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怪異蒐集

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「眠らない猫と夜の魚」に登場する大学生たちが収集した怪異話。 だいたい2,000字前後。ひまつぶしにどうぞ。
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2023年2月の記事一覧

怪異蒐集 『襖越しに猫と話す』

■話者:Yさん、会社員、30代 ■記述者:八坂亜樹  湯田沼に住むYさんの体験談。  Yさんは両親から相続した一軒家に一人で暮らしている。複数の部屋を使うと掃除が面倒なので、Yさんは家にいるときの大半を一階の居間で過ごしていた。    居間は狭い庭に面していて、垣根越しに隣家の縁側と和室が見えた。和室は隣家に住むおばあさんの部屋のようで、縁側に座って繕い物をするおばあさんの姿を何度か見た。隣家はおばあさんとその息子夫婦の三人暮らしで、日中はおばあさんが一人で留守番をしてい

怪異蒐集 『願いを欲しがるもの』

■話者:Nさん、大学生、20代 ■記述者:火野水鳥  Nさんが中学生の頃に体験した話。  三珠山の麓の森の中に、それほど大きくない湖がある。Nさんの通っていた小学校で、この湖に関する噂が流行ったことがあった。  湖の中央には人が数人立てる程度の小さな島があって、木でできた小さな祠が建てられている。湖の岸からその祠に向かって願い事を叫ぶと願いが叶う、というのが噂の内容だった。  ただし、いつも叶うというわけではない。祠の陰から誰かが顔を出すことがあって、そのときに

怪異蒐集 『イミコサマ』

■話者:Aさん、無職、80代 ■記述者:黒崎朱音  異縄(いなわ)地区に住むAさんの、子供の頃の話。  異縄地区の北端には三珠山へ登る石段があり、登った先に「異縄神社」という古神社がある。その裏に、何を祀っているかわからない古い社があった。誰かが拝むところを見たことはなかったが、社の前にはいつも新しい野花が供えられていた。  戦後まもなくで、物がない時代。遊びの場はもっぱら山だった。その日もAさんは友人たちと、異縄神社でかくれんぼをして遊んでいた。  神社の敷地は狭く