿の前に古い木箱が置かれていた。  上に丸穴があり、側面に「御籤」と書いてある。中には

怪異蒐集 『誑(きょう)』

■話者:Nさん、大学生、20代 ■記述者:八坂亜樹  Nさんの実家は、山岳信仰の残る山奥の集落にある。  集落には屋敷神を祀る家が多く、N家にも「ミ様」と呼ばれる祠があった。「ミ」というのは頭文字らしく、正式な名前はNさんも知らないという。祠はいつも鉄の扉で閉ざされていて、中を見たことはなかった。  Nさんには年の離れた二人の兄と二つ下の弟がいて、全員の名前に漢数字が入っている。それ自体は珍しくないが、長男から一、二と昇順になっているわけでなく、バラバラな数字が与えられて

怪異蒐集 『かんのり』

■話者:Nさん、研究員、40代 ■記述者:八坂亜樹  小学生の頃、Nさんは物置のように狭く粗末なアパートに住んでいた。 父はなく、母と二人の生活はいつも苦しかった。ただ同然の家賃も払えず、隣の一軒家に住む大家の嫌味に頭を下げて耐える、そんな母の姿が今も忘れられないそうだ。  ある日、Nさんは白い子犬を見つけた。子犬は側溝の中で屁泥に埋まり、小さな体を震わせてヒィヒィと鳴いていた。アパートは犬猫禁止で、もとより飼える余裕はない。しかしNさんは子犬を連れ帰った。惨めな姿が自分