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夜話

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みたま市という架空の街で怪異を収集する大学生たちが体験した、恐怖譚・日常譚。10,000〜15,000字程度の中長編が多いので、お時間のある際にどうぞ。 ※「眠らない猫と夜の魚」…
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2023年3月の記事一覧

夜話 『神様が眠る時間』

 一週間のうちで一番やる気が出ない、木曜日。  読みかけのミステリを開いてみたものの、文章がさっぱり頭に入ってこなくて、さっきから同じページを何度も読み返している。向かいの水鳥はヘッドホンで両耳を塞いで、開いたノートの上に突っ伏していた。ヘッドホンを片っぽ持ち上げると、JUSTICEのStressが大音量で流れていた。 「この曲でよく寝れるな」 「えげつない低音聞いてると眠くならない?」 「わかるけど悪夢見そう」  私と水鳥はたいていの木曜がそうであるように、大学の図書

夜話 『夜を泳ぐ』

夜明け前。 真夜中と朝のちょうど中間くらいの時間。 空の碧が一番濃くなる時間に、街を歩く。 夜の街を歩くのが好きだ。 目的はなくて、ただ単に、夜を歩くことが好きなだけ。 寝静まった人気のない商店街を覗いたり、 コンビニのガラスに並んだ雑誌の表紙を眺めたり、 河川敷に座って対岸の灯を眺めたり。 そんな風に寝静まった街並をふらふらしながら、 夜の断片を拾い集める。 歩く人なんてほとんどいない。 すれ違うのは猫ばかり。 真っ黒な影絵のような街。 誰もいない交差点で点滅する

夜話 『埋める』

 気がつくと、夜の森の中に立っていた。  あたりには背の高い木々が等間隔に並んでいる。夜空は天窓のように遥か高いところにあって、そこから覗き込むような満月が見えた。うっすらと霧が立ち込めているせいか、視界は青く煙っている。森というより、湖の底にいるみたいだ。遠くから耳鳴りのように聞こえてくる虫の声は、金属の鱗を持った魚たちが立てる、警告のように聞こえた。  ――ザクッ。  そう遠くない場所で、尖った音がした。茂みの向こうにちらりと動くものが見える。木陰からそっと覗き込む