「北園現代史」劇場公開に寄せて
※このnoteは2021年12月12日、東京ドキュメンタリー映画祭2021で本作を上映していただいた後に行った舞台挨拶に多少の修正を加えたものです。
皆さん、初めまして。「北園現代史」監督の中村眞大と申します。(本日は寒い中、劇場まで足を運んでくださりありがとうございます。)今日は映画の舞台となった北園高校の自由について、作品では描けなかった部分の補足と、私が今感じていることの二つを簡単にお話ししたいと思います。
作品の中でも簡単にご紹介しましたが、北園高校とは、東京の板橋にある都立高校で、自由な校風が戦後すぐから70年以上も受け継がれているというかなり珍しい高校です。教育ジャーナリストの小林哲夫さん( https://www.amazon.co.jp/%25E5%25B0%258F%25E6%259E%2597-%25E5%2593%25B2%25E5%25A4%25AB/e/B004LRE3JC?ref=sr_ntt_srch_lnk_5&qid=1639421108&sr=1-5 )によると、1948年に新制高校の制度ができてから、ずっと今まで制服や校則がない自由な状態を維持し続けてきた高校というのは、長野県松本深志高校と栃木県立宇都宮女子高校、それから北園高校の3つだけなんだそうです。他の自由な高校は、学生運動や校則改革などがきっかけで途中で自由になったりとか、逆に最近になって制服が定められちゃったりとか、そもそも平成の時代になってから開校したりとかでずっと何十年も自由な状態を維持してきたわけではないんだそうです。そういった意味では北園は奇跡的な高校と言っても良いと思うんですが、最近になって映画で描かれていたような規制強化という動きがあって、簡単に言えばそれに「抵抗」するためにこの映画を作ったという流れになります。
ただ、もちろん映画の製作を始めた当初は、劇場で公開していただけるなんてことは夢にも思っていなかったですし、そもそもどういった形で公開しようかということも決まっていませんでした。もしできたら北園高校の視聴覚室を借りて上映会でも開けたらなとも考えていたのですが、よくよく考えてみれば、私たちのような有志が部屋を借りるには生活指導部の許可が必要だということと、それから全校に向けて公開する作品は事前に先生方に見せないといけないという習わしがあって。で、取材も難しい生活指導部にこんなものを見せたらどうなってしまうのかというのは火を見るよりも明らかだったのと、コロナの感染拡大という事情もあり、とりあえず校内での上映会開催というのはやめて「誰にも検閲されることなく自由に表現できるツールとして、SNSを活用しよう!自分たちが描いたままの作品を世の中に見せるためにSNSに投稿して公開しよう」と決めました。公開後は幸いにも多くの評価を頂きまして、新聞やテレビなどのメディアにも取り上げて頂いて、結果的には最後に劇場でも公開していただけることができました。拡散などしてくださった皆様にはこの場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。
ただ、正直な話をしますと、今回劇場公開ということで作品自体が評価されたということはすごく嬉しくて有難いことではあるんですけども、残念ながら両手をあげて素直に喜べるといったような状態ではないということも事実です。なぜかと言いますと、最初に上映された三浦アーク監督の作品(「アーク&マヤ : All Mixed Up」 https://www.youtube.com/watch?v=NWeg34noE0Y )もそうだと思うのですが、「北園現代史」は制作者である私たちが作品の当事者も兼ねているという作品なんです。つまり、舞台である北園高校に、今はもう卒業してしまいましたが、私もいたということで、北園高校の今後についてこれからもずっと気にしていく責任が私にはあると感じているのです。
それで、肝心の北園高校が作品が公開された後にどうなったのか?ということなんですけども、正直な話、頭髪指導の問題が根本的に解決したかと言うと残念ながらそうではありません。ただ、公開された後も生徒会の人たちが解決に向けてすごく頑張ってくださったりとか、普通の生徒の人たちも自由について考えてくれたりとか、あとは生活指導部の先生方も今年度からメンバーがかなり入れ替わって「自由に対する考え方は違うかもしれないけれど、お互いの考えを一緒に話していこう」という考えの先生が部の主任になられたりして、かなり風向きは良くなっていると思います。ただ、残念ながらまだ根本的な解決には至っていないというのが現状です。
それからもう一つ、この作品を公開したことによって、作品には何の関係もない、私が過去に所属していた映像研究部という部活の部員たちが巻き添えを食らってしまったと言いますか、映像を作っている部活ということで先生方からの風当たりが強くなってしまい、活動の制約を余儀なくされてしまったという事件もありました。細かい経緯はここではお話しできませんが、結果的には大事な後輩を巻き込んでしまったということもあって、すごく心に引っかかっている部分ではあります。
今までは「北園現代史」という作品そのものをすごく盛り上げていったわけなんですけども、今申し上げたような気持ちもあり、いったんここで作品自体は置いておいて、卒業生として北園高校のために何かできることはないかということと、もう一つ、今校則の問題がすごく全国的に盛り上がりを見せていて、NHKなどでも特集されているほどなのですが、「校則を変えたい」って思っている全国の中高生だったり、北園と同じように「自由な校風を維持していきたい」って思っている中高生のために何かできることはないかということも自分の中で考えていろいろと行動していきたいなというふうに思っています。これは決して引退宣言というわけではなくて、今まで「北園現代史」のために使ってきたエネルギーをもっと他のことにも使ってみたいと考えているのだなと理解していただけると幸いです(今後も上映会のお話などいただいた場合にはもちろん誠意を持って対応させていただきます)。
今後も、詳しい情報は「北園現代史」製作委員会の公式Twitter( https://twitter.com/ktznmovie73 )や、私、中村眞大個人のTwitter( https://twitter.com/NakamasaTube )などで発信していきたいと思っておりますので、ぜひそちらもチェックしていただけたらなと思います。いろいろと試行錯誤しながらこれからも頑張っていきたいと思っておりますので、野次馬のような感覚で見守っていただけたら嬉しいです。
改めまして、今までありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願い致します。
2021年12月14日
「北園現代史 ~自由の裏に隠された衝撃の実態~」監督(北園高校73期卒)
中村眞大
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